ヨーロッパ帰りの技師が引いた図面
旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅は、愛媛県新居浜市星越町にある昭和5年(1930年)建築の木造2階建て洋風住宅で、令和2年(2020年)8月17日に国の登録有形文化財に登録された。建築面積130平方メートル、延床面積300平方メートル。住友グループの社宅群「住友山田社宅」の西端の高台に、東社宅と道をはさんで対で建っている。
設計したのは、大阪の住友合資会社工作部建築課に勤めていた小川安一郎である。小川は明治40年(1907年)に京都高等工芸学校図案科を出るとすぐ住友本店の臨時建築部に入った生え抜きの技師で、阪神間に住友の重役や実業家の邸宅をいくつも手がけた。神戸の池永孟邸(現在の神戸市立文書館)もそのひとつである。
設計にあたって注目したいのは時期の重なりだ。小川は昭和4年(1929年)に、新興の建築工事・設備工事・家具装飾工事を調べるため8か月にわたってヨーロッパへ派遣されている。帰国して間もなく引かれたのが、この西社宅と東社宅の図面だった。施工は大阪の藤木工務店。同社は昭和3年(1928年)に新居浜の外国人住宅の新築工事を受注したことをきっかけに、新居浜を四国における営業の拠点としていく。
切妻の屋根と、南へ出るサンルーム
東社宅と対で語られることが多いが、屋根の形は違う。旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅の主屋根は切妻造で、桟瓦葺。妻面が東西を向き、道から見上げると三角形の壁面が正面に立つ。東側の建物が寄棟造で四方に屋根を落としているのと比べると、輪郭がすっきりと立ち上がって見える。
南面には寄棟造のサンルームが張り出す。主屋根が切妻で、そこから出る小さな屋根だけが寄棟という組み合わせで、屋根の形が2種類重なる。西側に付く家政部は片流れの屋根で、こちらは東社宅の平屋建ての家政部とも造りが異なる。外壁はいずれも下見板張である。
平面は東社宅に似ていて、角に置いた大きな部屋を軸にL字型へ室を展開する。ただし全体にひとまわり小さい。建築面積で比べると東の196平方メートルに対して130平方メートルで、3分の1ほど小ぶりである。同じ設計者が同じ年に建てた2棟に規模の差があるのは、住友の社宅が職位によって建坪を定める規程を持っていたことと無関係ではないだろう。
手が入らなかったことの価値
旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅が国の登録有形文化財となった登録基準は、造形の規範となっているものである。登録番号は38-0146。隣り合う東社宅(38-0145)とともに、第96回の登録として令和2年(2020年)8月17日に告示された。
この建物にはもうひとつ、記録には現れにくい価値がある。戦後、東側の建物が幹部の単身赴任者の宿所に転用されて室内を和室に改める改造を受けたのに対し、西社宅は日本家屋を別に増築するかたちで生活の要求に応えた。その結果、洋館の部分にはほとんど手が入らないまま残った。新居浜市の保存活用計画も、西社宅が往時の姿をよく伝えていると評価している。
そもそもなぜ、昭和5年の新居浜に外国人技師の住宅が要ったのか。前年の昭和4年(1929年)、四阪島製錬所の煙害対策の切り札としてペテルゼン式硫酸工場の第一期工事が完成し、その技術を発明したドイツ人フーゴ・ペテルゼンが8月に工場視察のため来日した。同じ年の11月には株式会社住友肥料製造所がアメリカのNEC社から技師を招き、翌昭和5年12月にアンモニア・硫安工場が完成している。銅山の会社が化学と機械へ事業の幅を広げていく局面で、海外の技術者を家族ごと迎える必要が生じた。その受け皿がこの2棟である。
住友山田社宅は昭和4年に造成が始まり、最盛期には約290戸を数えた。平成20年(2008年)ごろまで約80年にわたって住まわれ、老朽化と耐震基準の見直しを受けて取り壊しが進み、平成30年(2018年)8月の時点で34戸まで減っている。そのなかから6棟が保存の対象に選ばれ、西社宅はその1棟にあたる。
見学方法
旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅は、令和8年(2026年)4月から新居浜市の限定公開に加わった。それまで公開されていた3棟に西社宅が加わり、現在は4棟を見学できる。公開日は4月から11月までが毎週日曜日、12月から3月までが第2・第4日曜日。時間はいずれも午前10時から午前12時までで、見学は無料、申し込みも要らない。整備工事の進み具合によって公開が変更または中止になることがある。
5名以上の団体は、希望日の2週間前までに新居浜市別子銅山文化遺産課(電話0897-65-1236)へ電話またはメールで予約する。内部の撮影については建物ごとに扱いが異なるため、現地で職員に確認してほしい。
所在地は新居浜市星越町19番2号、文化庁の記録では星越町乙1900と表記される。JR予讃線の新居浜駅からは西へ約2キロメートル、歩けば30分ほどで、無料の駐車場も設けられている。東社宅は道をはさんですぐ向かいで、旧住友鉱業株式会社別子鉱業所長社宅と旧住友化学工業株式会社幹部社宅も同じ日に開いている。1日で4棟をたどれば、屋根の形と間取りの違いを続けて見比べられる。
Q&A
- 旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅は見学できますか。公開日と料金は?
- 令和8年(2026年)4月から公開が始まりました。開いているのは4月から11月が毎週日曜日、12月から3月が第2・第4日曜日で、時間は午前10時から午前12時まで、見学料はかかりません。整備工事の状況によって公開が変更・中止になる場合があります。
- 旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅へのアクセスは?
- 所在地は新居浜市星越町19番2号です。JR予讃線の新居浜駅の西方約2キロメートルにあたり、歩けば30分ほど。敷地に無料駐車場が用意されています。
- 旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅は誰が設計したのですか。
- 大阪の住友合資会社工作部建築課に所属した小川安一郎です。明治40年(1907年)に京都高等工芸学校図案科を卒業して住友本店臨時建築部に入り、昭和4年(1929年)には8か月間ヨーロッパへ派遣されました。施工は大阪の藤木工務店が担当しています。
- 旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅は東社宅とどこが違いますか。
- 主屋根が切妻造である点、家政部が片流れの屋根である点、そして規模です。建築面積は東社宅の196平方メートルに対し西社宅は130平方メートルです。戦後の改造が少なく、洋館部分が建築当初の姿をよく残している点も西社宅の特徴です。
- 旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅の団体見学に予約は必要ですか。
- 必要です。5名以上の場合は、新居浜市別子銅山文化遺産課(電話0897-65-1236)へ見学希望日の2週間前までに電話かメールで申し込んでください。4名までなら手続きなしで訪ねられます。
基本情報
| 名称 | 旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅 |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県新居浜市星越町乙1900 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 令和2年(2020年)8月17日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積130平方メートル、延床面積300平方メートル、木造2階建て一部平屋建て |
| 所有者 | 新居浜市 |
| 公開状況 | 限定公開(日曜日中心、午前10時から午前12時まで)。見学無料。詳細は本文参照 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 旧住友別子鉱山株式会社外国人技師西社宅
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013462
- 新居浜市 住友山田社宅4棟を限定公開しています
- https://www.city.niihama.lg.jp/soshiki/dozan/sumitomoyamadashatakunitouwogenteikoukai.html
- 新居浜市 住友山田社宅保存活用計画
- https://www.city.niihama.lg.jp/soshiki/dozan/sumitomoyamadasyataku.html
- 新居浜市 住友山田社宅の歴史的意義(保存活用計画 第1章)
- https://www.city.niihama.lg.jp/uploaded/attachment/37220.pdf
- 愛媛県 えひめの文化財(たから) 旧住友別子鉱山株式会社外国人技師東社宅ほか1件
- https://www.pref.ehime.jp/ehimenotakara/138842.html
- 新居浜市 別子銅山文化遺産課
- https://www.city.niihama.lg.jp/soshiki/dozan/
最終更新日: 2026.09.04