大三島の海岸に残る塩田の樋門

井口四番浜南丸樋は、愛媛県今治市上浦町井口の海岸にある江戸時代末期の石造構造物で、平成15年(2003年)1月31日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。文化庁の記録では時代を江戸時代末期、西暦1830年から1867年頃とし、員数1基、石造、延長12メートルとする。

場所は芸予諸島最大の島、大三島の東岸。かつて海に面していた塩田の縁にあたる。井口の塩田は番号を振った「浜」に分かれており、この構造物は四番浜の南側に築かれた。「樋」は堤を貫いて水を通す水路、「丸」はその出口を囲う石壁が半円を描くことを指す。井口の海岸には同種の丸樋が三基残っているが、井口四番浜南丸樋はそのなかで最も長い。

一つの壁に二通りの積み方

井口四番浜南丸樋を見に行く価値は、数メートル離れた位置から目地を追うだけでわかる。石は花崗岩。モルタルなどの接着材を用いない空積である。壁の上幅は0.9メートル、人が一人歩ける程度の幅にあたる。

下部では、石と石の継ぎ目が斜めに走り、菱形の網目をつくる。壁面は垂直ではなく、後ろへ傾いている。ところが上へ目を移すと、継ぎ目は水平に通り、壁はほぼ真っ直ぐ立ち上がる。一枚の壁に、二種類の積み方が上下に重なっている。

下部は谷積。石を斜めに据えることで目地が格子ではなく菱形になる積み方で、ここに法勾配、つまり後ろへの傾きが加わる。底面が広く取れ、寄せてくる水に対しては斜めの面が向く。上部は布積風で、横方向の目地が水平に通る。積む手間は少なく、通常の波が届かない高さであればこれで足りる。

切り替わる位置は、海が絶えず問題になる高さと、そうでない高さの境目にあたる。接着材を持たない職人が使えたのは石の形と据え方だけで、それを力のかかる場所に集中させた。判断の跡が、百五十年を越えて石の並びに残っている。

登録の理由

井口四番浜南丸樋の登録番号は38-0029、第35回登録として平成15年(2003年)1月31日に登録され、告示は同年2月26日に出された。所有者は今治市。適用された登録基準は「再現することが容易でないもの」である。

その理由は、この構造物が担っていた役割にある。瀬戸内海沿岸の製塩は入浜式塩田によった。満潮時に海水を砂の敷かれた浜へ導き入れ、日射と風で濃縮させ、得られた鹹水を釜で煮詰める。塩田は水を入れるだけでは成り立たず、余った水を堤の外へ返す必要があった。そして出口を最初の時化で壊されないようにすることのほうが、はるかに難しい。文化庁の解説は、この丸樋を当地における江戸から近代の塩業の繁栄を支えた基盤施設と位置づけ、現在では類例の少ない建造物と記している。

類例が少ないという記述は控えめな表現である。入浜式は二十世紀のうちに新しい製塩法へ置き換えられ、浜は埋められ、堤も土工ごと消えた。この時代の石造排水施設が現地に残る例は全国的にわずかで、井口のように一つの海岸に三基そろって残るのは珍しい。

見学とアクセス

井口四番浜南丸樋は海岸の屋外にある。門も入場料も開門時間もなく、撮影の制限もない。一方で案内所も解説板も専用駐車場もないため、徒歩か自転車で向かうか、離れた場所に配慮して駐車することになる。周囲には私有地が含まれる。石積そのものが登録された建造物であって足場ではないので、隣接する公道と海岸から眺めてほしい。

見え方を決めるのは潮位である。干潮前後には壁の全高が現れ、下部の谷積の目地まで追える。満潮時には下の方の積みが水に隠れる。出発前に今治周辺の潮見表を確かめておくのが、いちばん効く準備になる。

車なら難しくない。井口は大三島の東岸で、しまなみ海道の大三島インターチェンジから北へおよそ2キロ、道の駅多々羅しまなみ公園からは北西へおよそ1.5キロの位置にある。公共交通の場合は、今治駅前から大三島方面の急行バスに乗り「井口港」で下車すると、海岸まで徒歩数分。便によって停車する停留所が異なるので、時刻表を先に確認しておきたい。しまなみ海道を走る自転車は、この海岸のすぐ脇を通る。北西へおよそ100メートルの位置に井口四番浜北丸樋、南側に旧井口三番浜丸樋があり、三基をまとめて見ても数分で足りる。

Q&A

Q井口四番浜南丸樋とは何ですか。いつ造られたものですか。
A大三島の東岸にあった塩田の余水を海へ返すために築かれた石造の樋門です。文化庁の記録では江戸時代末期、西暦1830年から1867年頃のもので、員数1基、花崗岩を用いた延長12メートル、上幅0.9メートルの構造物とされています。
Q井口四番浜南丸樋のどこを見ればよいですか。
A石と石の継ぎ目です。下部は法勾配をもたせて谷積状に積まれ、目地が斜めに走ります。上部はほぼ垂直に立ち上がり、布積風に水平の目地が通ります。全体が接着材を使わない空積で、積み方が切り替わる線をたどると、高さごとに違う力へ職人がどう応じたかが読み取れます。
Q井口四番浜南丸樋は見学できますか。入場料や撮影の制限はありますか。
A見学できます。料金はかかりません。海岸の屋外にあり門も開門時間もなく、撮影の制限もありません。ただし案内施設や専用駐車場はなく、周囲に私有地も含まれます。石積に登らず、隣接する公道と海岸から眺めてください。
Q井口四番浜南丸樋へのアクセス方法を教えてください。
A車の場合、しまなみ海道の大三島インターチェンジから北へおよそ2キロ、道の駅多々羅しまなみ公園からは北西へおよそ1.5キロです。バスの場合は今治駅前から大三島方面の急行便に乗り「井口港」で下車すると徒歩数分です。便により停車停留所が異なるため、事前に時刻表をご確認ください。
Q井口四番浜南丸樋を見るのに適した時間帯はありますか。
A時刻よりも潮位が重要です。干潮前後には壁の全高と下部の谷積まで現れ、満潮時には下の方が水に隠れます。訪問前に今治周辺の潮見表をご確認ください。

基本情報

名称井口四番浜南丸樋(いぐちよんばんはまみなみまるひ)
所在地愛媛県今治市上浦町井口の海岸(大三島)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号38-0029
指定年平成15年(2003年)1月31日登録、同年2月26日告示(第35回登録)
員数1基
寸法石造、延長12メートル、上幅0.9メートル
所有者今治市
公開状況海岸の屋外に所在。常時見学可、入場料なし、来訪者向け施設および専用駐車場なし

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 井口四番浜南丸樋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003152
文化遺産オンライン 井口四番浜南丸樋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/168462
国指定文化財等データベース(文化庁) 旧井口三番浜丸樋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003151
今治市文化振興課 上浦地域の文化財
https://www.city.imabari.ehime.jp/bunka/bunkazai/bunkazai/kamiura.html

最終更新日: 2026.09.03