旧甲斐家住宅とは ― 喜多方の醸造家が築いた蔵屋敷
旧甲斐家住宅は、福島県喜多方市字一丁目にある醸造業の商家の屋敷で、大正12年(1923年)に完成した蔵座敷・店蔵・主屋をはじめとする建物と門・塀の計10件が登録有形文化財に登録されている。地元では「旧甲斐家蔵住宅」「甲斐本家蔵座敷」の名でも通り、蔵の外壁を黒い漆喰で塗り重ねたことから「烏城(うじょう)」の別名がある。この呼び名は、黒塗りの岡山城の別称にちなんで新聞記者の池内紀昭が著書で用いたものと喜多方市は説明している。
屋敷は田付川の西岸、熱塩街道に面した小荒井の町並みにある。喜多方市には今も4,000棟を超える蔵が残り、その中でも旧甲斐家住宅は規模と材料の質で群を抜く一軒として扱われてきた。
甲斐家の歩み
喜多方市が甲斐家所蔵の覚書をもとにまとめた由来によると、甲斐家の祖は元禄年間の初めに信州から喜多方近在の吉志田村へ移った與市という人物とされる。幕末に初代吉五郎が現在地に移り、神職から酒造業に転じた。当主は代々「吉五郎」を名乗り、明治初年ごろの酒の銘柄は「東郷」だったという。
三代目は麹づくりに長け、開港した横浜との取引を見込んで製糸工場を興し、家運を大きく伸ばした。四代目は製糸と酒造をやめ、味噌・醤油の醸造を「分銅甲斐」の商号で始めている。普請好きの四代目は棟梁の宇佐美與四郎と連れ立って京都や北海道の名家を見て回り、大正6年(1917年)に工事に着手した。足かけ7年をかけて大正12年(1923年)に蔵座敷・店蔵・主屋と庭園が完成したと伝わる。
工事は敷地全体の基礎固めに始まり、蔵の外まわりができたところで古い主屋を壊して一家が仮屋敷へ移り、新しい主屋を建て、最後に蔵の内部を造作するという順で進んだ。庭は庭師の松本亀吉が弟子2〜3人と泊まり込んで石を敷き詰め、基礎工事には連日90人ほどの人夫が入ったという。総工費は当時の金で15万円とも30万円ともいわれるが、四代目が自ら差配したため確かな記録は残っていない。
屋敷の配置と10件の登録
旧甲斐家住宅の敷地は、最も広いところで東西・南北とも約51メートルある。熱塩街道に面した東側に店蔵と表門が並び、店蔵の背後に主屋が続き、その西奥に蔵座敷が建つ。主屋と蔵座敷は庭を囲むように連なり、店蔵北側の庭の奥では醤油蔵が蔵座敷に接している。敷地の南西角を味噌蔵及び麹蔵が占め、その北に西側の通りへ開く裏門がある。主屋南側の庭の南西隅には屋敷神の稲荷社がまつられている。
外まわりは煉瓦塀が区切る。東塀及び北塀は店蔵の北から街道沿いと敷地の北辺をめぐって蔵座敷の北まで続き、南塀は小路に沿って麹蔵の前まで延びる。蔵と門と塀が一続きになって屋敷の輪郭をつくっている点が、10件をまとめて見る意味である。
登録は3回に分かれる。平成13年(2001年)4月24日に蔵座敷が、同じ年の10月12日に店蔵と醤油蔵が登録された。蔵座敷は喜多方市で最初の登録有形文化財とされる。令和3年(2021年)10月14日には主屋、味噌蔵及び麹蔵、稲荷社、表門、裏門、東塀及び北塀、南塀の7件が加わった。年代は味噌蔵及び麹蔵が明治後期で最も古く、残る9件は大正期のものである。
喜多方市は平成28年(2016年)12月に旧甲斐家住宅を取得し、平成29年(2017年)4月から喜多方観光物産協会が管理運営を担ってきた。庭は建物と同時に整えられたもので、市は県指定名勝の庭園として紹介している。
保存修理工事と見学の方法
旧甲斐家住宅は令和5年(2023年)4月から保存修理工事のため休館しており、通常の見学はできない。災害や経年による破損と外壁漆喰の剥落が進み、耐震診断でも建物の強度不足が判明したためで、工事は令和12年度(2030年度)まで続く予定である。市は喜多方市として初めて建築基準法の適用除外を受けて修理を進め、建築当初の伝統工法に沿って大工や左官の技術継承も図るとしている。2025年には店蔵・蔵座敷・醤油蔵の構造補強が行われた。
工期中は年1回程度、建物の内部を見せる特別公開が開かれる。令和7年度の回は令和8年(2026年)3月22日に3回に分けて行われ、各回10名までの事前申込制で、ヘルメットを着けて構造補強の現場や内部を見学する内容だった。令和8年度の特別公開は令和9年(2027年)3月に予定されており、日時や申込方法は喜多方市があらためて知らせる。市のサイトでは、保存修理前と工事中の内部を撮影したVR動画も公開されている。
所在地は喜多方市字一丁目4611番地で、JR磐越西線の喜多方駅から徒歩約30分、車なら磐越自動車道の会津若松インターチェンジから約25分である。問い合わせは喜多方市産業部商工観光課の観光・物産振興室(電話0241-24-5296)が受け付けている。
敷地の東・西・南は道路に接しているため、休館中でも旧甲斐家住宅の店蔵や表門、煉瓦塀の外観は道路から見ることができる。ただし工事の段階によっては足場や養生シートで覆われている場合がある。
参考文献
- 旧甲斐家蔵住宅とは(喜多方市)
- https://www.city.kitakata.fukushima.jp/site/kyukaike/57980.html
- 旧甲斐家蔵住宅の保存修理工事を行っています。(喜多方市)
- https://www.city.kitakata.fukushima.jp/site/kyukaike/57982.html
- 旧甲斐家蔵住宅特別公開を実施します。(喜多方市)
- https://www.city.kitakata.fukushima.jp/site/kyukaike/60754.html
- 旧甲斐家蔵住宅のVR動画公開中!(喜多方市)
- https://www.city.kitakata.fukushima.jp/site/kyukaike/49341.html
- 旧甲斐家蔵住宅の復活に力を貸してください!(喜多方市)
- https://www.city.kitakata.fukushima.jp/site/kyukaike/63259.html
- 旧甲斐家住宅蔵座敷(文化庁 国指定文化財等データベース)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002110
- 旧甲斐家住宅主屋(文化庁 国指定文化財等データベース)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013930
- 旧甲斐家住宅東塀及び北塀(文化庁 国指定文化財等データベース)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013935
- 旧甲斐家住宅(うつくしま電子事典/福島県教育センター)
- https://www.gimu.fks.ed.jp/plugin/databases/detail/2/18/76
- 旧甲斐家蔵住宅(ふくしまの旅/福島県観光物産交流協会)
- https://www.tif.ne.jp/jp/entry/article.html?spot=6311
最終更新日: 2026.10.01
基本情報
| 名称 | 旧甲斐家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 福島県喜多方市字一丁目4611-1 |
| 所有者 | 喜多方市 |
| 指定 | 登録有形文化財 10件 |
| 座標 | 37.65641, 139.87189 |