弘前学院外人宣教師館:明治の薫りを伝える北東北の洋館建築
青森県弘前市の弘前学院大学キャンパス内に佇む弘前学院外人宣教師館は、明治39年(1906年)に建てられた優美な洋風建築です。アメリカから派遣されたメソジスト派の婦人宣教師たちの宿舎として建設されたこの木造2階建ての建物は、南西隅にそびえる八角形の尖塔が印象的で、東北地方に現存する洋館の中でも特に優れた遺例として知られています。昭和53年(1978年)に国の重要文化財に指定され、現在は弘前学院資料館として一般に公開されています。
歴史的背景
弘前学院外人宣教師館の歴史は、弘前学院そのものの成り立ちと深く結びついています。明治19年(1886年)、日本メソジスト教会の初代監督であり旧東奥義塾の塾長でもあった本多庸一は、女子教育の必要性を強く感じ、山鹿元次郎を校長として弘前教会会堂内に函館の遺愛女学校の分校「来徳女学校」を開校しました。明治22年(1889年)には「弘前女学校」と改称し、米国婦人伝道局から派遣された婦人宣教師のもとで学校運営が行われるようになりました。
宣教師たちは長年、離れた宿舎から学校へ通勤していましたが、明治34年(1901年)に学校が坂本町の新校舎へ移転した際、校地内に専用の住居を求める声が高まりました。そして開校20周年にあたる明治39年(1906年)、ついに婦人宣教師のための住まいとしてこの建物が建設され、同年7月21日に保存登記がなされました。当時は「洋館」や「西洋館」と呼ばれ、周囲の人々の目を引いたことでしょう。
重要文化財に指定された理由
弘前学院外人宣教師館は、昭和53年(1978年)1月21日に国の重要文化財に指定されました。指定の理由としては、まず、明治期における外人宣教師館の建築様式を知るうえで極めて貴重な存在であること、そして北東北(北奥)の洋館として意匠が非常に優れていることが挙げられています。西洋の建築技法と日本の伝統的な住まい方が一つの建物の中で融合している点も、文化史的に高い価値を持っています。
実はこの建物は、昭和45年(1970年)から始まったキャンパス移転の際、老朽化が激しく解体される予定でした。しかし、保存を求める市民の声が高まり、文化財としての価値が認められて重要文化財に指定されたことで、取り壊しを免れました。昭和53年から3か年をかけて現在地に移築・修復され、法人本部として使用された後、平成16年(2004年)からは弘前学院資料館として保存・公開されています。
建築の見どころ
この建物で最も目を引くのは、南西隅に配置された八角形の尖塔です。とんがり屋根の頂にはデザインされた突針飾りが載り、その優雅なシルエットは訪れる人々の視線を自然と集めます。内部から見ると、この尖塔部分は壁面を後退させて造られた「アルコーブ」と呼ばれる空間で、1階では応接室、2階では談話室として使われ、軽快で開放的な雰囲気を演出しています。
外壁は下見板張りで淡いピンク色のペンキが塗られ、柱や土台は深い葡萄色で仕上げられています。上げ下げ窓の上部には半円形のファンライト(欄間窓)が設けられ、茶褐色に塗られた目の細いがらり戸(鎧戸)が付いています。尖塔脇には煉瓦積みの煙突がそびえ、全体として繊細で優美な気品が漂います。女性の宣教師たちの住まいにふさわしい、やさしく洗練された意匠といえるでしょう。
内部は上下階とも中央に東西方向の中廊下(ホール)を設け、一室を除いて床は板張りです。ただし1階の集会室は畳敷きとなっており、靴を脱いで上がる日本式の生活様式も取り入れられています。天井と壁は漆喰塗りで、特に応接室の窓上蛇腹にはアカンサス紋様の飾りが施され、格調高い空間を創り出しています。屋根は洋風のトラス構造で、亜鉛鉄板葺きとなっています。
設計・施工は弘前のクリスチャン棟梁・櫻庭駒五郎によるものと伝えられていますが、意匠や構造手法などの特徴から、アメリカのメソジスト本部で作成された設計図を駒五郎が日本の大工が施工できるように描き直したものではないかという説もあります。
見学案内
弘前学院外人宣教師館は現在、弘前学院資料館として一般に無料で公開されています。館内では弘前学院の創立以来の歴史資料や所蔵文庫などが展示されており、明治時代の宣教師たちの暮らしぶりや学校の歩みを知ることができます。
建物は弘前学院大学キャンパス内の稔町に位置しています。最寄り駅は弘南鉄道大鰐線の「弘前学院大前駅」で、駅から徒歩約3分と大変便利です。JR弘前駅からは、弘南バスの「小栗山・狼森線」または「学園町線」に乗車し、「三中校前」バス停で下車、そこから徒歩約10分です。飛行機の場合は青森空港から空港バスで弘前駅まで約55分、新幹線の場合は新青森駅からJR奥羽本線で弘前駅まで約25〜40分です。
周辺の見どころ
弘前は「洋館の街」とも呼ばれ、明治・大正期に建てられた趣ある洋風建築が数多く残っています。弘前学院外人宣教師館の見学とあわせて、ぜひ足を運んでいただきたいスポットをご紹介します。
弘前公園南側の追手門広場には、明治33年(1900年)建設の旧東奥義塾外人教師館があり、館内では当時の暮らしが再現されているほか、1階にはアップルパイやコーヒーが楽しめる喫茶店「サロン ド カフェ アンジュ」が入っています。その隣には、名棟梁・堀江佐吉が設計した旧弘前市立図書館(明治39年竣工)が建ち、左右対称の八角形ドーム型塔が印象的なルネサンス様式の名建築です。弘前城は東北地方で唯一の現存天守を持つ城で、春には約2,600本の桜が咲き誇る日本屈指の花見スポットとして知られています。また、藤田記念庭園では大正期の洋館と和館、そして岩木山を借景とした美しい庭園を楽しむことができます。明治8年(1875年)に創立された東北最古のプロテスタント教会・弘前教会も、弘前のキリスト教文化を語るうえで欠かせない存在です。
Q&A
- 弘前学院外人宣教師館の入館料はかかりますか?
- 入館料は無料です。開館時間は9:00〜16:00(土曜日は12:00まで)です。休館日は月曜日・日曜日・祝日、6月25日、8月13日、年末年始です。見学を希望される場合は、弘前学院法人本部事務室(0172-38-6111)にお問い合わせください。
- この建物の設計者は誰ですか?
- 弘前のクリスチャン棟梁・櫻庭駒五郎の設計・施工と伝えられています。ただし、意匠や構造の特徴から、アメリカのメソジスト本部で作成された設計をもとに、駒五郎が日本の大工向けに設計図を描き直したという説もあります。
- 最寄り駅からのアクセスを教えてください。
- 弘南鉄道大鰐線「弘前学院大前駅」から徒歩約3分です。JR弘前駅からは弘南バス「小栗山・狼森線」または「学園町線」に乗車し、「三中校前」バス停で下車後、徒歩約10分です。
- 建物の内部は見学できますか?
- はい、開館時間内であれば内部の見学が可能です。現在は弘前学院資料館として、弘前学院の創立以来の歴史資料や所蔵文庫などが展示されています。写真撮影については、訪問時にご確認ください。
- 周辺に他の洋館はありますか?
- 弘前市内には明治・大正期の洋風建築が数多く現存しています。旧東奥義塾外人教師館、旧弘前市立図書館、旧第五十九銀行本店本館(現・青森銀行記念館)など、見応えのある歴史的建造物が点在しており、徒歩で巡るコースも整備されています。
基本情報
| 名称 | 弘前学院外人宣教師館(弘前学院資料館) |
|---|---|
| 指定区分 | 国指定重要文化財(昭和53年1月21日指定) |
| 竣工 | 明治39年(1906年) |
| 設計・施工 | 櫻庭駒五郎(アメリカのメソジスト本部による設計という説もある) |
| 構造・規模 | 木造2階建て、寄棟造、亜鉛鉄板葺き、建築面積約158.9㎡ |
| 所有者 | 学校法人弘前学院 |
| 所在地 | 〒036-8577 青森県弘前市稔町13番地1号 |
| 開館時間 | 9:00〜16:00(土曜日は12:00まで) |
| 休館日 | 月曜日・日曜日・祝日、6月25日、8月13日、年末年始 |
| 入館料 | 無料 |
| アクセス | 弘南鉄道大鰐線「弘前学院大前駅」から徒歩約3分 |
| お問い合わせ | 弘前学院 TEL: 0172-38-6111 |
参考文献
- 弘前学院外人宣教師館 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/198999
- 弘前学院外人宣教師館 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/弘前学院外人宣教師館
- 弘前学院外人宣教師館 - 弘前市
- https://www.city.hirosaki.aomori.jp/gaiyou/bunkazai/kuni/kuni18.html
- 弘前学院外人宣教師館(弘前学院資料館) - 学校法人弘前学院
- https://hgc.hirogaku.ac.jp/senkyoushikan/
- 構造形式 - 学校法人弘前学院
- https://hgc.hirogaku.ac.jp/senkyoushikan/style/
- 弘前学院外人宣教師館 - 青森県庁
- https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kyoiku/e-bunka/jubun_kenzoubutu_21.html
- 弘前学院外人宣教師館 - 弘前観光コンベンション協会
- https://www.hirosaki-kanko.or.jp/details.html?id=CNT00403281527026412
最終更新日: 2026.03.27