宇和海を向く斜面の石積み窯

旧三崎精錬所焼窯は、愛媛県西宇和郡伊方町にある明治中期の銅製錬用の窯群で、平成15年(2003年)12月1日に登録有形文化財(建造物)となった。登録の告示は同年12月25日。文化庁の記録では石造、建築面積496平方メートルの1所として扱われる。

窯が担っていたのは「荒吹」と呼ばれる工程で、焼いた鉱石から粗銅を取り出す段階にあたる。窯は煙道とともに斜面の上方向へ向けて配され、直線状に3列、等高線に沿って曲線状に2列という並びになっている。愛媛県の文化財紹介は、その総数を22基としている。

各窯の焚口は直径0.9メートルほどのアーチに組まれる。用いられているのは佐田岬半島一帯に露出する緑色の変成岩で、地元では「青石」と呼ばれてきた。石の名称は資料によって揺れがあり、文化庁の記録は「緑泥変岩」、愛媛県の紹介は「緑泥片岩」と書く。

短命に終わった産業が石で残った

伊方町の文化財紹介によれば、精錬所は明治33年(1900年)に矢野荘三郎が設置し、銅価の下落と、煙害を受けた地元住民による襲撃などが重なって明治41年(1908年)に閉鎖された。一方、同じ町がまとめた三崎地域の文化財の記述は創業年を不明とし、明治30年(1897年)以前には童子鼻に置かれていたらしいと記すにとどまる。

いずれにせよ操業期間は長くて十数年ほどで、働いていたのは20人から30人だったと伝わる。佐田岬半島には規模の小さな銅の鉱床が数多くあり、そこから運ばれた鉱石が採鉱、砕鉱、焼鉱、荒吹の順に処理された。現在も窯のほかにレンガ煙突3本が立ち、製錬で出た「からみ」が周辺や海岸に散らばっている。

この短さが、旧三崎精錬所焼窯の価値と結びついている。日本の銅製錬は大規模鉱山を軸に急速に近代化し、地方の小さな製錬所は建て替えられることなく放棄された。石積みの構造物が地上に残った例は多くない。適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、文化庁は銅製錬の近代化を知るうえで貴重な遺構と位置づけている。

石の積み方に残る技術

石積みそのものが読みどころになる。緑色片岩は薄く平たい板状に割れる性質をもち、築いた者はその性質をそのまま使った。板石を水平に寝かせて段に積み、モルタルを用いない。結果として壁面は横線が密に走る面になる。アーチが必要な箇所では、同じ板石を立てて放射状に並べ、開口を回している。

いちばんよく残っているのがそのアーチである。焚口の曲線は今も崩れずに保たれ、周囲の水平な積み目と対比されて輪郭が際立つ。窯の背後には煙道が斜面を登っており、送風機を持たない時代に、この高低差だけで引きをつくっていたことがわかる。

現在の遺構は雑木林に呑まれている。旧三崎精錬所焼窯の崩れた上端からは若い木が生え、根が石垣の天端を這い、焚口には落ち葉がたまる。積み石が緩んでいる箇所もあり、足元は安定しない。

見学について

駐車場も遊歩道も解説板もない。旧三崎精錬所焼窯は急な斜面の私有林の中にあり、愛媛県の記録では所有者は個人とされている。公開の枠組みは設けられておらず、見学者向けに整備された経路もない。訪問を考える場合は、まず伊方町役場(電話0894-38-0211)に相談し、無断で敷地へ立ち入らないこと。

国のデータベースに登録された所在地は西宇和郡伊方町佐田乙2085である。ただし伊方町自身の紹介は井野浦の童子鼻に位置づけており、同じ場所を別の地名で記していることになる。

現地に立てない場合の手がかりとして、伊方町塩成乙293の佐田岬半島ミュージアムがある。半島の自然や歴史とあわせて鉱山と産業の歩みを扱う施設で、開館は午前9時30分から午後5時まで、最終入館は午後4時30分。月曜休館、一般の観覧料は300円である。電話番号は0894-21-3400。

Q&A

Q旧三崎精錬所焼窯は見学できますか?
A自由には見学できません。急斜面の私有林の中にあり、整備された道も解説板も公開の仕組みもありません。訪問を考える場合は伊方町役場(0894-38-0211)に事前に相談し、無断で立ち入らないでください。
Q旧三崎精錬所焼窯は何に使われた窯ですか?
A「荒吹」と呼ばれる工程の窯で、焼いた鉱石から粗銅を取り出す段階に用いられました。鉱石は佐田岬半島に点在した小規模な銅山から運ばれています。
Q旧三崎精錬所焼窯の窯はいくつあり、どう並んでいますか?
A愛媛県の紹介では総数22基です。直線状に3列、曲線状に2列という配置で、煙道が斜面の上方向へ延びます。各焚口は直径0.9メートルほどのアーチに組まれています。
Q旧三崎精錬所焼窯の精錬所はいつ操業していたのですか?
A伊方町は明治33年(1900年)に矢野荘三郎が設置し、明治41年(1908年)に閉鎖したとしています。ただし同町の別の記述は創業年を不明とし、明治30年(1897年)以前に童子鼻にあったらしいとするにとどまります。
Q旧三崎精錬所焼窯について現地以外で知る方法はありますか?
A伊方町塩成乙293の佐田岬半島ミュージアムが半島の鉱山と産業の歴史を扱っています。午前9時30分から午後5時(最終入館は午後4時30分)、月曜休館、一般300円です。

基本情報

名称旧三崎精錬所焼窯
所在地愛媛県西宇和郡伊方町佐田乙2085
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成15年(2003年)12月1日登録
員数1所
寸法建築面積496平方メートル。焚口のアーチは直径0.9メートルほど。窯の総数は愛媛県の記録で22基
所有者個人(文化庁データベースには所有者名の記載なし)
公開状況非公開。私有地で見学路の整備なし。見学は伊方町役場へ要相談

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 旧三崎精錬所焼窯
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003721
愛媛県 えひめの文化財(たから) 旧三崎精錬所焼窯
https://www.pref.ehime.jp/ehimenotakara/633.html
伊方町 旧三崎精錬所焼窯
https://www.town.ikata.ehime.jp/map/rekishibunka/4032.html
伊方町 三崎地域の文化財
https://www.town.ikata.ehime.jp/site/rekishibunka/1594.html
文化遺産オンライン 旧三崎精錬所焼窯
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/140991

最終更新日: 2026.09.05