塩田の水を海へ返すための石積

旧井口三番浜丸樋は、愛媛県今治市上浦町井口の海岸にある江戸時代末期(1830年から1867年頃)の石造樋門で、平成15年(2003年)1月に国の登録有形文化財に登録された。芸予諸島最大の島である大三島の東岸に広がっていた塩田の施設である。

名称を分解すると性格が見えてくる。「浜」は塩田を数える単位で、井口三番浜は井口の三番目の塩田を指す。「樋」は堤を貫いて水を通す水路のこと。そして「丸」の一字が、この構造物を国の登録に値させている部分にあたる。

瀬戸内海沿岸の製塩は入浜式塩田による。満潮時に海水を砂の敷かれた浜へ導き入れ、日射と風で濃縮させ、得られた鹹水を釜で煮詰める。この方式は水の出入りを双方向で制御することの上に成り立っている。海水を入れるのが一つの課題なら、余った水を確実に、しかも出口を波に壊されずに海へ返すのがもう一つの課題だった。この石積が答えているのは後者である。

半円に張り出した壁

文化庁の登録データでは、員数1基、石造、延長8.5メートル、時代は江戸末期。登録番号38-0028、第35回登録として平成15年1月31日に登録され、告示は同年2月26日に出された。所有者は今治市。適用された登録基準は「再現することが容易でないもの」で、技術や成立の事情から容易に再現できない建造物に用いられる区分である。

石積は、海岸線と塩田跡が接する堤防に沿って築かれている。特徴は、樋口の外側を半円状に海側へ張り出した延長8.5メートルの石造壁にある。この形状は二つの働きを同時に果たす。塩田の余水が抜ける経路を確保しながら、寄せてくる波に対しては平らな面ではなく曲面を向ける。風浪が正面から樋を叩くのではなく、壁面に沿って逸れていく。強風時に直立した護岸へ波が当たる様子を見たことがある人なら、この理屈はすぐに腑に落ちるはずだ。

江戸期の塩田施設が現地に残っている例は、全国的にきわめて少ない。入浜式は二十世紀に新しい製塩法へ置き換えられ、昭和46年(1971年)までに国内の塩田は産業再編のなかで姿を消した。浜は埋められ、堤は均され、跡地は柑橘畑や宅地に変わっていった。土工が消えるとき、石積もたいてい一緒に失われる。寸法だけを見れば小さな構造物だが、登録の意味がその寸法に比例しない理由はここにある。

見学と周辺

すぐ北側には、もう一基の登録有形文化財が残る。井口四番浜南丸樋である。花崗岩を用いた延長12メートル、上幅0.9メートルの空積構造物で、法勾配をもたせた下部を谷積状に積み、ほぼ垂直に立ち上げた上部を布積風に築く。二基を続けて見ると、同じ海岸の隣り合う塩田でも積み方が違っていたことがわかる。

現地は海岸の屋外で、門も入場料も開門時間もない。案内所や大規模な解説施設はなく、専用駐車場も設けられていない。周囲には私有地が含まれ、石積そのものも文化財であって足場ではないので、隣接する公道と海岸から眺めるのがよい。撮影の制限はない。

ここでは時刻より潮位が重要になる。干潮時には曲面の全長と基礎まで露出し、満潮時には下部の積みが水に隠れる。出発前に今治周辺の潮見表を確認しておくことが、いちばん役に立つ準備である。

しまなみ海道を走っているなら、立ち寄りは難しくない。広島県尾道と今治を橋で結ぶこのルート上、大三島インターチェンジが近く、この海岸沿いの道は島の中心的な参拝地である大山祇神社へ向かう際に多くの人が通る経路にあたる。大山祇神社の宝物館には中世の武具甲冑の優れた一群が収蔵されている。自転車でこの前を通る人は多いが、降りる人はほとんどいない。二基の丸樋を見るのに、十分もあれば足りる。

Q&A

Q旧井口三番浜丸樋とは何のための施設ですか。
A大三島の塩田に付属した石造の樋門です。江戸時代末期の築造で、主な目的は塩田の余水を海へ排出することでした。樋口の外側には延長8.5メートルの石造壁が半円状に張り出しており、排水経路を確保しつつ風浪による損傷を防いでいます。
Q旧井口三番浜丸樋は見学できますか。入場料はかかりますか。
A見学できます。料金はかかりません。井口の海岸に屋外で残っており、門も開門時間もありません。案内施設や専用駐車場はなく、周辺に私有地も含まれるため、隣接する公道と海岸から眺めてください。
Q旧井口三番浜丸樋を見るのに適した時間帯はありますか。
A干潮前後がよく見えます。干潮時には曲面の全長と基礎部分まで露出し、満潮時には下部が水に隠れます。訪問前に今治周辺の潮見表を確認することをおすすめします。撮影の制限は特にありません。
Q旧井口三番浜丸樋へのアクセス方法を教えてください。
A大三島の東岸、上浦町井口の海岸にあります。尾道と今治を結ぶしまなみ海道の大三島インターチェンジが近く、海岸沿いの道は大山祇神社へ向かう一般的な経路にあたるため、車でも自転車でも立ち寄りやすい位置です。
Q旧井口三番浜丸樋の近くに同種の文化財はありますか。
Aすぐ北側に井口四番浜南丸樋があり、こちらも登録有形文化財です。花崗岩を空積みした延長12メートル、上幅0.9メートルの構造物で、下部は谷積状、上部は布積風に積まれています。二基を比べると、隣接する塩田どうしでも積み方が異なっていたことが読み取れます。

基本情報

名称旧井口三番浜丸樋(きゅういぐちさんばんはままるひ)
所在地愛媛県今治市上浦町井口の海岸(大三島)
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号38-0028
指定年平成15年(2003年)1月31日登録、同年2月26日告示(第35回登録)
員数1基
寸法石造、延長8.5メートル
所有者今治市
公開状況海岸の屋外に所在。常時見学可、入場料なし、来訪者向け施設なし

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 旧井口三番浜丸樋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00003151
文化遺産オンライン 旧井口三番浜丸樋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/140421
文化遺産オンライン 井口四番浜南丸樋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/168462
今治市文化振興課 大三島地域の文化財
https://www.city.imabari.ehime.jp/bunka/bunkazai/bunkazai/omisima.html

最終更新日: 2026.08.06