福岡城跡とは — 黒田長政が築いた筑前52万石の居城

福岡市中央区城内、地下鉄赤坂駅から歩いて10分ほどの場所に、東西約1キロメートル、南北約700メートルにわたる大規模な城跡が広がっている。本丸、二の丸、三の丸を含む内郭の面積はおよそ41万平方メートル。国指定史跡としての範囲は約48万平方メートルに及び、近世城郭としては全国でも有数の規模を誇る。

築城を命じたのは、初代福岡藩主・黒田長政(1568〜1623)である。関ヶ原の戦いの戦功により豊前国中津12万石から筑前国52万石に加増されて移封され、慶長6年(1601)から慶長12年(1607)にかけて、警固村福崎と呼ばれた一帯に城を構えた。福崎の地は古代から博多湾に面した平地で、博多の商業地と那珂川を隔てて対峙する立地にあたる。

「福岡」という地名は、黒田氏の故地である備前国邑久郡福岡(現在の岡山県瀬戸内市長船町福岡)に由来する。海側から眺めた縄張りが鶴の翼を広げた姿に似ていたことから「舞鶴城」とも呼ばれ、また石垣の堅固さを称えて「石城」の別名もあった。

城は梯郭式平山城と呼ばれる形式をとり、本丸の周囲に二の丸、東二の丸、南二の丸、三の丸が順に取り巻く。築城時には、大・中・小の三つの天守台と、47棟もの櫓が連なっていたと伝えられる。明治維新後、ほとんどの建物が解体や払い下げで失われたが、石垣と縄張りはほぼ往時の姿のまま今日まで残った。

史跡指定の理由と歴史的価値

福岡城跡が国の史跡に指定されたのは、昭和32年(1957)8月29日のことである。指定の根拠となったのは、第一に、近世初期の大規模な平山城の縄張りが極めて良好な状態で保存されている点にある。本丸、二の丸、三の丸の郭割り、虎口の配置、堀の構造といった築城技術の実例が、現地で具体的に確認できる。

もう一つ、この場所の価値を一段と複層的にしているのが鴻臚館跡の存在である。昭和62年(1987)12月、城内の平和台野球場改修工事に伴う発掘調査で、飛鳥・奈良・平安時代の外交施設「鴻臚館」の遺構が発見された。鴻臚館は平安京、難波、筑紫の三か所に置かれた迎賓・交易の拠点で、唐や新羅の使節、遣唐使や遣新羅使がここを行き来した。中国越州窯青磁、長沙窯磁器、新羅・高麗陶器、西アジアのイスラム陶器、ペルシャ系ガラス器など、出土遺物の国際色は際立つ。鴻臚館跡は平成16年(2004)に別途国史跡に指定されており、三の丸跡は二重に史跡指定を受けた稀有な場所となっている。

つまり福岡城跡は、江戸時代の城郭遺構というだけでなく、その地下に古代日本最大級の国際交流拠点が眠るという二重構造を持つ。一つの敷地で7世紀から19世紀までの千年余にわたる対外関係史を俯瞰できる点に、この史跡の本質的な価値がある。

城内の見どころ

南丸多聞櫓(国指定重要文化財)

城内に唯一、築城当時の場所に立ち続けているのが南丸多聞櫓である。昭和46年(1971)12月28日に国の重要文化財に指定された。指定名称は「福岡城南丸多聞櫓 1棟」で、南西角にある二重二階建切妻造の南角櫓と、桁行30間(およそ54メートル)の西平櫓を合わせて1棟として扱う。総延長は約72メートルに及ぶ。

多聞櫓というと内部が突き抜けの一室になっている例が多いが、この櫓は16の小部屋に区切られている点で異色である。棟札によれば、平櫓の南寄り28間は嘉永6年(1853)に建て替えられたものという。石落しや鉄砲狭間が要所に設けられており、平時は武具庫として、有事には防御施設として機能した。

内部は通常非公開だが、毎年春(4〜5月)と秋(10〜11月)の土日祝日を中心に特別公開が行われ、福岡市観光案内ボランティアガイドが常駐して解説する。日本100名城スタンプのモデルもこの多聞櫓である。

大天守台と天守をめぐる議論

本丸の最高所にある大天守台は、上面の規模が東西約25メートル、南北約22メートル。内部は地下室式の穴蔵となっており、建物を支えていた礎石が約40個残る。現在は展望台として開放され、博多湾と福岡市街を一望できる。

天守閣が実際に建てられたかどうかは長く論争の的だった。正保3年(1646)作成の「福博惣絵図」に天守が描かれていないことから、幕府への遠慮で造らなかったとする説が主流だった。一方で、令和6年(2024)12月に「天守を建てた」と記す新史料が見出され、存在説が改めて浮上している。令和7年度から天守台周辺の発掘調査が始まる予定であり、結論は今後の調査を待つ段階にある。

復元・移築された門と櫓

令和7年(2025)3月17日、三の丸広場の北西隅に潮見櫓が復元公開された。明治41年(1908)に博多区の崇福寺へ移築されて仏殿に転用されていたものを、平成3年(1991)の調査で「これが本来の潮見櫓だ」と判明し、約4億円をかけて元の位置に戻した。江戸時代の部材を可能な限り再利用し、木組みも伝統的な工法で組み直されている。

下之橋御門は、福岡城の門のうち現在も本来の位置に建つ唯一の門である。福岡県指定有形文化財。平成12年(2000)の不審火で半焼したが、平成20年(2008)に二層の姿で復元された。焼失前は一層だったものの、調査の結果、本来は二層が正しい姿と判断されたためである。下之橋御門のすぐ脇にあるのが「(伝)潮見櫓」で、長く潮見櫓と伝えられてきた建物だが、近年の調査で別物と判明したため「伝」が付くようになった。

このほか、本丸東北隅の祈念櫓(県指定)は石垣修復のため令和元年(2019)9月から解体保管中、旧母里太兵衛邸長屋門(県指定)、名島門(市指定)も城内に保存されている。名島門は黒田氏が福岡城を築く前に居城としていた名島城の脇門で、黒田二十四騎の一人・林掃部に下げ渡されて屋敷の門となり、その後城内に移された経歴を持つ。

鴻臚館跡展示館

三の丸の東部、かつての平和台野球場跡に建つ展示館では、発掘当時のまま残された遺構が覆屋の下に公開されている。礎石や柱穴、堀跡、奈良時代以前から平安時代までの五期にわたる変遷が、現地でそのまま読み取れる。原寸大の建物復元模型、出土した中国越州窯青磁、イスラム陶器、ペルシャ系ガラス器なども展示されている。入場は無料、開館時間は9時から17時(入館は16時30分まで)、年末年始(12月29日〜1月3日)は休館である。

周辺の見どころとアクセス

城跡の本丸から三の丸一帯は舞鶴公園として整備されており、福岡市民の散策の場となっている。城跡の堀沿いには約1000本のソメイヨシノが植えられ、春には多聞櫓のライトアップも行われる。堀には県指定天然記念物のツクシオオガヤツリが自生する。

城跡周辺には案内施設が三つある。平成24年(2012)4月に開館した福岡城むかし探訪館は、古地図や再現模型、CGによる時空のバーチャルムービーで城の往時の姿を紹介する。三の丸スクエアでは着物レンタルや休憩、観光案内が受けられる。鴻臚館跡展示館と合わせて、いずれも入場無料である。

城跡の北側には大濠公園が広がる。中央に大池を擁する都市公園で、能楽堂や日本庭園、福岡市美術館を擁する文化ゾーンとして発展してきた。城跡と大濠公園は2024年からの園路整備により回遊性が高められ、両公園を一体的に巡るルートが整えられた。

城内には万葉歌碑も置かれており、これは『万葉集』に収められた天平8年(736)の遣新羅使が筑紫館でよんだ歌に由来する。城跡という場が古代から近代に至るまで、この地の歴史の節目に立ち会ってきたことを静かに示す石碑である。

Q&A

Q福岡城跡は入場できますか。入場料は必要ですか。
A城跡の大部分は舞鶴公園として常時開放されており、入場は無料です。ただし多聞櫓の内部公開や一部のイベントは期間限定で、桜まつり等の期間中は一部エリアで有料となる場合があります。
Q多聞櫓の内部は見学できますか。
A内部は通常非公開ですが、毎年春(4〜5月)と秋(10〜11月)の土日祝日を中心に特別公開されます。日程は事前に福岡城むかし探訪館(電話 092-732-4801)または公式サイトでご確認ください。公開時はボランティアガイドの解説も受けられます。
Q天守閣はありますか。
A現在、天守閣はありません。築城当初に天守が建てられたかどうかは長く議論があり、令和6年(2024)に存在を示唆する新史料が発見されたことで再調査が始まる段階にあります。本丸の大天守台は展望台として開放されており、博多湾と福岡市街を見渡せます。
Qどのくらいの時間で見て回れますか。
A城跡だけを回るなら約1時間半、鴻臚館跡展示館、福岡城むかし探訪館を合わせて見学する場合は2〜3時間が目安です。広い敷地内を歩くため、歩きやすい靴でお越しください。隣接する大濠公園まで足を伸ばすなら、半日程度の余裕があると安心です。
Q桜の時期はいつ頃が見頃ですか。
A福岡市の平年値では3月下旬から4月上旬にかけてソメイヨシノが見頃を迎えます。堀沿いには約1000本のソメイヨシノが植えられ、毎年「福岡城さくらまつり」が開催されます。期間中は多聞櫓や石垣のライトアップも行われ、夜桜も楽しめます。

基本情報

名称福岡城跡(ふくおかじょうあと)
別名舞鶴城、石城
所在地福岡県福岡市中央区城内
指定区分国指定史跡
指定年月日昭和32年(1957)8月29日
指定面積約48万平方メートル(内郭約41万平方メートル)
築城慶長6年(1601)〜慶長12年(1607)、初代福岡藩主・黒田長政
主な現存・復元建造物南丸多聞櫓(国指定重要文化財)、(伝)潮見櫓・下之橋御門・祈念櫓・旧母里太兵衛邸長屋門(県指定有形文化財)、名島門(市指定有形文化財)、潮見櫓(令和7年復元)
重複指定三の丸の一部は鴻臚館跡(平成16年国史跡指定)と重複
公開状況城跡(舞鶴公園)は終日開放・入場無料。多聞櫓内部は春秋の特別公開時のみ。鴻臚館跡展示館は9:00〜17:00(入館は16:30まで)、年末年始休館
アクセス福岡市営地下鉄空港線「赤坂駅」または「大濠公園駅」から徒歩約8〜10分
問い合わせ福岡城むかし探訪館 電話 092-732-4801 / 福岡市文化財活用課 電話 092-711-4666

参考文献

福岡城跡 | 文化財情報検索 | 福岡市の文化財
https://bunkazai.city.fukuoka.lg.jp/cultural_properties/detail/62
福岡城(国史跡) | 【公式】福岡城・鴻臚館
https://fukuokajyo.com/historic/fukuokajo/
鴻臚館について | 【公式】福岡城・鴻臚館
https://fukuokajyo.com/kourokan/
鴻臚館跡 附女原瓦窯跡 | 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/163088
福岡城南丸多聞櫓 | 福岡県文化財データベース
https://www.fukuoka-bunkazai.jp/frmDetail.aspx?db=1&id=144
潮見櫓 3月17日公開決定 | 【公式】福岡城・鴻臚館
https://fukuokajyo.com/24253/

最終更新日: 2026.05.16