奥村家住宅渡り廊とは

犬山城下町の東寄り、瓦屋根の町家が並ぶ一画の奥に、南北へのびる木造平屋の通路がある。主屋の南東端と背後の米蔵をつなぐこの建物が、奥村家住宅渡り廊である。明治期(1868〜1911年)の建築で、建築面積はおよそ66平方メートル、瓦葺の切妻屋根をのせる。奥村家は犬山で呉服を商った豪商で、屋敷は代を重ねるうちに、主屋・門・蔵などが一筋の表構えの奥へ集まる構成へと広がっていった。渡り廊はその一棟にすぎない。それでいて、規模のわりに引き受ける役割は多い。

表側の主屋は、天保13年(1842年)の犬山大火の直後に再建されたと伝わる。渡り廊はそれより新しく、明治32年(1899年)の大規模な改修を含む、屋敷の拡張と改造の時期に加えられた部分にあたる。

登録の理由と位置づけ

渡り廊は登録有形文化財(建造物)である。登録有形文化財は平成8年(1996年)に設けられた制度で、重要文化財などの「指定」よりも一段ゆるやかな保護を建物に与える。所有者は大きな改変の前に届け出を行えばよく、現役で使われ続ける建物に向いた仕組みである。平成11年(1999年)8月、奥村家の9棟がまとめて登録され、渡り廊もそのひとつとして、造形の規範となっている点が評価された。

渡り廊の価値は、単独の見どころよりも、屋敷全体に対する働きにある。居住部分と、蔵などの作業・収納部分とを結び、その配置や寸法、細部の処理によって、ばらばらの建物の集まりではなく一軒の商家としてのまとまりを支えている。ほかの棟とあわせて見ると、犬山の裕福な商家が表通りの奥の深い空間をどう組み立てたかがうかがえる。

見どころ

通路としての建物でありながら、渡り廊はいくつもの役目を一身に引き受けている。井戸屋形を兼ねる造りで、内部に井戸を囲い込む。西面には壁を設けず吹き放ちとして、庭側へ開く。東側の南半にはかつて使用人室と便所が設けられ、その東面の腰には煉瓦が貼られている。煉瓦は明治の数十年のあいだに一般の和風建築へ入り込んだ材料であり、この建物が時代の産物であることを示している。米蔵と接するところでは、隣の道具蔵の北面の庇と一体になり、敷地の奥で三つの要素が組み合う。

細い一棟にこれだけの機能が詰め込まれている点が、この建物の面白さである。一本の通路が部屋から部屋へ人を導き、水を汲み、使用人を住まわせ、蔵を屋敷の構成に結びつけている。なお、建物が料理店になってからは、もとの使用人室・浴室・便所の付近が改装されており、家人が暮らしていた当時の姿とは一部異なっている。

屋敷全体と周辺

渡り廊は、奥村家の屋敷全体のなかに置いて見るとよく分かる。登録された9棟は、主屋、棟門、米蔵、金庫蔵、道具蔵、離れ、納屋、渡り廊、そして控柱を備えた漆喰塗の高塀である。このうち主屋や蔵などは、屋敷に入らずとも表通りから眺めることができる。

庭にも小さな見どころがある。銀明水と呼ばれる井戸は木曽川の伏流水を水源とし、織田信長が立ち寄って飲んだとも伝わる。ほかに、水滴の音が琴に似て響く水琴窟、隠れキリシタンにちなむ形の灯篭、長寿を表して亀を重ねて彫った蹲(つくばい)などが残る。

犬山の町そのものも、ゆっくり歩く価値がある。屋敷は名鉄犬山駅から東へ徒歩5分ほど、旧城下町の東の端に近い。木曽川を見下ろす高台には、現存する木造天守として日本最古級とされる犬山城が建つ。

実用的な注意点として、奥村家の屋敷はかつてのように無料で公開される歴史的建物ではない。現在はフレンチの料理店として営まれ、離れには別に鉄板焼の部屋もあるため、渡り廊を含む内部を見られるのは、おもに食事を予約した客に限られる。予約をすすめたい。昼は予約優先、夜は完全予約制で、定休日も設けられている。建物を見たいだけであれば、表の構えや、外から見える登録建物を眺めることはできる。

Q&A

Q奥村家住宅は公開されていますか。
A一般的な博物館としては公開されていない。屋敷は現在フレンチの料理店と鉄板焼の部屋として使われており、内部を見られるのはおもに食事を予約した客である。表通りに面した建物は外から眺められる。
Q渡り廊とは何ですか。
A建物どうしをつなぐ屋根付きの通路をいう。ここでは主屋と背後の蔵をつなぎ、通り抜けだけでなく、井戸を囲い、使用人を住まわせるなど複数の役目をもたせて建てられた。
Q国宝や重要文化財ですか。
Aいいえ。登録有形文化財で、価値ある建物に与えられる比較的ゆるやかな保護の区分である。奥村家の9棟がまとめてこの区分にあり、平成11年(1999年)に登録された。
Q渡り廊はいつごろの建物ですか。
A明治期、およそ1868〜1911年の建築で、明治32年(1899年)の大改修を含む屋敷の拡張期にあたる。表側の主屋はより古く、天保13年(1842年)の大火の直後に再建されている。
Q行き方を教えてください。
A名鉄犬山駅から徒歩5分ほど、旧城下町の東寄りにある。犬山城や城下町の通りも歩いて回れる範囲にある。

基本情報

名称奥村家住宅渡り廊(おくむらけじゅうたくわたりろう)
所在地愛知県犬山市大字犬山字東古券395
区分登録有形文化財(建造物)
登録平成11年(1999年)8月23日/告示9月7日、登録番号23-0031
時代明治期(1868〜1911年)
員数1棟
構造木造平屋建、瓦葺、建築面積約66平方メートル
現況料理店(旧奥村邸)の一部
アクセス名鉄犬山駅から徒歩約5分

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)奥村家住宅渡り廊
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001273
文化財ナビ愛知(愛知県)奥村家住宅
https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1043-1051.html
犬山市 文化財
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001063/1001068.html
フレンチ奥村邸(旧奥村邸)公式サイト
https://www.okumuratei.jp/example/

最終更新日: 2026.06.17