有馬家霊屋:久留米・梅林寺に佇む五棟の重要文化財霊廟建築

福岡県久留米市、筑後川のほとりに佇む臨済宗の古刹・梅林寺。その本堂の裏手、松林に包まれた丘陵に、五棟の霊廟建築が厳かに並び立っています。これが「有馬家霊屋(ありまけたまや)」です。寛永7年(1630)から承応4年(1655)にかけて順次建てられたこの霊廟群は、久留米藩主有馬家の初期の当主たちを祀る貴重な建造物であり、2018年(平成30年)12月25日に国の重要文化財に指定されました。九州地方における大名家霊廟建築としては唯一の重要文化財であり、日本の近世霊廟建築の地方的展開を知る上で欠かすことのできない存在です。

有馬家の歴史:播磨の名門から久留米藩主へ

有馬氏は、室町時代の播磨守護職・赤松則祐の子義祐が摂津国有馬郡を領したことに始まる名門です。村上源氏の流れを汲む由緒ある家柄でありながら、戦国の動乱の中で一時は所領を失い、苦境に立たされました。

転機をもたらしたのは、藩祖・有馬則頼(天文2年/1533年生)です。豊臣秀吉に仕えて軍功を重ね、播磨国淡河3,200石から始まり、最終的には摂津三田藩2万石の大名へと立身しました。関ヶ原の戦い(1600年)では東軍に属し、徳川家康の信頼を勝ち取ります。

則頼の次男・有馬豊氏(永禄12年/1569年生)は、父とともに秀吉・家康に仕え、関ヶ原での武功により丹波福知山6万石を拝領。さらに大坂の陣での功績も加わり、元和6年(1620年)には筑後国久留米21万石へと加増転封され、九州有数の大名となりました。

元和7年(1621年)に久留米に入部した豊氏は、丹波福知山にあった瑞巌寺を移建し、父・則頼の戒名「梅林院殿」にちなんで「梅林寺」と名づけました。以来約250年間、有馬家は久留米藩を治め、梅林寺は歴代藩主の菩提寺として崇敬されてきたのです。

五棟の霊廟建築

有馬家霊屋は、梅林寺本堂の裏手の丘に、下段と上段の二層に分けて配置されています。下段には五輪塔を納める「霊屋(たまや)」、上段には壮麗な宮殿を安置する「位牌廟(いはいびょう)」が建てられ、この二棟を一対として祀るという独自の様式が大きな特徴です。

梅林院霊屋(ばいりんいんたまや)— 藩祖・有馬則頼の霊屋

寛永7年(1630)建立。正面三間・側面三間の入母屋造、本瓦葺。五棟の中で最も古い建造物です。内部は石敷きとなっており、則頼夫妻と娘の五輪塔が安置されています。「梅林院」の名が示す通り、梅林寺そのものの名の由来となった人物を祀る、象徴的な霊屋です。

春林院霊屋(しゅんりんいんたまや)— 初代藩主・有馬豊氏の霊屋

寛永20年(1643)建立。正面三間・側面三間の宝形造、本瓦葺。久留米藩初代藩主として、荒廃した久留米城の修築から城下町の整備、島原の乱への出兵など、波乱に満ちた治世を送った豊氏の五輪塔を納めています。

春林院位牌廟(しゅんりんいんいはいびょう)— 有馬豊氏の位牌堂

寛永20年(1643)建立。二間×三間の入母屋造(当初は宝形造)、桟瓦葺。上段に位置し、内部には豪華な宮殿型の厨子が収められ、豊氏の位牌が安置されています。下段の春林院霊屋と対をなし、有馬家霊廟の独自の祭祀体系を形成しています。

長壽院位牌廟(ちょうじゅいんいはいびょう)— 豊氏室(蓮姫)の位牌堂

慶安5年(1652)建立。春林院位牌廟と同様の規模・形式で、内部に宮殿と9代藩主・頼徳の石塔を安置しています。蓮姫は徳川家康の養女であり、有馬家と徳川家を結ぶ要の存在でした。この位牌廟は、豊氏の正室に対する敬意と、徳川との深い縁を今に伝えています。

瓊林院位牌廟(けいりんいんいはいびょう)— 二代藩主・有馬忠頼の位牌堂

承応4年(1655)建立。五棟の中で最後に建てられた建造物で、規模・形式は他の位牌廟と同様です。内部に宮殿型の厨子が安置されています。忠頼は豊氏の長男として久留米藩を継ぎ、短い在任期間ながらも藩政に足跡を残しました。

なぜ重要文化財に指定されたのか

有馬家霊屋が重要文化財に指定された理由は、大きく三つあります。

第一に、下段の霊屋(五輪塔を納める建物)と上段の位牌廟(宮殿型厨子を安置する建物)を一対として祀るという、他に類を見ない独自の建築配置と祭祀体系を有している点です。この二層構造は、全国の大名家霊廟の中でも極めて特異なものです。

第二に、寛永7年から承応4年までの約25年間に順次建設された五棟が、廟所形式を次第に簡素化していく過程を示しており、近世大名家の墓所に共通する変遷の特質を具体的に読み取ることができる点です。

第三に、五棟の霊廟建築群が良好な状態で現存していること自体が、九州地方では極めて希少です。全国的に見ても、大名家墓所の建築群がこれほどの規模で残っている例は数少なく、我が国における霊廟建築の地方的展開を理解する上で高い価値を有しています。

見どころと魅力

霊屋群は、梅林寺本堂の裏手の松林の中に静かに佇んでいます。石灯籠に導かれながら丘を上ると、まず下段に則頼と豊氏の二棟の霊屋が並び、その奥の上段に三棟の位牌廟が一列に建つ姿が現れます。都会の喧騒からわずか数分の場所にありながら、深い静寂に包まれた空間は、まさに別世界です。

建物の随所に施された有馬家の家紋「笹竜胆(ささりんどう)」にもご注目ください。軒先や装飾部分に描かれた紋様は、この地を250年にわたって治めた大名家の誇りを静かに物語っています。

霊屋群に附(つけたり)として指定されている五輪塔7基、石灯籠9基、宮殿3基、石塔1基も見どころの一つです。また、2021年には「久留米藩主有馬家墓所」全体が国の史跡に指定されており、霊屋のみならず歴代藩主の墓碑群も歴史的な景観を形成しています。

梅林寺の本堂前に建つ唐門(明治20年建築)も必見です。檜皮葺の屋根と精緻な木彫が見事で、扉に施された浮き彫りは近代和風建築の高い技術を示しています。

梅林寺の梅と四季の魅力

梅林寺に隣接する外苑は、約30種500本の梅が植えられた久留米屈指の梅の名所です。毎年2月上旬から3月上旬にかけて白梅、紅梅、枝垂れ梅が競い合うように咲き誇り、甘い香りが境内を包みます。外苑内にある「ティーハウス梅苑」では、お抹茶やぜんざい、コーヒーなどをいただきながら、梅花を楽しむことができます。

梅の季節以外にも、新緑の頃や秋の紅葉の時期には、筑後川のほとりの静かな境内が格別の美しさを見せます。禅寺ならではの凛とした空気の中、四季折々の風情を味わえるのが梅林寺の大きな魅力です。

周辺情報

梅林寺から徒歩圏内には、数多くの見どころがあります。筑後川沿いに約800メートル歩くと、全国に約200社ある水天宮の総本宮「水天宮」があります。安産・子授けの神として知られ、建久元年(1190年)に創建された歴史ある神社です。

久留米城跡の天守台に建つ「有馬記念館」では、歴代藩主の甲冑、古文書、刀剣などの貴重な資料を展示しており、有馬家の歴史をより深く知ることができます。城跡からは久留米市街と筑後川の眺望も楽しめます。

久留米は「とんこつラーメン発祥の地」としても知られ、市内には数多くのラーメン店が軒を連ねています。また、国指定伝統的工芸品「久留米絣(かすり)」の産地でもあり、藍染めの美しい織物は土産物としても人気があります。

Q&A

Q霊屋の内部を見学することはできますか?
A霊屋群は梅林寺境内に所在しており、外観は見学できますが、内部公開は限定的です。梅林寺は現役の禅宗修行道場であるため、一部エリアに立入制限がある場合があります。事前に梅林寺(TEL: 0942-32-2565)にお問い合わせいただくことをお勧めいたします。
Q拝観料はかかりますか?
A隣接する外苑(梅林)は無料で散策できます。境内の拝観条件については最新の情報を梅林寺に直接ご確認ください。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A梅の見頃である2月中旬から3月上旬が最も賑わう季節です。ただし、霊屋群と境内は四季を通じて美しく、特に秋の紅葉の時期や、観光客の少ない平日は静かな雰囲気の中でゆっくりと見学できます。
Q駐車場はありますか?
A梅林寺周辺には河川敷駐車場が利用可能ですが、スペースが限られているため、JR久留米駅からの徒歩(約5分)など公共交通機関の利用がおすすめです。
Q有馬家霊屋と久留米藩主有馬家墓所は同じものですか?
A有馬家霊屋(重要文化財・5棟の建造物)は、久留米藩主有馬家墓所(国史跡・2021年指定)の一部です。墓所全体には歴代藩主の墓碑や三層塔なども含まれ、霊屋はその中核をなす建築群です。

基本情報

名称 有馬家霊屋(ありまけたまや)
構成建造物 梅林院霊屋、春林院霊屋、春林院位牌廟、長壽院位牌廟、瓊林院位牌廟(5棟)
文化財指定 国指定重要文化財(平成30年12月25日指定)
建造年代 寛永7年(1630)〜承応4年(1655)
所在地 福岡県久留米市京町209(梅林寺境内)
所有者 宗教法人梅林寺
宗派 臨済宗妙心寺派
アクセス JR久留米駅西口より徒歩約5分/西鉄バス40番「梅林寺」バス停下車/九州自動車道久留米ICより車で約20分
問い合わせ 梅林寺 TEL: 0942-32-2565/久留米市観光案内所 TEL: 0942-33-4422
関連指定 久留米藩主有馬家墓所(国史跡・令和3年3月26日指定)

参考文献

有馬家霊屋 梅林院霊屋 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/377717
有馬家霊屋 長壽院位牌廟 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/440876
有馬家霊屋 春林院霊屋 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/411265
久留米藩主有馬家墓所 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/584633
梅林寺 — 久留米公式観光サイト ほとめきの街
https://welcome-kurume.com/spots/detail/4ec3b2dd-9c8e-49e5-86bc-3075af7d95b4
有馬家の歴史 — 有馬記念館
https://www.arimakinenkan.or.jp/histories/
梅林寺 (久留米市) — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%85%E6%9E%97%E5%AF%BA_(%E4%B9%85%E7%95%99%E7%B1%B3%E5%B8%82)
福岡県文化財データベース — 梅林寺唐門
https://www.fukuoka-bunkazai.jp/frmDetail.aspx?db=1&id=284
久留米藩 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%85%E7%95%99%E7%B1%B3%E8%97%A9
梅林寺外苑の梅見 — たびらい
https://www.tabirai.net/sightseeing/column/0007189.aspx
500本の梅が咲き誇る!梅林寺 — もっと福岡
https://fukuoka-yokamon.com/cities/kurume_city/bairinji

最終更新日: 2026.03.07

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