大正12年に完成した造り酒屋の住まい
松岡家住宅主屋は、福岡県小郡市干潟にある木造住宅で、大正12年(1923年)に完成し、平成27年(2015年)8月4日に国の登録有形文化財(建造物)となった。
小郡市は筑紫平野の北部にあり、宝満川が市域を南北に貫く。干潟は川の東側、田畑の広がる一帯にあたる。県道から集落に入ると、水田の続く先に長い煉瓦塀が現れ、その奥に瓦屋根の大きな屋根が見えてくる。
建てたのは、地元干潟で酒造業を営んでいた美山家である。小郡市の登録文化財の記録は施主を美山多衛門とし、大正10年に起工、大正12年5月6日に上棟式が行われたと記す。二次的な資料では名の表記が異なるものもあるため、確実なのは「干潟の美山家が建てた」というところまでになる。
太平洋戦争前に建物は松岡家の手に渡り、松岡酒造として酒造りが続けられた。昭和30年代に酒造業は終わり、昭和40年頃からは料理店「とびうめ」として使われている。屋号は、かつてこの蔵で造られていた酒の銘柄を引き継いだものと伝わる。
登録有形文化財としての位置づけ
国の文化財保護には、指定と登録という性格の違う二つの仕組みがある。指定は国宝・重要文化財を生む強い規制を伴う制度で、登録はおおむね築50年以上の建造物を対象にした、より緩やかな制度である。所有者が使い続けながら守ることを前提としており、登録建造物の多くは今も住宅や店舗として現役で動いている。
主屋の登録番号は40-0126、第81回の登録による。適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、建物単体の希少性というより、集落の景観のなかで果たしている役割が評価されたことになる。
同じ日に、同一敷地の倉庫、玄関門、塀、門柱の4件も登録された。国の登録に先立ち、小郡市は平成24年(2012年)7月23日に母屋1棟と門1棟を小郡市登録有形文化財第1号としている。
面積については、資料によって数字が食い違う点に注意したい。文化庁のデータベースは建築面積380平方メートル、小郡市の解説は473平方メートル、市登録の記録は母屋の床面積579.18平方メートルとする。建築面積と床面積という測り方の違いによるもので、矛盾ではない。文化庁の記録には、昭和50年(1975年)の改修も併記されている。
訪ねたときに目を向けたいところ
南に面する主体部は、建ちが高い。入母屋造の屋根を妻入とし、その正面中央に一回り小さな入母屋の玄関を突き出す構えである。地方の民家で軒高を稼ぐのは費用のかかる選択で、この高さは意図して買われたものだろう。
西端の土間に入ると、天井が一気に抜ける。吹抜けの上には梁が何段にも組み上げられていて、住宅としての必要をはるかに超える太さと本数が渡してある。この一角だけは、住まいというより酒造場の作業空間の記憶を残している。
玄関の東側には、十五畳の広間が主体部から張り出す。造作には銘木が使われ、屋敷のなかで最も格の高い部屋にあたる。畳は約40年ぶりの入替えが近年の修繕で行われた。
探してみてほしい細部がひとつある。土間と床上の境に据わる上がり框で、小郡市の解説は長さ約9メートルのケヤキ一枚板と記す。軸組にはヒノキやカシも使われている。
傷跡にも目を向けたい。小郡は旧大刀洗飛行場に近く、昭和20年(1945年)の大刀洗空襲では爆撃の被害を受けた。市はその痕跡が現在も建物に残ると説明している。
庭は、近代に小郡から鳥栖にかけて活動した庭師・松尾仙六の作と伝わる。同じ小郡市の平田氏庭園は平成30年(2018年)に国の登録記念物となっており、そちらも松尾の作とされる。
訪問の前に押さえておきたい実際的な話をしておく。ここは博物館ではなく、営業中の料理店が入った個人の建物である。内部を見られるのは食事をする客に限られる。小郡市は創作懐石料理を5,720円からとし、3日前までの予約を求めている。蕎麦の昼食や蕎麦打ち体験も用意されている。最寄駅は西鉄天神大牟田線の三沢駅で、そこから東へ約2キロメートル、徒歩なら30分ほど、タクシーなら数分。予約がなくても、道路から煉瓦塀と門構えを眺めることはできる。屋内の撮影は他の客がいるため、店の方に一声かけるのが確実である。
Q&A
- 松岡家住宅主屋の内部は見学できますか。拝観料はかかりますか。
- 見学のみの公開は行われていません。建物には創作懐石料理・蕎麦の店「とびうめ」が入っており、内部を見られるのは食事をする客に限られます。拝観料の設定はなく、小郡市は3日前までの予約を案内しています。
- 松岡家住宅主屋はいつ建てられ、いつ文化財になりましたか。
- 大正10年(1921年)に起工し、大正12年(1923年)5月6日に上棟式が行われました。文化庁は年代を大正12年としています。国の登録有形文化財となったのは平成27年(2015年)8月4日、登録番号は40-0126です。小郡市の登録は平成24年(2012年)7月23日です。
- 松岡家住宅主屋はもともと何に使われていた建物ですか。
- 造り酒屋の住まいです。干潟で酒造業を営んでいた美山家が大正12年に建て、太平洋戦争前に松岡家に移って松岡酒造となりました。酒造業は昭和30年代に終わり、昭和40年頃から料理店として使われています。
- 松岡家住宅主屋へは電車でどう行けばよいですか。
- 西鉄天神大牟田線の三沢駅が最寄りです。天神からおよそ30分、三沢駅から東へ約2キロメートルで、徒歩30分ほど、タクシーなら数分です。三沢駅には普通列車のみが停車します。
- 松岡家住宅主屋の見どころはどこですか。
- 主に三点です。西端の土間の吹抜けに何段にも組まれた梁組、東へ張り出す十五畳の広間の銘木を使った造作、そして小郡市が長さ約9メートルのケヤキ一枚板と伝える上がり框です。昭和20年の大刀洗空襲による被害の痕跡も残されています。
基本情報
| 名称 | 松岡家住宅主屋(まつおかけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県小郡市干潟字中屋敷645-2 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 40-0126(第81回登録) |
| 指定年 | 平成27年(2015年)8月4日 国登録/平成24年(2012年)7月23日 小郡市登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積380平方メートル(小郡市の解説は473平方メートル、市登録の記録は床面積579.18平方メートル) |
| 所有者 | 非公表(文化庁データベースに記載なし) |
| 公開状況 | 料理店「とびうめ」として使用中。内部は要予約の食事利用者のみ(3日前までの予約を案内)。煉瓦塀と門構えは道路から見学可。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「松岡家住宅主屋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010697
- 文化庁 国指定文化財等データベース「松岡家住宅倉庫」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010698
- 文化遺産オンライン「松岡家住宅 母屋 一棟 門 一棟」(小郡市登録)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/259012
- 小郡市「松岡家住宅(国登録建造物)」
- https://www.city.ogori.fukuoka.jp/204/273/1829/2258
- 小郡市観光協会「創作懐石料理・蕎麦とびうめ」
- https://kanko-ogori.net/members/tobiume/
最終更新日: 2026.08.25