丸岡城天守
丸岡城天守の屋根は、瓦ではなく石で葺かれている。福井市近郊で産する青みを帯びた笏谷石(しゃくだにいし)を薄く割った石瓦が二重の屋根を覆い、その重量は推定で七十五トンから百二十トンに及ぶ。粘土瓦は厳寒で凍み割れ、北陸の冬は長く雪に閉ざされる。石瓦葺の天守は現存するなかで丸岡城ただ一つであり、この屋根は気候への明快な答えでもある。
天守が建つのは、福井県坂井市丸岡町の独立した小丘の上である。外観は二重、内部は三階の独立式望楼型で、入母屋造の一階の上に望楼を載せる古式の構成をとる。日本に残る十二の現存天守のうち、日本海に面する北陸でただ一基の現存天守がこれにあたる。
重要文化財としての価値と、年代をめぐる再検証
丸岡城は天正4年(1576)、柴田勝家の甥にあたる柴田勝豊が北ノ庄城の支城として築いた。長くこの天守も築城時の建築と考えられてきた。天守台は矢穴技法を用いない野面積であり、軒裏を漆喰で塗り込めない素朴な仕上げを残す。いずれも古い天守の特徴であり、天正期創建説の根拠とされてきた。
その理解を覆したのが自然科学的調査である。坂井市の委嘱を受けた調査研究委員会は2015年から2019年にかけて、年輪年代測定法、放射性炭素年代測定法、酸素同位体比年輪調査法によって部材の伐採年代を検討した。主要部材の多くが1620年代後半の伐採と判明し、現存天守は寛永期、丸岡藩成立期の初代藩主・本多成重による造営、おおよそ寛永5年(1628)頃の建築とみるのが妥当との結論に至った。なお文化庁の国指定文化財等データベースは、現在も天正4年の年代を記載している。築城の年と、この天守が建てられた年とは別の事柄であり、両者の食い違いはそこに由来する。
この再検証によって「現存最古の天守」の称は退いたが、文化財としての位置づけは揺らがない。丸岡城天守は昭和9年(1934)1月30日に重要文化財に指定され、現在もその指定を保つ。先行する調査では石瓦の下層に杮葺(こけらぶき)の痕跡も確認されており、現在の石瓦葺が当初の姿であったとは限らないことも示されている。
見どころ
内部の階段は急である。各階を結ぶ階段はほとんど梯子に近い勾配で、備え付けの綱を頼りに身体を引き上げて登る。薄暗い内部を上る感覚そのものが、この天守の古さを伝えている。最上階に立つと、四方の窓から福井平野が開け、晴天の日には遠く山並みまで見渡せる。
外に出れば、石瓦の屋根をゆっくり眺めたい。石の板は粘土瓦よりも重く平たく、灰色に風化した堅牢な質感を建物に与えている。丸岡城は昭和23年(1948)の福井地震で天守が倒壊するという大きな試練を経た。新材で建て直すのではなく、倒れた梁・柱・石を旧材として回収し、自らの部材を組み直して昭和30年代に復旧を終えた。いま登る建物は、地震以前の木材をおおむねそのまま受け継いでいる。
実用的な注意点を一つ。2025年度から2027年度にかけて、耐震対策と屋根修理などを含む保存修理が進められている。期間中は足場と養生幕が天守を覆い、工事の進捗によっては内部や本丸の一部で立入が制限される。登閣を目的に訪れる場合は、事前に坂井市へ現況を確認するとよい。
Q&A
- 丸岡城天守は現存最古の天守ですか。
- 現在ではそうとは言えません。天正4年(1576)創建説に基づく主張でしたが、2019年に公表された部材の科学的年代調査により、現存天守は寛永期、1628年頃の建築と推定されました。より古い現存天守が複数あることになります。
- 屋根が石でできているのはなぜですか。
- 日本海側の凍てつく雪の冬には、粘土瓦が割れやすいためです。地元産の笏谷石を割った石瓦はこれによく耐えます。石瓦葺の現存天守は丸岡城のみです。
- 天守の内部に入れますか。
- 通常は急な内部階段から登れます。ただし2025年度から2027年度の保存修理期間中は入場が制限される場合があるため、訪問前に現況をご確認ください。
- 行き方を教えてください。
- 坂井市丸岡町にあります。JR福井駅からバス便があり、北陸自動車道丸岡インターチェンジから車で約10分です。
基本情報
| 名称 | 丸岡城天守(まるおかじょうてんしゅ) |
|---|---|
| 所在地 | 福井県坂井市丸岡町霞町一丁目 |
| 指定区分 | 重要文化財(昭和9年〈1934〉1月30日指定) |
| 員数 | 1棟 |
| 構造・形式 | 二重三階天守、石製本瓦葺(笏谷石) |
| 年代 | 天正4年(1576)築城。現存天守は科学的調査により寛永期・1628年頃と推定 |
| 所有者 | 坂井市 |
| 公開 | 通常は内部公開。2025〜2027年度の保存修理により制限の場合あり |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)丸岡城天守
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/831
- 城びと「総合的な調査で明らかになった丸岡城天守の価値」
- https://shirobito.jp/article/811
- nippon.com「江戸期以前の天守が現存する12の城:重要文化財編」
- https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00413/
最終更新日: 2026.06.22