なかむらや旅館新館:飯坂温泉に佇む明治の土蔵造り旅館

日本有数の歴史を誇る温泉地・飯坂温泉の中心部に、白壁と赤瓦が印象的な三階建ての建物が堂々と立っています。なかむらや旅館新館は、明治29年(1896年)頃に建てられた土蔵造りの旅館建築であり、平成10年(1998年)に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。本館(江戸館)とともに飯坂温泉湯沢地区のシンボル的存在として、一世紀以上にわたり人々を迎え続けています。

元禄から続く歴史

なかむらや旅館の歴史は元禄元年(1688年)、花菱屋が現在のなかむらや旅館の地で創業したことに遡ります。その後、明治時代中頃まで18代にわたり土湯温泉にて旅籠を営んでいましたが、たび重なる洪水と火災に悩まされ、飯坂温泉湯沢地区への移転を決断しました。

明治20年(1887年)に当時の花菱屋を買い受け、明治23年(1890年)になかむらや旅館として創業。新館(明治館)はその直後の明治29年頃に増築されました。以来、阿部家が七代にわたって受け継ぎ、一世紀以上の歴史を重ねています。

文化財としての価値

新館は平成10年(1998年)4月21日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。本館と同じ土蔵造り・木造三階建てですが、全階の平面が同じ大きさで、二階・三階の天井が高く開放的である点が本館と好対照をなしています。

二棟が並ぶ姿は飯坂温泉の中でもひときわ目を引く特異な外観を呈しており、土蔵造り旅館建築として貴重な存在です。西側には旧土蔵(本館と同時期のもの)が附属しており、建物群全体として高い歴史的・建築的価値が認められています。

見どころ:匠の技と意匠

新館は土蔵造三階建一部平屋建、瓦葺で、建築面積は78平方メートルです。白漆喰の外壁と赤瓦の屋根が美しいコントラストを描き、明治期の土蔵造り建築の風格を今に伝えています。

最上階の客室には、唐木・紫檀・黒檀・鉄刀木といった銘木を駆使した床の間があり、現在では再現が困難な貴重な素材と職人技が凝縮されています。杉まさ目の欄間は明治の木工技術の粋を示すものです。洗面所には可憐な花のガラス絵が残されており、当時日本に入ってきたアールヌーヴォーの影響を感じさせます。

階段の縁はすり減って丸みを帯び、人の手が触れた場所には柔らかな艶が生まれています。百年を超えて今も動き続ける帳場の古時計とともに、時の流れを静かに物語る空間です。

東日本大震災からの復興

平成23年(2011年)3月の東日本大震災で、なかむらや旅館は大規模半壊の被害を受けました。七代目当主・阿部寛氏は130年の歴史に幕を下ろすことも覚悟したといいます。

しかし、存続を決意した際には、被災で廃業を決めた別地域の老舗旅館から格子の引き戸が託され、常連客からは欅の柱が贈られました。文化財修復免許を持つ専門家の手により4期にわたる工事が行われ、一部の柱は震災の記録としてあえて着色せずに据えられました。多くの人々の想いが込められた修復は、平成28年(2016年)に第32回福島県建築文化賞・復興賞を受賞しています。

宿泊体験

なかむらや旅館は1日限定5組の小さな宿です。文化財保護のため全館禁煙となっており、歴史ある建物の中でゆったりとした時間を過ごすことができます。

自家源泉から湧出する温度67℃の豊富な湯は飯坂随一と評判が高く、浴槽温度は43〜44℃に保たれています。初代の名を冠した「與右衛門の湯」は、シャワーやカランのない昔ながらの湯殿で、源泉かけ流しのお湯だけをじっくり楽しめます。

客室の床の間には楓・松・欅、随所に自然木が使われており、素朴ながらも味わい深い造りです。江戸館正面二階外壁には鏝絵で装飾された花菱と丸に違い鷹の羽の家紋が並び、この建物を大切にした先人の想いを伝えています。

アクセス情報

なかむらや旅館は飯坂温泉発祥の地・湯沢地区に位置しています。東北新幹線で福島駅まで来た後、福島交通飯坂線に乗り換え、終点の飯坂温泉駅で下車(約20分)。駅から徒歩約5分です。車の場合は東北自動車道福島飯坂ICから国道13号線経由で約10分です。

日帰り入浴も可能で、宿泊せずとも文化財建築と温泉を楽しむことができます。詳しくは旅館に直接お問い合わせください。

周辺の見どころ

旅館の目の前には飯坂温泉のシンボル・鯖湖湯があります。日本最古の木造建築共同浴場として知られ、平成5年(1993年)に当時の姿を再現して改築されました。元禄2年(1689年)に俳聖・松尾芭蕉が奥の細道の途中に立ち寄ったとされる歴史ある湯です。

すぐ近くの旧堀切邸は、江戸時代から飯坂の発展に寄与した豪農・豪商の旧家を整備した観光交流施設です。福島県内最大最古の土蔵「十間蔵」(安永4年・1775年築)の見学や、源泉かけ流しの足湯を無料で楽しめます。

飯坂温泉には全9か所の共同浴場が点在しており、湯めぐりも大きな楽しみです。春には花見山公園の桜が見事で、磐梯吾妻スカイラインのドライブも人気があります。

Q&A

Q本館(江戸館)と新館(明治館)の違いは何ですか?
A本館(江戸館)は元禄元年(1688年)頃の建築で、よりコンパクトな造りです。新館(明治館)は明治29年(1896年)頃の建築で、全階の平面が同じ大きさで二・三階が高く開放的な点が特徴です。いずれも土蔵造りの国登録有形文化財に登録されています。
Q宿泊しなくても建物を見学できますか?
Aはい、日帰り入浴が可能です。温泉とともに文化財建築の雰囲気をお楽しみいただけます。営業時間や料金の詳細は旅館に直接お問い合わせください。
Q東京からのアクセス方法を教えてください。
A東京駅から東北新幹線で福島駅まで約1時間30分、福島交通飯坂線に乗り換え飯坂温泉駅まで約20分、駅から徒歩約5分です。
Q外国人でも宿泊できますか?
Aはい、海外からのお客様も歓迎されています。明治時代の建物のため、鴨居が低い箇所がありますが、それも歴史的な魅力のひとつです。全館Wi-Fi完備で、文化財保護のため全館禁煙となっています。
Q周辺で徒歩圏内の観光スポットはありますか?
A旅館の目の前に鯖湖湯(共同浴場)、徒歩約1分の場所に旧堀切邸(入場無料)があります。その他にも複数の共同浴場が徒歩5分圏内に点在しており、温泉街の散策を楽しめます。

基本情報

名称 なかむらや旅館新館(なかむらやりょかんしんかん)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成10年(1998年)4月21日
建築年代 明治29年(1896年)頃
構造 土蔵造3階建一部平屋建、瓦葺、建築面積78㎡
所在地 福島県福島市飯坂町字湯沢18
アクセス 福島交通飯坂線 飯坂温泉駅より徒歩約5分/東北自動車道 福島飯坂ICより車で約10分
公式サイト https://iizaka-nakamuraya.com

参考文献

なかむらや旅館新館 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/165822
なかむらやについて | 飯坂温泉 なかむらや旅館 公式ページ
https://iizaka-nakamuraya.com/aboutus
なかむらや旅館 | 福島県商工会連合会イノベーションサポート
https://www.do-fukushima.or.jp/innovation/nakamurayaryokan.html
飯坂温泉の老舗「なかむらや旅館」で本当の贅沢を知る | 福島TRIP
https://www.fukushimatrip.com/10029
鯖湖湯(さばこゆ) | 飯坂温泉 共同浴場
https://iizaka-onsen.fckk.co.jp/onnsen-guide/sabakoyu/
旧堀切邸 | 福島市 観光文化交流施設
https://kyu-horikiritei.fckk.co.jp/

最終更新日: 2026.04.02