朱塗りの摂社に祀られた母神

知立神社の拝殿の東側に、南を向いて建つ小さな社殿がある。全体がほぼ朱色に塗られたこの建物が、摂社の親母神社(うばがみしゃ)である。愛知県知立市の知立神社の境内にあり、祭神は豊玉姫命。本殿の主祭神である鸕鶿草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと)の母にあたる神で、安産の神として信仰を集めてきた。

造営は明治期、西暦でいえば一八六八年から一九一二年の間にあたる。形式は一間社流造、屋根は檜皮葺で、正面と両側面の三方に縁がめぐらされている。社殿としては小ぶりだが、つくりは丁寧である。

境内社の多くは脇に置かれた小さな祠程度のものだが、親母神社は一社の社殿として整った規模と仕上げを持つ。摂社としては規模が大きく、本格的な形式をとっている点が、後の登録につながった。

登録有形文化財としての位置づけ

親母神社は、平成二十六年(二〇一四年)四月に国の登録有形文化財となった。登録という制度は、国宝や重要文化財を指定する従来の枠組みとは別に設けられたもので、国土の歴史的な景観に寄与する幅広い建造物を、より緩やかな規制のもとで保護することを目的としている。親母神社は、この景観への寄与という基準によって登録された。指定と登録は保護の段階が異なる点に注意したい。

評価の支えとなっているのは、小規模ながら本格的な細部の仕事である。軒は二軒繁垂木とし、柱の頂部は木鼻を付けた頭貫で固め、実肘木付きの三斗で屋根の荷重を受ける。妻飾には虹梁を渡し、その上に大瓶束を立てる。装飾は控えめだが、虹梁の中備に置かれた蟇股には、立体感のある彫刻が丁寧に施されている。

知立神社の主要な社殿の多くは、同じ二〇一四年に一括して登録された。親母神社も、その一連の社殿群に連なる一棟である。

見どころ

まず目に入るのは色である。社殿全体が朱に塗られ、加えられた装飾は少ない。そのため、視線は表面の飾りよりも建物の構造そのものへ向かう。近くに並ぶ簡素な末社と見比べれば、規模と仕上げの違いがはっきりと分かる。

次に木組みを見たい。組物を追って軒先まで視線を上げ、正面の虹梁の上に置かれた彫刻に注目する。向拝の柱は几帳面取りの角柱で、虹梁の端の側面には木鼻が付く。いずれも派手な意匠ではない。足を止めて数分眺めることで、はじめて見えてくる種類の細工である。

親母神社は本殿前の拝殿のすぐ脇に位置する。そのため、本殿の主祭神とその母神とを、わずか数歩のうちに続けて参拝できる。境内の構成そのものに、母と子の神を並べて祀るという静かな筋が通っている。

知立神社と周辺

親母神社は、知立神社全体を訪ねるなかで見るのが自然である。知立神社は三河国の二の宮であり、かつては池鯉鮒大明神(ちりゅうだいみょうじん)と称された。社伝によれば、その創祀は第十二代景行天皇の時代にさかのぼり、日本武尊が東国平定の折に当地で祈ったと伝わる。ただしこれは文献で裏づけられた歴史というより、社伝に属する話である。

社殿は尾張造と呼ばれる配置をとる。これは隣接する尾張地方に固有の社殿配置で、三河の地ではめずらしい。拝殿をはじめとする主要な建物の多くが、二〇一四年にまとめて登録有形文化財となっている。

境内で最も格の高い建造物は、二層の多宝塔である。こちらは重要文化財に指定されている。永正六年(一五〇九年)に近隣の豪族によって再建されたもので、明治初年の廃仏毀釈で多くの塔が取り壊されたなか、神社の境内に残った全国的にも数少ない例として貴重である。

知立市は、東海道の宿場である池鯉鮒宿を中心に発展した町でもある。その歴史は、毎年五月二日・三日の知立まつりで今も生きている。祭礼では高さ約七メートルの山車が神社へと曳き出され、山車の上で演じられる人形浄瑠璃とからくりは、ユネスコの無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」に記載されている。知立神社へは、名鉄名古屋本線の知立駅から徒歩でおよそ十分から十二分。駐車場も限られた台数が用意されている。

Q&A

Q親母神社は国宝ですか。
Aいいえ。親母神社は登録有形文化財です。国宝や重要文化財の指定とは別の保護区分で、規制は比較的緩やかです。同じ境内では、二層の多宝塔がより格の高い重要文化財に指定されています。
Qどのような神が祀られ、何の神として知られていますか。
A豊玉姫命が祀られています。神話では本殿の主祭神の母にあたる神で、安産の神として信仰されてきました。安産を願って参拝する人が少なくありません。
Q社殿の内部に入れますか。
Aいいえ。多くの社殿と同様、外から拝観する形になります。境内は一般に開かれており、正面まで近づいて組物や彫刻を間近に見ることができます。
Qいつ建てられたのですか。なぜ正確な年が示されないのですか。
A明治期、一八六八年から一九一二年の間に建てられました。国の記録には単独の年ではなく時代区分が記されており、竣工の正確な年は公的な資料には残されていません。
Qどのように行けばよいですか。あわせて計画したい行事はありますか。
A名鉄名古屋本線の知立駅から徒歩でおよそ十分から十二分です。駐車場は限られた台数があります。五月二日・三日に訪れれば、ユネスコ無形文化遺産にも記載された知立まつりの山車文楽とからくりを見ることができます。

基本情報

名称知立神社摂社親母神社(ちりゅうじんじゃせっしゃうばがみしゃ)
所在地愛知県知立市西町神田12
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録年月日 平成26年(2014年)4月25日
時代明治期(1868年~1912年)
構造・形式一間社流造、檜皮葺、建築面積約8.5平方メートル
祭神豊玉姫命(安産の神として信仰)
所有者宗教法人知立神社
アクセス名鉄名古屋本線・知立駅から徒歩約10~12分/駐車場あり(台数限定)
公開状況境内は一般公開。社殿は外観の拝観

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)知立神社摂社親母神社
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009972
文化遺産オンライン(国立文化財機構)知立神社摂社親母神社
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/286129
知立神社 公式サイト「知立神社について」
https://chiryu-jinja.com/about.html
知立市「知立の山車文楽とからくり」
https://www.city.chiryu.aichi.jp/soshiki/kyoiku/bunka/gyomu/2/1/1519445237044.html
文化遺産オンライン「知立の山車文楽とからくり」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/221904

最終更新日: 2026.06.17