今も働いている二十一棟
小岩井農場施設は、岩手県岩手郡雫石町丸谷地にある明治36年(1903年)から昭和10年代にかけて建てられた農場建築21棟で、平成29年(2017年)2月23日に国の重要文化財に指定された。
ふつう指定を受けた建物は、そこで役目を終える。ここは違った。牛舎には牛がいる。倉庫には穀物が入る。本部事務所には職員がいる。21棟の大半が現役のまま使われており、日本の近代産業・農業遺産のなかでも例の少ない状態にある。
三人の名と火山灰の原野
農場の開設は明治24年(1891年)。鉄道敷設に生涯を捧げた井上勝が、本格的な洋式農場をつくろうとして始めた事業である。選んだのは岩手山麓の火山灰地、誰も欲しがらない痩せた原野だった。資金を出したのは日本鉄道会社副社長の小野義眞と、三菱を率いた岩崎彌之助。小野・岩崎・井上、三人の姓の頭文字を並べて「小岩井」となった。
指定された建物は三つの地区にまとまっている。総務部門を置く下丸、育牛部門の上丸、飼料を生産する耕耘部門の中丸。この役割分担は百三十年余りほとんど変わっていない。
文化庁は指定基準の「歴史的価値の高いもの」を適用し、洋式農場を目指して設立された農場の基幹施設であること、時代ごとの最新技術を取り入れて改良を重ねた農場システムを示す建物群が良好に保存されていること、そして我が国の近代農場の発展過程を知るうえで重要であることを理由に挙げている。
建物が記録しているもの
明治36年の本部事務所は木造、建築面積252.49平方メートル、鉄板葺で塔屋が付く。管理系の建物では最も古く、下丸地区の景観の中心になっている。近くに本部第一号倉庫(明治41年)と本部第二号倉庫(明治中期)が並ぶ。
上丸に移ると話題は酪農になる。第二号牛舎と第四号牛舎はいずれも明治41年(1908年)の建築で、二階建、北面に鉄筋コンクリート造及び木造のサイロが付属する。第一号牛舎は昭和9年、第三号牛舎は昭和10年の建築で、後者は1,109.70平方メートルと群中最大の規模を持つ。明治40年の第一号サイロと明治41年の第二号サイロは煉瓦造の円筒で、日本最古のサイロといわれている。
変わった建物もある。明治38年の冷蔵庫は煉瓦造で、盛土の覆いが付く。大正5年の四階建倉庫は木造四階建、建築面積515.60平方メートル。昭和初期の秤量場は35.53平方メートルの小屋である。玉蜀黍小屋は一つの区画の四隅に建ち、北東・南西・南東の三棟が明治後期、北西棟が昭和4年。壁を隙間のある造りとし、風で収穫物を乾かす仕組みになっている。
ほかに昭和11年の乗馬厩、大正6年の種牡牛舎、大正3年の倶楽部、育牛部倉庫と耕耘部倉庫が加わって21棟となる。
見学について
観光エリアは「まきば園」。営業は9時から17時、最終入場16時で、時期により変更がある。グリーンシーズンの入場料は大人800円、5歳から小学生300円程度で推移してきたが、季節やイベントによって変わり、近年は事前予約のデジタルチケットが主流になっている。訪問前に公式サイトで確認していただきたい。
21棟のうち9棟は、まきば園と道路を挟んだ向かいの上丸地区で間近に見ることができる。入場券に上丸地区用の自動改札券が付いており、徒歩のほか小型の連絡バスも運行している。約300頭の牛が暮らしており、第一号牛舎と第三号牛舎には見学所が設けられている。朝10時ごろまでは牛舎の外にいることが多い。まきば園発の重要文化財ガイドツアーは別料金だが、通常は入れない区域まで案内するものもある。
残る12棟は生産区域の中にあり、見学はできない。まきば園内の「小岩井農場重要文化財ギャラリー」がデジタル技術で補っている。
公開区域での撮影に制限はない。上丸の牛舎の奥には宮沢賢治の詩碑が立つ。小岩井駅から歩いて農場に入った体験をもとにした長詩「小岩井農場」の一節が刻まれている。桜並木の見頃は4月下旬と遅い。盛岡市街からは車でおよそ30分である。
Q&A
- 小岩井農場施設の21棟のうち、実際に見学できるのは何棟ですか。
- 上丸地区に建つ9棟を間近に見学できます。残る12棟は生産区域内にあり非公開ですが、まきば園の「小岩井農場重要文化財ギャラリー」でデジタル展示として紹介されています。
- 小岩井農場施設を見学する際の営業時間と入場料を教えてください。
- まきば園は9時から17時(最終入場16時)で、時期により変動します。グリーンシーズンの入場料は大人800円、5歳から小学生300円程度ですが季節やイベントで変わるため、公式サイトでご確認ください。
- 小岩井農場施設はいつ、どのような理由で重要文化財に指定されたのですか。
- 平成29年(2017年)2月23日に指定されました。指定基準は「歴史的価値の高いもの」で、我が国の近代農場の発展過程を知るうえで重要な建物群であることが評価されています。
- 小岩井農場施設のなかで最も古い建物はどれですか。
- 明治38年(1905年)の冷蔵庫と耕耘部倉庫が最古の部類で、明治40年の第一号サイロは日本最古のサイロといわれています。本部第二号倉庫と育牛部倉庫は明治中期の建築です。
- 小岩井農場施設の建物は今も農場として使われているのですか。
- 使われています。指定建物の多くが現役で、上丸の牛舎では約300頭の乳牛が飼養されています。所有・運営は小岩井農牧株式会社です。
基本情報
| 名称 | 小岩井農場施設(こいわいのうじょうしせつ) |
|---|---|
| 所在地 | 岩手県岩手郡雫石町丸谷地 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 近代/産業・交通・土木 指定番号02660 |
| 指定年 | 平成29年(2017年)2月23日 |
| 員数 | 21棟 |
| 寸法 | 本部事務所252.49平方メートル(明治36年)/第三号牛舎1,109.70平方メートル(昭和10年)/四階建倉庫515.60平方メートル(大正5年)/第一号サイロ25.24平方メートル・煉瓦造(明治40年) |
| 所有者 | 小岩井農牧株式会社 |
| 公開状況 | まきば園入場により上丸地区の9棟を見学可(9時〜17時、最終入場16時)。他は非公開 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004921
- 小岩井農場 公式サイト
- https://www.koiwaifarm.com/
- 小岩井農場 上丸牛舎
- https://www.koiwaifarm.com/event/post-621/
- 一般社団法人しずくいし観光協会
- https://shizukuishi-kanko.gr.jp/spot/article.php?p=12
最終更新日: 2026.08.06
同エリアの文化財
いずれも同じエリアの徒歩圏内にあるので、あわせての見学がおすすめです。
- 小岩井農場施設 第一号サイロ 0.00 km
- 小岩井農場施設 本部事務所 0.00 km
- 小岩井農場施設 玉蜀黍小屋(北西棟) 0.00 km
- 小岩井農場施設 玉蜀黍小屋(南東棟) 0.00 km
- 小岩井農場施設 玉蜀黍小屋(南西棟) 0.00 km
- 小岩井農場施設 玉蜀黍小屋(北東棟) 0.00 km
- 小岩井農場施設 耕耘部倉庫 0.00 km
- 小岩井農場施設 四階建倉庫 0.00 km
- 小岩井農場施設 冷蔵庫 0.00 km
- 小岩井農場施設 秤量場 0.00 km
- 小岩井農場施設 第二号サイロ 0.00 km
- 小岩井農場施設 本部第一号倉庫 0.00 km
- 小岩井農場施設 育牛部倉庫 0.00 km
- 小岩井農場施設 種牡牛舎 0.00 km
- 小岩井農場施設 第四号牛舎 0.00 km
- 小岩井農場施設 第三号牛舎 0.00 km
- 小岩井農場施設 第二号牛舎 0.00 km
- 小岩井農場施設 第一号牛舎 0.00 km
- 小岩井農場施設 倶楽部 0.00 km
- 小岩井農場施設 乗馬厩 0.00 km
- 小岩井農場施設 本部第二号倉庫 0.00 km