嘉永5年創業、秋田市大町の酒蔵に残る5件の土蔵

新政酒造は、秋田県秋田市大町にある嘉永5年(1852年)創業の酒蔵で、敷地に建つ愛醸蔵・明醸蔵・吟醸蔵・旧感恩講東籾蔵及び米蔵・旧感恩講西籾蔵の5件が、平成26年(2014年)4月25日にそろって国の登録有形文化財に登録された。5件とも土蔵造平屋建の蔵で、文化庁のデータベースでは明治期の建築とされている。

社名の読みは「しんせい」ではなく「あらまさ」である。蔵元の公式サイトによれば、創業者は初代の佐藤卯兵衛で、酒ははじめ地元で「うへえの酒」と呼ばれていた。のちに明治政府が掲げた「新政厚徳」の語から「新政」の名を戴いたという。

新政酒造の名を酒造史に刻んだのは、この蔵のもろみから分離された酵母である。大阪大学の紹介では、昭和5年(1930年)に醸造試験所の小穴富司雄が、5代目佐藤卯兵衛(卯三郎)の蔵から蔵付きの酵母を分離し、それがのちに「きょうかい6号」として全国に頒布された。秋田県酒造協同組合は、いま販売されているきょうかい酵母のなかで最も古いものと紹介している。

仕込蔵3件と旧感恩講の蔵2件

新政酒造の5件は、成り立ちから2組に分けて見るとわかりやすい。

1組目は愛醸蔵・明醸蔵・吟醸蔵の3件で、文化庁はいずれも酒の仕込蔵と解説している。愛醸蔵と吟醸蔵は明治中期(1883〜1897年)の建築とされる。明醸蔵は、データベースの年代欄が「明治20」(1887年にあたる)、西暦欄が「1945」と食い違っており、建築年は定まっていない。

2組目が、名称に「旧感恩講」を冠する東籾蔵及び米蔵と西籾蔵である。感恩講は、文政12年(1829年)に久保田城下の商人、那波三郎右衛門祐生が中心となって開いた救済の団体で、秋田市はこれを日本でも発足の早い社会福祉事業団体と位置づけている。祐生(1772〜1837年)は大町二丁目の生まれで、新政酒造と同じ大町の人である。2件の蔵はどちらも明治後期(1898〜1912年)とされ、文化庁は感恩講の遺構としての価値を解説に書き添えている。蔵がいつ新政酒造の所有になったかは、文化庁の解説には記されていない。

5件の登録番号は05-0200から05-0204まで続き、第77回の登録として同じ日に告示された。登録基準はすべて「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

新政酒造の敷地の配置

文化庁の解説文から位置を拾うと、新政酒造の5件はどれも棟を東西に通し、南から北へ3列ほどに重なって並ぶ。敷地の南東の隅、事務所の隣に建つのが吟醸蔵で、その西に明醸蔵、明醸蔵の北に愛醸蔵が続く。敷地の北辺には旧感恩講の2件が東西に連なり、東寄りに東籾蔵及び米蔵、西寄りに西籾蔵がある。

地番は仕込蔵3件が大町6-71、東籾蔵及び米蔵が6-23、西籾蔵が6-134と分かれるが、文化庁はいずれも同じ敷地のなかの位置として記述している。

5件に共通するのは白い漆喰塗の外壁と、壁の上端を帯状に厚く塗り回した鉢巻である。屋根はいずれも切妻造で、吟醸蔵と旧感恩講の2件は壁から屋根を浮かせて載せる置屋根式の桟瓦葺、明醸蔵だけが鋼板葺となっている。いちばん長いのは総桁行36メートルの東籾蔵及び米蔵、いちばん小さいのは建築面積94平方メートルの吟醸蔵である。

新政酒造の見学と行き方

新政酒造はいまも酒を造っている蔵元で、5件の蔵は作業に使われる敷地の中にある。公式サイトには一般向けの蔵見学の案内が見当たらず、会社概要には蔵でのお酒の直接販売はしていないと明記されている。建物の内部は公開されていないものとして、外観は敷地の外から眺めるにとどめたい。写真は公道から撮り、車や人の出入りを妨げないよう気をつけたい。

秋田県酒造協同組合の案内では、新政酒造の営業時間は平日の午前9時から午後5時までで、土日・祝日と大型連休・お盆・年末年始は休みとなっている。問い合わせ先は新政酒造株式会社、電話018-823-6407。

JR秋田駅の西口から歩いて約22分、駅からの直線距離は約1.5キロメートルである。蔵元は所在地を「大町6丁目2番35号」と案内している。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):新政酒造吟醸蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009879
国指定文化財等データベース(文化庁):新政酒造明醸蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009880
国指定文化財等データベース(文化庁):新政酒造愛醸蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009881
国指定文化財等データベース(文化庁):新政酒造旧感恩講東籾蔵及び米蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009882
国指定文化財等データベース(文化庁):新政酒造旧感恩講西籾蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009883
秋田市公式サイト:市史関連刊行物(秋田市史叢書11 近現代感恩講史料)
https://www.city.akita.lg.jp/shisei/akitashishi/1001706.html
秋田市公式サイト:秋田市の先人たち(那波祐生)
https://www.city.akita.lg.jp/shisei/akitashishi/1001707.html
大阪大学:日本酒「緒方洪庵」ストーリー(きょうかい6号酵母)
https://www.osaka-u.ac.jp/sp/sake-ogatakoan/story04.html
秋田県酒造協同組合:新政酒造株式会社
https://osake.or.jp/brewers01/
秋田県酒造協同組合:酵母の話②
https://osake.or.jp/secret09/
Yahoo!マップ:新政酒造株式会社(秋田駅西口からの徒歩時間)
https://map.yahoo.co.jp/v3/place/voVTt2gnG_I

最終更新日: 2026.09.29

基本情報

名称新政酒造
所在地秋田県秋田市大町6-71ほか
所有者新政酒造株式会社
指定登録有形文化財 5件
座標39.71087, 140.11471