十綱橋:大正時代の鋼製アーチ橋が結ぶ千年の歴史

福島県福島市・飯坂温泉の中心を流れる摺上川に架かる十綱橋(とつなばし)は、日本に現存する最古級の鋼製アーチ橋です。大正4年(1915年)に完成したこの優美な橋は、温泉街のシンボルとして百年以上にわたり地域の人々と旅人を見守り続けてきました。山形鋼を組み合わせたブレースドリブアーチの繊細な外観は、見る者の心を捉える美しさを備えています。

令和2年(2020年)に国登録有形文化財に登録され、平成16年(2004年)には土木学会選奨土木遺産にも認定されている十綱橋。その歴史は平安時代にまで遡り、橋そのものの物語は日本の土木技術史と温泉文化の交差点に位置しています。

平安時代に遡る架橋の歴史

十綱橋の名の由来は、遥か平安時代に遡ります。かつてこの地では、摺上川の両岸を十条の藤の綱で結び、その上に板を渡して人が歩いていたと伝えられています。この「十の綱」が「十綱橋」という名の起源です。藤原親隆によって「陸奥の十綱の橋にくる網の絶へつも人にいひ渡るかな」と詠まれ、『千載和歌集』に収録されるなど、歌枕としても広く知られていました。

文治5年(1189年)、源頼朝の奥州征伐の際、大鳥城主・佐藤基治が防衛のために橋を切り落としたとされます。以後、長い間この地には橋が架けられず、「十綱の渡し」と呼ばれる渡し船によって往来が行われていました。元禄2年(1689年)、松尾芭蕉が「おくのほそ道」の旅で飯坂温泉を訪れた際にも、この渡し船が利用されたと伝えられています。

吊り橋から鋼製アーチ橋へ

明治8年(1875年)、2代目の十綱橋として全長69メートルの吊り橋が架設されました。明治3年(1870年)に架けられた皇居山里の吊り橋を模して建造され、10条の鉄線ケーブルで橋桁を吊る構造でした。しかし、度重なる損傷に悩まされ、明治43年(1910年)8月の大洪水によって落橋してしまいます。

大正3年(1914年)4月、3代目となる現在の鋼製アーチ橋の建設が着工され、翌大正4年(1915年)9月に完成しました。工費は35,685円。全長52メートル、幅員7.3メートルの鋼上路2ヒンジブレーストリブアーチ橋で、山形鋼を組み合わせた繊細なアーチと垂直材が特徴的な外観を作り出しています。

その後も橋は幾度かの改修を経てきました。昭和42年(1967年)にはアーチ部材の大規模補強工事、昭和54年(1979年)には現在の淡いグリーンへの塗装、平成20年(2008年)には拡幅工事が実施されました。平成21年(2009年)春からは欄干とアーチ部の夜間ライトアップが始まり、温泉街の夜を幻想的に彩っています。

文化財としての価値

十綱橋は令和2年(2020年)4月3日、国登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録の理由は、わが国現存最古級の鋼製アーチ橋であること、そして山形鋼を組み合わせたブレースドリブアーチと垂直材からなる繊細な外観が歴史的・技術的に高い価値を有していることです。

また、平成16年(2004年)には土木学会選奨土木遺産にも認定されており、近代土木技術の発展を示す重要な構造物として二重の評価を受けています。大正期の橋梁技術を今に伝える貴重な存在であり、飯坂温泉の景観と一体となった文化的景観の核をなしています。

見どころ・魅力

繊細で美しいアーチの意匠

十綱橋最大の魅力は、山形鋼を組み合わせたブレースドリブアーチの優美な外観です。格子状に組まれた鋼材が空に映えるシルエットは、河岸や飯坂温泉駅前広場から眺めると格別です。春の桜、秋の紅葉と摺上川の流れとの競演は、カメラマンにも人気の撮影スポットとなっています。

夜のライトアップ

2009年春から実施されている夜間ライトアップにより、十綱橋は温泉街の夜景の主役となっています。温かな光に照らされたアーチが川面に映る光景は幻想的で、温泉街の夜の散策にぜひ訪れたい名所です。

飯坂温泉の玄関口

福島交通飯坂線の終点・飯坂温泉駅のすぐ隣に位置する十綱橋は、温泉街散策の出発点として最適です。橋を渡れば、歴史ある旅館や共同浴場、風情ある坂道の町並みが広がっています。

摺上川の四季の眺望

橋の上からは、摺上川沿いに立ち並ぶ温泉旅館の景観を一望できます。上流に向かう新十綱橋方面と周囲の山々の眺めは、四季を通じて美しく、特に新緑と紅葉の季節は格別です。

周辺情報

十綱橋は東北屈指の名湯・飯坂温泉の中心部に位置しています。「東の飯坂、西の別府」と称されるほどの歴史ある温泉地には、徒歩圏内に多くの見どころがあります。

共同浴場めぐり

飯坂温泉には9つの共同浴場があり、それぞれ個性豊かなお湯を楽しめます。中でも「鯖湖湯」は飯坂温泉最古の浴場で、松尾芭蕉が入浴したとも伝えられています。2011年にリニューアルされた「波来湯」は飯坂温泉駅から徒歩1分と好アクセスです。熱めのお湯が飯坂温泉の特徴で、地元の方々との触れ合いも魅力です。

旧堀切邸

江戸時代から続く豪農・豪商の旧家で、県内最古の土蔵「十間蔵」(1775年築)をはじめ歴史的価値の高い建物が残されています。入場無料で、敷地内の足湯に浸かりながら庭園を眺めることができます。

松尾芭蕉像と文学の足跡

飯坂温泉駅前広場には松尾芭蕉の銅像が立ち、「おくのほそ道」の旅で飯坂を訪れた芭蕉の記憶を今に伝えています。温泉街の各所には句碑や文学碑が点在しています。

飯坂けんか祭り

毎年10月上旬に八幡神社で開催される例大祭は、「日本三大けんか祭り」の一つに数えられる勇壮な祭りです。神輿同士がぶつかり合う迫力ある光景は必見です。

地元グルメ

飯坂温泉名物の「円盤餃子」は、多めの油でカリッと焼き上げる独特の製法で知られるご当地グルメです。また、天然温泉の源泉に浸けて作る「ラヂウム玉子」は、半熟のとろりとした食感が楽しめるお土産の定番です。

アクセス

十綱橋へのアクセスは非常に便利です。JR福島駅から福島交通飯坂線(愛称「いい電」)に乗車し、終点の飯坂温泉駅まで約20分。駅前広場からすぐ、徒歩約1分で十綱橋に到着します。

車の場合は、東北自動車道・福島飯坂ICから約10分です。東京駅からは東北新幹線で福島駅まで約90分のため、日帰りや週末旅行にも最適なアクセス環境です。

十綱橋は公道(福島県道3号福島飯坂線)が通る橋であるため、見学・通行はいつでも自由で、入場料は不要です。

Q&A

Q十綱橋はなぜ文化財に登録されているのですか?
A十綱橋は大正4年(1915年)に完成した、わが国現存最古級の鋼製アーチ橋です。山形鋼を組み合わせたブレースドリブアーチと垂直材からなる繊細な外観が、歴史的・技術的に高い価値を有することから、令和2年(2020年)に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。
Q夜のライトアップは見られますか?
Aはい。2009年春から夜間のライトアップが実施されています。公道の橋ですので、昼夜を問わずいつでも自由に通行・見学できます。入場料も不要です。
Q東京からのアクセス方法を教えてください。
A東京駅から東北新幹線で福島駅まで約90分、福島駅で福島交通飯坂線に乗り換え約20分で飯坂温泉駅に到着します。十綱橋は駅のすぐ隣にあり、徒歩約1分です。
Q十綱橋の名前の由来は何ですか?
A平安時代、この地では摺上川の両岸を十条の藤の綱で結び、板を渡して歩いていたと伝えられています。この「十の綱」が橋の名の由来です。歌枕としても知られ、『千載和歌集』にも詠まれています。
Q周辺の観光スポットは何がありますか?
A十綱橋は飯坂温泉の中心部にあり、9つの共同浴場(鯖湖湯・波来湯など)、旧堀切邸、八幡神社、松尾芭蕉像など多くの観光スポットが徒歩圏内にあります。名物の円盤餃子やラヂウム玉子もぜひお試しください。

基本情報

名称 十綱橋(とつなばし)
所在地 福島県福島市飯坂町字十綱下29~飯坂町湯野字湯ノ上25-6
構造形式 鋼上路2ヒンジブレーストリブアーチ橋(鋼製単アーチ橋、鋼製取付桁橋付属)
橋長 52メートル
幅員 7.3メートル
竣工 大正4年(1915年)9月
所有者 福島県
文化財登録 国登録有形文化財(建造物)/令和2年(2020年)4月3日登録
その他認定 土木学会選奨土木遺産(平成16年/2004年認定)
アクセス 福島交通飯坂線 飯坂温泉駅より徒歩約1分/東北自動車道 福島飯坂ICより車で約10分
料金 無料(公道の橋)
問い合わせ 飯坂温泉観光協会 TEL: 024-542-4241

参考文献

十綱橋 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/445133
十綱橋(土木遺産) - 福島県ホームページ
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/infra/totsuna.html
十綱橋 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E7%B6%B1%E6%A9%8B
飯坂温泉観光で外せないおすすめスポット12選 - newt
https://newt.net/jpn/fukushima/mag-635162070491
見どころたくさん!飯坂温泉まち歩き - 福島市観光ノート
https://www.f-kankou.jp/pickup/4272
飯坂温泉レトロ街歩き - 福島市観光ノート
https://www.f-kankou.jp/modelcourse/33312
観光・体験 - 飯坂温泉オフィシャルサイト
https://iizaka.com/join/

最終更新日: 2026.03.03