旧九州帝国大学とは ― 箱崎サテライトに残る近代建築5件
旧九州帝国大学は、福岡県福岡市東区箱崎の九州大学箱崎サテライト(旧箱崎キャンパス)に残る大正3年(1914年)から昭和5年(1930年)にかけての近代建築群で、令和5年(2023年)と令和6年(2024年)に計5件が登録有形文化財に登録された。
内訳は、工学部本館・本部事務室棟・本部建築課棟・門衛所の4棟が令和5年(2023年)2月27日の登録、正門及び塀が令和6年(2024年)8月15日の登録である。文化庁のデータベースでは5件とも「旧九州帝国大学」の名を冠していて、九州大学が所有する建造物として初めての登録有形文化財になった。大学は、正門及び塀の登録で箱崎サテライトに残る建造物がすべて登録されたと発表している。
九州大学は平成30年(2018年)までに伊都キャンパスへの移転を終え、広い箱崎キャンパスの跡地はいま再開発が進んでいる。旧九州帝国大学の5件が残る南東の一角だけは大学が持ち続け、令和3年(2021年)に「九州大学箱崎サテライト」と名付けられた。平成24年(2012年)に学内のワーキンググループが200棟あまりのうち24棟を調べ、歴史的価値が特に高いとして選んだのがこの5件である。それ以外の建物は令和3年までに解体された。
旧九州帝国大学の5件と建てられた時期
旧九州帝国大学の5件を、正門から構内へ入る順に並べると次のようになる。
- 正門及び塀(大正3年・1914年):煉瓦造の門柱と総延長41mの塀。大正13年(1924年)に現在地へ移された
- 門衛所(大正3年・1914年):正門の脇に建つ煉瓦造平屋。正門と同じ年に移築された
- 本部建築課棟(大正14年・1925年):本部事務室棟と横並びに建つ、地下室付きの小さな煉瓦造2階建
- 本部事務室棟(大正14年・1925年):長く大学本部が置かれた煉瓦造2階建
- 工学部本館(昭和5年・1930年):本部事務室棟と向かい合う鉄筋コンクリート造の校舎
登録基準は、4棟が「造形の規範となっているもの」、正門及び塀が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。各棟の造りと見どころは、それぞれのページで紹介している。
旧九州帝国大学が箱崎に生まれるまで
九州大学の起点は、明治36年(1903年)に現在の東区馬出に開かれた京都帝国大学福岡医科大学である。明治44年(1911年)、文部省の予算に古河家と福岡県・福岡市の寄付を加えて、箱崎町字地蔵松原に工科大学が整えられ、国内4番目の帝国大学として九州帝国大学が発足した。大学の説明資料によると、敷地はもともと畑地で、いまの国道3号のあたりが海岸線だった。
転機は大正12年(1923年)12月である。工科大学の煉瓦造の本館が火災で全焼した。同じ年の関東大震災と重なり、これ以後の建物は耐震・耐火の鉄筋コンクリート造とするよう学内から強く求められた。
本館の再建を待つあいだの研究室・実験室として、大正14年(1925年)に煉瓦造の2棟が建てられた。のちに大学本部として使う前提だったため、仮設ではなく永く使える造りにしたのである。これが本部事務室棟と本部建築課棟になる。昭和5年(1930年)に工学部本館が完成すると、それまで馬出の医学部にあった大学本部がこの2棟へ移り、旧九州帝国大学の中心が箱崎に定まった。
旧九州帝国大学の建物を設計した建築課
旧九州帝国大学の5件は、いずれも大学の建築課長だった倉田謙の統括のもとで設計された(正門及び塀は倉田の設計である可能性が高いとされる)。創設期の九州帝国大学には、東京帝国大学の建築学科を出た技師を集めた設計組織があり、倉田はそれを長く率いて、坂部保治や小原節三ら若い技師とともにキャンパスの主要な建物を手がけた。
九州大学の堀賀貴教授は、登録にあたって、辰野金吾以来の様式建築を受け継ぐ本部事務室棟と、倉田が欧米視察の経験をもとに小原の造形力を生かした工学部本館が、中庭を挟んで向かい合う配置に注目している。両棟の正面玄関は一本の軸線上に並び、古典的な煉瓦造と昭和初期の新しいデザインが、わずか5年の差で向き合っている。
旧九州帝国大学を訪ねるには
旧九州帝国大学の建物が残る九州大学箱崎サテライトへは、福岡市地下鉄箱崎線の箱崎九大前駅が最寄りである。2番出口から新道側の入口まで徒歩約6分、正門まで徒歩約10分。JR鹿児島本線の箱崎駅からは、西口(筥崎宮側)を出て箱崎3丁目、九大正門入口の交差点を経て、正門まで徒歩約10分かかる。西鉄バスの「箱崎松原」バス停からも徒歩約10分である。
構内は歩行者だけが通れる。車では入れないので近くの時間貸し駐車場を使い、自転車は降りて押して歩く。周辺の跡地は再開発の工事が続いており、入口や通路が変わることがある。
建物の内部で一般に公開されているのは、工学部本館3階にある九州大学総合研究博物館の常設展示室である。改修工事のため令和7年(2025年)7月から閉室していたが、令和8年(2026年)5月16日に再開した。開室は平日の午前10時から午後4時までで、土曜・日曜・祝日と大学の一斉休業日は休み、入館は無料である(2026年9月確認)。本部事務室棟・本部建築課棟・門衛所の内部公開の案内は出ておらず、外観を見て歩くことになる。
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州帝国大学工学部本館」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014543
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州帝国大学本部事務室棟」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014544
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州帝国大学本部建築課棟」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014545
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州帝国大学門衛所」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014546
- 文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州帝国大学正門及び塀」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015103
- 九州大学「旧九州帝国大学(現国立大学法人九州大学箱崎サテライト)近代建造物群について」(PDF)
- https://www.kyushu-u.ac.jp/f/50488/20221116hakozaki.pdf
- 九州大学「九州大学初・箱崎の近代建築物群が国の登録有形文化財に」
- https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/topics/view/1854/
- 九州大学「箱崎に残る全ての近代建築物群が国の登録有形文化財に」
- https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/topics/view/2058/
- 九州大学総合研究博物館「アクセス」
- https://www.museum.kyushu-u.ac.jp/access/index.html
- 九州大学総合研究博物館「イベント」(常設展示室リニューアルオープン)
- https://www.museum.kyushu-u.ac.jp/event/index.html
最終更新日: 2026.09.30
基本情報
| 名称 | 旧九州帝国大学 |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県福岡市東区箱崎六丁目10-1 |
| 所有者 | 国立大学法人九州大学 |
| 指定 | 登録有形文化財 5件 |
| 座標 | 33.62203, 130.42569 |