土塀に囲まれた一角に立つ11基

乗禅寺石塔は、愛媛県今治市延喜の乗禅寺境内にある鎌倉時代後期から室町時代前期の石造塔11基で、昭和36年(1961年)3月23日に重要文化財に指定された。内訳は石造五輪塔4基、石造宝篋印塔5基、石造宝塔2基。いずれも花崗岩製で、本堂の裏手にあたる高台の墓地の一角に、土塀で囲われて並んでいる。

ただし、造立当初からこの並びだったわけではない。元禄17年(1704年)に付近の谷間へ散在していた塔を集めてここへ据えたと伝えられており、基礎・塔身・笠・相輪の組み合わせが本来のものと入れ替わっている可能性が指摘されている。国指定文化財等データベースは11基を各1基ずつ別々に登録しているため、現地で数えた「11」と台帳上の記載が食い違って見えることがある。

年号を刻む塔が3基ある。正面中央の五輪塔には正中3年(1326年)二月廿五日の刻銘があり、正面右の宝篋印塔の1基も同じ正中3年(1326年)。向かって左側の宝篋印塔の1基には延文2年(1357年)の銘が入る。この3基の年号が、群全体を鎌倉時代末から室町時代初期に位置づける手がかりになっている。無銘の塔も、様式からその範囲に収まると考えられている。

11基がまとまって残ることの意味

中世の石塔そのものは西日本各地に残る。多くは1基か2基が単独で伝わる形で、乗禅寺石塔が昭和36年(1961年)に指定された理由は、三つの塔形にわたる11基が、年号を持つ塔を含んだまま一か所に揃っている点にある。無銘の塔を有銘の塔と突き合わせて年代を推し量ることができ、形式の違いも並べて比較できる。

延喜を含む旧乃万地区は、野間・神宮などにも中世石造物が集中する土地である。文化庁の日本遺産ポータルサイトは、芸予諸島を舞台とする村上海賊の物語のなかで、乃万地区の石塔群を「島々をつなぐ南北の交流の礎」を示す構成文化財として扱い、その意匠に職人の移動の跡を読み取っている。島嶼部で見られる彫りの約束事が本土側のこの場所にも現れるという指摘で、木造建築では追いにくい種類の結びつきが、石には残りやすい。

元禄17年(1704年)の集約は、この評価を損なうものではない。組み合わせが混ざっていたとしても、部材そのものが彫られた年代は動かない。愛媛県内で、鎌倉後期から室町前期の石工の仕事をひと目で見比べられる場所は、そう多くない。

見どころ

まず三つの塔形を見分けたい。五輪塔は下から方形・球形・三角錐(宝形)・半球・宝珠を積み、地・水・火・風・空の五大を表す。宝篋印塔は方形の塔身の上に段形の笠を載せ、笠の四隅が外へ跳ね上がる隅飾を持ち、その上に細い相輪が立つ。宝塔は円筒形の塔身に方形の笠を載せる。4基・5基・2基が、立ち止まった一点から視野に収まる範囲に並んでいる。

次に彫りを見る。花崗岩は硬く、石工は手を抜けるところで手を抜いた。宝篋印塔の隅飾の反り、五輪塔の火輪の勾配、笠裏の削り方。こうした細部が世代ごとに動く部分で、正中3年(1326年)銘の2基を基準に隣の無銘塔を眺めると、読み解きの手がかりになる。

刻銘は浅い。数百年の雨が花崗岩の彫りを痩せさせているので、真昼より、光が斜めから当たる時間帯のほうが読み取りやすい。

場所そのものも見どころのうちに入る。石塔群は本堂の裏の高台、墓地の一角にあり、土塀に囲まれて、短い上りの先に現れる。乗禅寺は地元で「延喜の観音さま」と呼ばれ、江戸時代の住職が考案したというおみくじで知られる寺でもある。

見学方法

今治市の観光案内では、乗禅寺石塔の見学時間は「自由」、休日は無休、料金は無料とされている。見学の目安は30分。1基ずつ見て回るならおおむねその程度かかる。

車なら今治インターチェンジから約5分。バスの場合は今治駅前からせとうちバス菊間線に乗り、約11分で延喜下車、そこから徒歩約15分。今治市の案内では駐車場は「無」となっている。問い合わせ先は乗禅寺(電話0898-22-4671)、所在地は今治市延喜甲600。

現地では二点、心に留めておきたい。石塔群が立つのは現役の墓地の一角なので、墓参の場に入るつもりで歩くこと。もう一点は撮影で、寺として撮影の可否を明示した案内は確認できなかった。個人の記録にとどめ、墓所や参拝者にレンズを向けないようにし、三脚を立てる、長時間撮影するといった場合は事前に寺へ確認するのが確実である。

Q&A

Q乗禅寺石塔は何基ありますか。内訳は何ですか。
A全部で11基です。石造五輪塔4基、石造宝篋印塔5基、石造宝塔2基からなり、いずれも花崗岩製です。11基すべてが一括して重要文化財に指定されています。
Q乗禅寺石塔は自由に見学できますか。拝観料はかかりますか。
A見学できます。今治市の観光案内では時間は自由、無休、料金は無料とされています。本堂裏の高台にある墓地の一角に、屋外で立っています。
Q乗禅寺石塔へは公共交通機関でどう行けますか。
A今治駅前からせとうちバス菊間線に乗り、約11分の延喜バス停で下車、徒歩約15分です。車の場合は今治インターチェンジから約5分ですが、今治市の案内では駐車場は無しとされています。
Q乗禅寺石塔に刻まれた年号はいつのものですか。
A3基に銘があります。正面中央の五輪塔と正面右の宝篋印塔の1基が正中3年(1326年)、向かって左側の宝篋印塔の1基が延文2年(1357年)です。刻銘は浅く、斜めの光が当たる時間帯のほうが読み取りやすくなります。
Q乗禅寺石塔は建てられた当初の場所に立っているのですか。
Aおそらく違います。元禄17年(1704年)に付近の谷間に散在していた石塔を集めて現在の場所に据えたと伝えられており、部材の組み合わせも当初とは異なっている可能性があります。

基本データ

名称乗禅寺石塔
所在地愛媛県今治市延喜(乗禅寺境内)
指定区分重要文化財(建造物)
指定年昭和36年(1961年)3月23日指定
員数11基(石造五輪塔4基、石造宝篋印塔5基、石造宝塔2基)
寸法各塔の高さは公表資料に記載なし
所有者乗禅寺
公開状況屋外で常時見学可能、拝観料は無料

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「乗禅寺石塔」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3364
文化庁 日本遺産ポータルサイト「乗禅寺(乃万地区の石塔群)」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/2517/
今治市 観光情報「石塔めぐり」
https://www.city.imabari.ehime.jp/kanko/spot/?a=117

最終更新日: 2026.09.04

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