福岡城南丸多聞櫓:巨城の記憶を今に伝える唯一の現存櫓
福岡市の中心部、舞鶴公園の堂々たる石垣の上にそびえる南丸多聞櫓は、かつて47棟もの櫓を擁した福岡城において、江戸時代から現在の位置を保ち続ける唯一の櫓です。昭和46年(1971年)に国の重要文化財に指定されたこの建造物は、黒田長政が築いた九州最大級の城郭の往時の姿を今に伝える貴重な存在です。春には桜に彩られ、秋には特別公開が行われるこの櫓を訪れれば、400年以上にわたる歴史の重みを肌で感じることができるでしょう。
歴史的背景
福岡城は、慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦いで功績を挙げた黒田長政が、筑前国52万石の領主として慶長6年(1601年)から約7年の歳月をかけて築城したものです。城地となったのは那珂郡警固村福崎の丘陵地で、黒田氏ゆかりの備前国福岡(現在の岡山県瀬戸内市長船町福岡)の地名にちなんで「福岡」と名付けられました。この地名が現在の福岡市・福岡県の名の由来となっています。
博多湾から眺めると鶴が羽ばたく姿に似ていることから「舞鶴城」とも呼ばれた福岡城は、最盛期には47棟もの櫓を配した壮大な平山城でした。しかし、明治維新後の廃城令により城郭の大部分が解体され、当時の位置を保っている櫓は南丸多聞櫓のみとなりました。
現存する多聞櫓は、後世の改修を経て現在に伝えられています。棟札によれば、平櫓部分の南寄り28間は嘉永6年(1853年)から翌年にかけて建て替えられたものです。さらに、昭和47年(1972年)10月から昭和50年(1975年)3月にかけて2年半の歳月をかけた解体・復元工事が行われ、現在の姿に整備されました。
重要文化財に指定された理由
福岡城南丸多聞櫓は、昭和46年(1971年)12月28日に国の重要文化財に指定されました。その最大の理由は、福岡城に存在した47棟の櫓のうち、築城当時の位置を保っている唯一の建造物であるという点にあります。
建築的にも高い価値が認められています。一般的に多聞櫓の内部は壁のない「突き抜け」の状態であることが多いのに対し、本櫓は16の独立した小部屋に分かれているという珍しい構造を持っています。石落としのみで城外を見る窓のない部屋もあり、城郭防御の実態を知る上で貴重な事例となっています。
また、軒先を支える方杖(ほうづえ)や、垂木の端を端隠し板で覆う工法は福岡城に特徴的な建築技法とされており、地域の城郭建築史を研究する上でも重要な資料です。福岡城の景観を保つ上でも欠かせない存在であることも、指定の大きな要因となりました。
建築の特徴と見どころ
多聞櫓は、南丸(二の丸南郭)の西南隅の石垣上に位置し、南西角にある二重二階建て切妻造の角櫓(すみやぐら)と、桁行約54メートル(30間)の西平櫓(にしひらやぐら)から構成されています。この二つが連なるL字型の構造は、南丸一帯を守る防御の要として機能していました。
高く積み上げられた石垣の上に築かれた櫓には、石落としや鉄砲狭間(てっぽうざま)が随所に設けられており、いざという時に城外の敵を攻撃するための工夫が凝らされています。平時には武具庫として使用されていたことから「武具櫓」とも呼ばれていました。
特に興味深いのは、櫓の建材に施された工夫です。編み込まれた竹は有事の際にすべて弓の矢として使用でき、竹を結んでいた干しワラビは食料になるという、戦時の実用性まで考慮された設計がなされていたと伝えられています。
通常、内部は非公開ですが、ゴールデンウィーク期間中や10月・11月の週末、さらに11月上旬には「多聞櫓Week」として特別公開が実施されます。また、桜の季節にはライトアップが行われ、夜桜と櫓が織りなす幻想的な光景を楽しむことができます。
周辺情報
多聞櫓がある舞鶴公園は、福岡城跡を中心とした広大な緑地で、四季折々の花々が訪れる人の目を楽しませてくれます。園内には約1,000本の桜が植えられ、毎年春には「福岡城さくらまつり」が開催されます。また、1月下旬から2月中旬には約270本の梅が咲き誇る二の丸梅園も見どころです。
城跡内には多聞櫓以外にも多くの見どころがあります。下之橋御門や祈念櫓(県指定文化財)、母里太兵衛邸長屋門、名島門(市指定文化財)などの遺構が点在し、大天守台は展望台として福岡タワーやPayPayドームまで見渡せる絶景スポットとなっています。また、鴻臚館跡展示館では、平安時代の外交施設の遺跡を見学できます。
隣接する大濠公園は、大きな池を中心とした市民の憩いの場で、散策やボート遊びが楽しめます。公園内の福岡市美術館には、ミロやダリ、シャガールなどの名作から九州出身の画家の作品、さらに重要文化財を含む茶道具や仏教美術まで幅広いコレクションが展示されています。周辺の赤坂・六本松エリアでは、博多ラーメンやもつ鍋、水炊きなど福岡の名物グルメも堪能できます。
Q&A
- 多聞櫓の内部を見学することはできますか?
- 通常は内部非公開ですが、ゴールデンウィーク期間中や10月・11月の週末、11月上旬の「多聞櫓Week」に特別公開が実施されます。最新の公開情報は福岡城・鴻臚館公式ウェブサイトでご確認ください。
- 見学料金はかかりますか?
- 外観の見学は無料で、いつでも自由にご覧いただけます。舞鶴公園への入園も無料です。特別公開時の内部見学については、公式サイトまたは観光案内所でご確認ください。
- 公共交通機関でのアクセスは?
- 最寄り駅は福岡市営地下鉄空港線の大濠公園駅で、徒歩約16分(約1km)です。西鉄バスの場合は「福岡市美術館東口」バス停下車、徒歩約2分です。舞鶴公園には有料駐車場も完備されています。
- おすすめの訪問時期はいつですか?
- 桜の季節(3月下旬〜4月上旬)は「福岡城さくらまつり」が開催され、夜間ライトアップされた多聞櫓と夜桜の幻想的な光景が楽しめます。また、秋(10月〜11月)は内部特別公開と過ごしやすい気候が重なるおすすめの時期です。
- 周辺で他に見るべき文化財はありますか?
- 城跡内には、県指定文化財の下之橋御門・祈念櫓・母里太兵衛邸長屋門、市指定文化財の名島門などの遺構が点在しています。また、国指定史跡の鴻臚館跡展示館も隣接しており、平安時代の外交施設の遺跡を見学できます。
基本情報
| 名称 | 福岡城南丸多聞櫓(ふくおかじょう みなみまる たもんやぐら) |
|---|---|
| 指定 | 国指定重要文化財(昭和46年12月28日指定) |
| 時代 | 江戸時代(角櫓:江戸初期、平櫓:嘉永6〜7年/1853〜1854年建替え) |
| 構造 | 二重二階建切妻造の角櫓+桁行30間(約54m)の平櫓、内部16室 |
| 所在地 | 福岡県福岡市中央区城内1番1号 |
| 所有者 | 福岡市 |
| アクセス | 福岡市営地下鉄空港線 大濠公園駅より徒歩約16分、西鉄バス「福岡市美術館東口」下車徒歩約2分 |
| 見学 | 外観:常時自由、内部:GW・10〜11月の週末・多聞櫓Week等に特別公開 |
| 復元工事 | 昭和47年10月〜昭和50年3月(解体復元) |
| お問い合わせ | 福岡市経済観光文化局 文化財活用部 文化財活用課 TEL:092-711-4666 |
参考文献
- 福岡城南丸多聞櫓 — 福岡市の文化財
- https://bunkazai.city.fukuoka.lg.jp/cultural_properties/detail/142
- 福岡城南丸多聞櫓 — 福岡県文化財データベース
- https://www.fukuoka-bunkazai.jp/frmDetail.aspx?db=1&id=144
- 多聞櫓 — 【公式】福岡城・鴻臚館
- https://fukuokajyo.com/historic/tamonyagura/
- 福岡城南丸多聞櫓 — 国指定文化財等データベース(bunka.nii.ac.jp)
- https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/191303
- 多聞櫓と南北隅櫓 — 攻城団
- https://kojodan.jp/castle/92/memo/574.html
- 福岡城 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E5%9F%8E
最終更新日: 2026.04.02