大正の屋敷の前に立つ江戸の門

松岡家住宅玄関門は、福岡県小郡市干潟にある木造の門で、文化庁は年代を嘉永3年(1850年)とし、平成27年(2015年)8月4日に国の登録有形文化財(建造物)となった。

周囲はすべてこの門より新しい。背後の主屋は大正12年(1923年)の完成、左右にのびる煉瓦塀は昭和2年(1927年)頃、酒造場の入口を示す石造の門柱も同じ頃に立てられている。門だけが別の場所から運び込まれ、敷地内で七十年ほど年長ということになる。

どこから来たのかについては、言い伝えと記録の隙間がある。地元の記録は、主屋の建設にあたって秋月の黒田藩屋敷から移築されたと伝え、松岡家ではこの門を「御門」と呼んできた。ただし小郡市の登録記録は慎重で、門そのものの築造年代は不明とし、年代の根拠を「嘉永三年」と刻まれた鬼瓦に置いている。文化庁のデータベースは年代を嘉永3年、大正12年頃移築と記す。年代も移築も公的な記載ではあるが、その土台になっているのは一枚の焼き物である。

大工仕事として門を読む

形式は薬医門という。本柱2本が棟を受け、その背後に控柱を立てて軸部を安定させるもので、棟の位置が本柱より前に出るのが特徴になる。結果として参道側の軒が深く張り出す。武家屋敷や寺院、医家や豪商の屋敷に用いられてきた形式である。

この門は間口2.2メートルの一間薬医門で、屋根は切妻造の桟瓦葺。軸部の主材はクスノキで、重く香りの強い、虫のつきにくい材である。この規模の構造材に使われる例は多くない。冠木の上には矩形の梁を三筋渡し、その上に間隔を広くとった疎垂木を並べて軒を受ける。

少し離れて眺めると、門が構図の要になっていることがわかる。門は西を向き、主屋の入母屋玄関の真正面に立つ。入ってきた者の視線がそのまま玄関に導かれる配置である。左右には煉瓦塀がのび、囲われた前庭ができる。文化庁の解説が評価しているのは、この門が単体で美しいことよりも、塀と組んで生み出している空間の格である。

その塀も見る価値がある。総延長89メートル、敷地南面を折れ曲がりながらのびる煉瓦塀で、江戸切仕上げの花崗岩積基礎の上に鉱滓煉瓦をイギリス積で立ち上げる。頂部には軒蛇腹三段積と屋根二段積。南西の隅では平面を円弧に曲げてあり、道路から近づいたとき最初に目に入るのはこの曲面である。

登録の理由と、見学の実際

登録有形文化財は、指定とは別の、築50年以上の建造物を対象にした緩やかな制度で、使い続けながら守ることを想定している。玄関門の登録番号は40-0128、第81回の登録で、適用基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

平成27年8月4日に登録されたのは、この門を含む同一敷地の5件。主屋、倉庫、玄関門、塀、門柱が同日付で名を連ねた。その3年前、小郡市は平成24年(2012年)7月23日に母屋1棟と門1棟をまとめて小郡市登録有形文化財第1号としている。

敷地はもともと酒造場だった。干潟の美山家が大正12年に屋敷を構え、太平洋戦争前に松岡家へ移って松岡酒造となり、酒造業は昭和30年代に終わっている。昭和40年頃からは料理店「とびうめ」が入っている。

そのことが見学の仕方を決めている。この物件でいちばん見やすいのが、実はこの門である。塀と門構えは道路に面していて、許可も予約もいらない。ただし門をくぐるとなると話は別で、食事の予約が必要になる。小郡市は創作懐石料理を5,720円からとし、3日前までの予約を案内している。蕎麦の昼食や蕎麦打ち体験もある。

行き方は、西鉄天神大牟田線の三沢駅が最寄り。天神からおよそ30分で、停まるのは普通列車のみ。駅から東へ約2キロメートル、平坦な道を徒歩30分ほどである。道路からの撮影に問題はないが、敷地内では他の客がいるため、店の方に確認してから撮るのがよい。

紛らわしい名称が二つある。ひとつは北海道旭川市の松岡家住宅で、平成13年(2001年)登録の別物件、この門とは関係がない。もうひとつは同じ敷地の松岡家住宅門柱で、同日登録ながら別件である。門柱は主屋南東隅の西側、通路の入口に立つ花崗岩の一対で、一辺45センチメートル、高さ3.5メートル、間口4.5メートル。屋敷ではなく酒造場への入口を示していた。

Q&A

Q松岡家住宅玄関門はいつ造られた門ですか。
A文化庁は年代を江戸時代の嘉永3年(1850年)とし、大正12年頃に現在地へ移築されたと記録しています。ただし小郡市は、門そのものの築造年代は不明であり、嘉永3年という年代は鬼瓦に刻まれた銘によるものだと説明しています。
Q松岡家住宅玄関門はどこから移築されたのですか。
A主屋の建設にあたり、秋月の黒田藩屋敷から移されたと伝わります。松岡家ではこの門を「御門」と呼んできました。市の記録では、移築の経緯は言い伝えとして扱われており、裏づけとなる文書は示されていません。
Q松岡家住宅玄関門はどんな形式の門ですか。
A間口2.2メートルの一間薬医門で、屋根は切妻造の桟瓦葺です。本柱が棟を受け、背後の控柱が軸部を支えるため、棟が本柱より前に出ます。軸部の主材はクスノキ、冠木上には矩形の梁を三筋渡して疎垂木の軒を受けています。
Q松岡家住宅玄関門は予約なしで見られますか。撮影はできますか。
A門と煉瓦塀は道路に面しているため、予約も料金もなく外から見学・撮影できます。門をくぐって敷地に入るには、建物に入っている料理店「とびうめ」の食事予約(3日前まで)が必要です。
Q松岡家住宅玄関門への行き方を教えてください。
A西鉄天神大牟田線の三沢駅が最寄りです。天神から約30分、普通列車のみ停車します。駅から東へ約2キロメートル、平坦な道で徒歩30分ほど、タクシーなら数分です。

基本情報

名称松岡家住宅玄関門(まつおかけじゅうたくげんかんもん)
所在地福岡県小郡市干潟字中屋敷645-2
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 40-0128(第81回登録)
指定年平成27年(2015年)8月4日 国登録/平成24年(2012年)7月23日 小郡市登録(母屋とあわせて)
員数1棟
寸法木造、瓦葺、間口2.2メートル(一間薬医門、切妻造桟瓦葺)
所有者非公表(文化庁データベースに記載なし)
公開状況道路から外観の見学・撮影が可能。門をくぐるには料理店「とびうめ」の食事予約(3日前まで)が必要。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「松岡家住宅玄関門」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010699
文化遺産オンライン「松岡家住宅玄関門」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/280193
文化遺産オンライン「松岡家住宅塀」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/246895
文化遺産オンライン「松岡家住宅門柱」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/213164
文化遺産オンライン「松岡家住宅 母屋 一棟 門 一棟」(小郡市登録)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/259012
小郡市「松岡家住宅(国登録建造物)」
https://www.city.ogori.fukuoka.jp/204/273/1829/2258

最終更新日: 2026.08.25