千歳楼本館:養老の滝のほとりに佇む、260年の歴史を宿す文化財旅館

岐阜県養老郡養老町、養老公園の北端に位置する千歳楼本館(せんざいろうほんかん)は、1764年(明和元年)に創業し、1880年(明治13年)に現在の姿に建て替えられた由緒ある旅館建築です。総檜造りの書院造で、正面には格調高い唐破風の車寄が設けられ、2階の28畳大広間からは濃尾平野の雄大な眺望を一望できます。2014年には国の登録有形文化財(建造物)に登録され、伊藤博文、竹内栖鳳、谷崎潤一郎など数多の文化人に愛されてきた歴史と風格を今に伝えています。

千歳楼の歴史:千年の記憶を継ぐ宿

千歳楼の物語は、奈良時代に遡ります。717年(養老元年)、元正天皇がこの地を訪れ、多度山麓に湧く美泉に感銘を受けて「養老」と改元されました。それからおよそ千年後の1764年、初代岡本喜十郎が養老の滝のほとりに旅館を創業しました。「千歳楼」の名は、元正天皇の養老行幸から千年を記念して名付けられたもので、読みは江戸時代の慣例に従い「せんざい」と読みます。

創業者の岡本喜十郎は、養老の滝周辺の土地を買い上げ、山間の僻地に旅館を開くという大胆な計画を実行しました。初代は養老の滝の水を引いて薬湯を造り、湯治客をもてなしました。その後、二代目が経営を合理化し、事業は軌道に乗りました。1879年には大蔵卿・松方正義の発案で養老公園の整備が始まり、翌1880年に養老公園が開園。この際、老朽化していた千歳楼も新築され、現在の本館が誕生しました。大正時代には流芳閣、昭和初期には栖鳳閣が増築され、2014年10月7日に3棟すべてが登録有形文化財に登録されました。

なぜ登録有形文化財に登録されたのか

千歳楼本館が国の登録有形文化財に登録されたのは、明治期の木造旅館建築として高い価値を有しているためです。木造2階建て、瓦葺及び鉄板葺で、建築面積は409平方メートル。正面に設けられた唐破風の車寄は格式の高さを物語り、1階には2室の15畳間を中心に南東面に縁側が巡らされ、2階には28畳の大広間が配されています。

特に注目すべきは浴室で、養老の滝に見立てた模様の大理石が飾られており、景勝地にふさわしい瀟洒な意匠が施されています。濃尾平野を見渡す絶景の地に建つ本館は、明治期の旅館建築の優品として、また多くの著名人の足跡を留める歴史的建造物として、その文化的価値が認められました。

魅力・見どころ

2階の大広間と歴史的書画

本館2階の28畳大広間は千歳楼の象徴的な空間です。急勾配の階段を上った先に広がるこの広間には、戊辰戦争で東征大総督を務めた有栖川宮熾仁親王、明治政府の重鎮・三条実美、「明治の三筆」のひとり中林梧竹による「千歳楼」の書が掛けられています。明治時代のガラス窓越しに眺める濃尾平野の景色は、ガラスの揺らぎが独特の幻想的な雰囲気を生み出し、訪れる者を時の彼方へ誘います。

文化人たちの足跡

260年を超える歴史の中で、千歳楼には実に多くの著名人が宿泊しました。初代内閣総理大臣・伊藤博文、幕末の剣豪・山岡鉄舟、近代日本画の巨匠・横山大観、京都画壇の大家・竹内栖鳳、詩人・北原白秋、文豪・谷崎潤一郎、前衛芸術家・岡本太郎、そして1910年(明治43年)には当時皇太子であった大正天皇も行啓されています。これらの文化人が残した書画や芸術作品は、館内のあらゆる場所に飾られ、まさに「生きた美術館」とも呼べる空間を形成しています。

栖鳳の間:竹内栖鳳が手がけた唯一の客室

千歳楼の中でもとりわけ貴重なのが、栖鳳閣にある「袖の間」(栖鳳の間)です。五代目当主・吉岡松太郎と親交のあった日本画家・竹内栖鳳が長期滞在した際に自ら設計した10畳の和室で、約3メートルという洋館並みの天井高を持ちます。折上げ天井には栖鳳自筆の絹本絵画が飾られ、欄間の組子は、紀行作家で一級建築士の稲葉なおと氏が「ピート・モンドリアンの絵画のよう」と評した抽象的な美しさを湛えています。栖鳳が手がけた建築は京都・嵐山の霞中庵と合わせて2例のみとされ、建築作品としても極めて貴重です。

薬草風呂と飛騨牛料理

千歳楼の薬湯の歴史は18世紀、創業者が養老の滝から水を引いて湯治場を開いたことに始まります。令和3年(2021年)にはクラウドファンディングを活用して薬湯を復活させ、伊吹山麓で栽培された薬草を使用した本格的な薬草風呂を楽しめるようになりました。お食事では、きめ細やかな肉質と美しい霜降りが特徴の飛騨牛を使った会席料理が提供され、養老の四季を感じながら日本伝統の味を堪能できます。

周辺情報

千歳楼は養老公園内に位置しており、周辺には数多くの見どころがあります。養老公園は明治13年に開園した、総面積約78万6千平方メートルの広大な公園で、自然・芸術・歴史を一度に楽しめるスポットです。

  • 養老の滝 — 高さ約32メートル、幅約4メートルの名瀑で、日本の滝百選に選定されています。葛飾北斎が浮世絵に描いたことでも知られ、孝子伝説の舞台でもあります。千歳楼から徒歩圏内です。
  • 菊水泉 — 日本の名水百選に選ばれた湧泉で、養老神社の境内にあります。元正天皇がこの泉で手を洗うと肌が美しくなったと伝えられています。
  • 養老神社 — 不老長寿・学徳成就のご利益があるとされる神社。滝への遊歩道沿いに鎮座しています。
  • 養老天命反転地 — 現代美術家・荒川修作とマドリン・ギンズによる体験型アート施設。傾斜した建物や起伏のある地形が五感を揺さぶる、世界に類を見ないアートパークです。
  • 養老孝子坂 — 滝へ向かう参道沿いに土産物店や飲食店が並び、名物のひょうたん細工や菊水泉の水で作った養老サイダーを楽しめます。

Q&A

Q外国人でも宿泊できますか?
Aはい、海外からのお客様も歓迎されています。サービスの主な言語は日本語ですが、スタッフは温かくお迎えしてくださいます。翻訳アプリの活用もおすすめです。全7室のこぢんまりとした旅館ならではの、きめ細やかなおもてなしを体験できます。
Q千歳楼へのアクセス方法は?
A名古屋方面からは、JR東海道本線で大垣駅へ向かい、養老鉄道に乗り換えて養老駅で下車、タクシーで約5分です。お車の場合は、名神高速道路・大垣ICから国道258号線を南下し約20分、または東海環状自動車道・養老ICから約10分です。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A四季折々の魅力があります。春(3月下旬〜4月)は養老公園の約3,000本の桜が咲き誇ります。夏は緑深い山々と養老の滝の清涼感が魅力。秋(11月下旬〜12月初旬)は大広間の明治のガラス窓越しに眺める紅葉が格別です。冬は静寂の中、薬草風呂でゆったりとお寛ぎいただけます。
Q千歳楼の宿泊料金の目安は?
A宿泊プランや季節により異なります。最新の料金やプランについては、千歳楼公式ウェブサイト(https://senzairou.com/)または各旅行予約サイトをご確認いただくか、お電話(0584-32-1118)にてお問い合わせください。
Q写真撮影は可能ですか?
A館内の撮影ポリシーについては、チェックイン時にスタッフにご確認ください。貴重な書画や美術品が多数展示されているため、撮影が制限される場所がある場合があります。

基本情報

名称 千歳楼本館(せんざいろうほんかん)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)— 2014年(平成26年)10月7日登録
建築年 1880年(明治13年)築/1961年頃改修
構造 木造2階建、瓦葺及び鉄板葺、建築面積409㎡
建築様式 総檜書院造、唐破風車寄付
創業 1764年(明和元年)
所有者 株式会社養老
所在地 岐阜県養老郡養老町養老字松原1079他
電話番号 0584-32-1118
アクセス JR東海道本線大垣駅乗換え → 養老鉄道養老駅下車 → タクシー約5分/お車:大垣ICまたは養老ICから約20分〜10分
チェックイン・チェックアウト チェックイン 15:00 / チェックアウト 11:00
客室数 7室

参考文献

千歳楼本館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/243605
千歳楼 公式ウェブサイト
https://senzairou.com/
千歳楼 (養老町) — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E6%AD%B3%E6%A5%BC_(%E9%A4%8A%E8%80%81%E7%94%BA)
養老公園の歴史 — 養老町歴史文化遺産
https://tagizou.com/en/yoro-park/
養老公園 公式サイト — 施設案内・養老の滝
https://www.yoro-park.com/facility-map/yoro-falls/
有形文化財に泊まる「千歳楼」— CREA WEB
https://crea.bunshun.jp/articles/-/52409

最終更新日: 2026.03.23