安田家住宅主屋:中山道鵜沼宿に佇む旧旅籠の町家建築

岐阜県各務原市の旧中山道沿いに静かに佇む安田家住宅主屋は、登録有形文化財に指定された貴重な町家建築です。かつて「若竹屋」の屋号で旅籠(はたご)を営んでいた安田家は、江戸と京都を結ぶ五街道の一つ・中山道の第52番目の宿場町「鵜沼宿」の歴史的景観を今に伝える重要な存在です。

周辺の坂井家住宅や梅田家住宅などの登録有形文化財とともに連なる町並みは、かつて多くの旅人で賑わった宿場の面影を色濃く残しており、海外からのお客様にも日本の街道文化の奥深さを体感していただける場所となっています。

安田家住宅の歴史

安田家は、かつて中山道を旅する人々に宿と食事を提供する旅籠屋を営み、「若竹屋」という屋号で親しまれていました。「若竹」という名は、瑞々しい竹のように活力あふれるもてなしを象徴するものであったと考えられます。

現在の主屋は昭和5年(1930年)頃の建築で、宿場の建物としては比較的新しい時期のものです。しかし、周囲の建物と軒高や表構えを揃えて建てられており、中山道鵜沼宿の歴史的な町並みとの調和が大切に守られています。この配慮ある建築姿勢こそ、安田家住宅が文化財としての価値を認められた大きな理由のひとつです。

建築の特徴

安田家住宅主屋は、木造つし二階建ての町家建築です。「つし二階」とは天井の低い二階のことで、中山道沿いの宿場町家に広く見られる建築様式です。

屋根は切妻造・桟瓦葺の平入で、正面には瓦葺の庇を設けています。建築面積は約128平方メートルで、間取りは8畳4室を田の字型に配した「整形四間取」を基本とし、東側に土間を設けた伝統的な構成となっています。

正面の外壁には鼠漆喰(ねずみしっくい)と呼ばれる灰色の漆喰が塗られ、落ち着いた品格のある佇まいを見せています。一・二階の開口部には格子(こうし)が設けられ、光と風を取り入れながらも外部からの視線を程よく遮るという、町家建築ならではの巧みな工夫が施されています。

登録有形文化財としての価値

安田家住宅主屋は、平成19年(2007年)5月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録有形文化財の制度は、建築後50年を経過し、地域のシンボルとなっている建物や優れたデザイン・技術が使われている建物をゆるやかに守るための制度です。

安田家住宅の最大の価値は、坂井家住宅をはじめとする周辺の町家と連続して並び、中山道鵜沼宿の宿場景観を一体的に伝えている点にあります。昭和初期の建築でありながら、江戸時代から続く町並みの調和を意識した外観設計がなされており、宿場の歴史的景観を途切れることなく次世代へ伝える重要な役割を果たしています。

鵜沼宿の歴史と背景

鵜沼宿は、中山道六十九次のうち江戸から52番目にあたる宿場町です。天保14年(1843年)の記録では、人口246人、家数68軒、本陣1軒、脇本陣1軒、旅籠25軒の規模を誇りました。慶安3年(1651年)に現在の西町・東町が正式な宿場となったとされています。

現在の鵜沼宿では、脇本陣や町屋館の整備、景観重要建造物の保存改修、水路の復元などが行われ、江戸時代の宿場町の雰囲気を存分に楽しめるようになっています。俳聖・松尾芭蕉が貞享年間(1684〜1688年)に3度訪れ、脇本陣坂井家に宿泊して句を詠んだという逸話も、この宿場の文化的な深みを物語っています。

見どころ・魅力

安田家住宅主屋は個人のお住まいのため内部の見学はできませんが、鵜沼宿の歴史的街並みを散策しながら、その美しい外観をお楽しみいただけます。主な見どころは以下の通りです。

  • 鼠漆喰と格子が織りなす落ち着いた表構え — 中山道の町家建築の美しさを間近に感じられます
  • 坂井家・梅田家・茗荷屋梅田家など登録有形文化財の町家が連なる歴史的景観
  • 復元された脇本陣(坂井家住宅)— 松尾芭蕉の句碑や江戸時代の宿泊文化を伝える展示を無料で見学可能
  • 中山道鵜沼宿町屋館(旧武藤家住宅)— 伝統的な町家の内部構造、箱階段、中庭などを見学できます
  • 旧大垣城鉄門 — 大垣城本丸から移築された貴重な城門
  • 高札場跡と尾州傍示石 — 江戸時代の法令掲示や藩境を示す歴史的遺構

周辺情報

国宝 犬山城 — 木曽川を挟んで対岸の愛知県犬山市にそびえる犬山城は、現存する日本最古の天守を持つ国宝五城のひとつです。天守最上階からの木曽川と濃尾平野の眺望は絶景。城下町の散策やグルメも楽しめます。

木曽川うかい — 毎年6月から10月にかけて行われる伝統的な鵜飼い漁。1300年の歴史を持ち、夜空に浮かぶ犬山城をバックに篝火を焚いた鵜舟が川を下る光景は幻想的です。日本で唯一の「昼うかい」も実施されています。

二ノ宮神社 — 坂井家住宅の向かいにある神社で、坂の上の本殿へと続く参道は趣があります。

菊川酒造 — 鵜沼宿内にある酒蔵で、大正・明治期の蔵が残っています。

各務原市航空宇宙博物館 — 日本の航空史に触れられる博物館で、実物の航空機展示が充実しています。

見学案内

鵜沼宿の歴史的街並みは常時自由に散策可能です。近隣の脇本陣・町屋館の開館時間は午前9時から午後5時までで、休館日は毎週月曜日(祝日の場合はその翌日)、祝日の翌日(土・日・祝日の場合はその翌日)、12月28日から1月4日です。入館は無料です。

宿場の西側入口付近に無料の観光客用駐車場が整備されています。街並み散策は1〜2時間程度が目安ですが、脇本陣・町屋館をじっくり見学する場合はさらに時間をかけるとよいでしょう。

アクセス

安田家住宅主屋の所在地は、岐阜県各務原市鵜沼西町1-528です。最寄り駅からのアクセスは以下の通りです。

  • 名鉄各務原線「鵜沼宿」駅から徒歩約10分
  • 名鉄犬山線・各務原線「新鵜沼」駅から徒歩約20分
  • JR高山本線「鵜沼」駅から徒歩約17分
  • 各務原市ふれあいバス 鵜沼線・東西朝夕便「鵜沼西町」バス停下車、徒歩約4分

名古屋からは、名鉄犬山線で新鵜沼駅まで約30分。日帰りの小旅行にも最適な立地です。

Q&A

Q安田家住宅の内部を見学することはできますか?
A安田家住宅は個人のお住まいのため、内部の見学は公開されておりません。外観は旧中山道沿いからいつでもご覧いただけます。町家建築の内部をご覧になりたい場合は、近くの中山道鵜沼宿町屋館(旧武藤家住宅)や復元された脇本陣が無料で公開されていますのでおすすめです。
Q英語の案内はありますか?
A鵜沼宿の街道沿いには、一部英語表記の案内板が設置されています。町屋館にも簡単な英語資料があります。より深く理解するためには、事前の下調べや翻訳アプリの活用をおすすめいたします。
Qおすすめの訪問シーズンはいつですか?
A四季を通じてお楽しみいただけますが、春(3月下旬〜4月上旬)の桜、秋(11月)の紅葉の時期は特に美しいです。夏(6〜10月)には木曽川うかいと組み合わせた観光も楽しめます。冬は観光客が少なく、静かな宿場町の雰囲気をゆっくり味わえます。
Q犬山城と合わせて訪問できますか?
Aはい、大変おすすめです。犬山城は木曽川を挟んだ対岸にあり、徒歩約30分、または短い電車移動で訪れることができます。中山道の宿場町と国宝の城を一日で楽しめる贅沢な組み合わせです。
Q駐車場はありますか?
A鵜沼宿の西側入口付近に、観光客用の無料駐車場が整備されています。そこから安田家住宅やその他の見どころまで徒歩で回ることができます。

基本情報

名称 安田家住宅主屋(やすだけじゅうたくしゅおく)
旧屋号 若竹屋(わかたけや)
文化財指定 登録有形文化財(建造物)— 平成19年(2007年)5月15日登録
建築年代 昭和5年(1930年)頃
構造 木造つし二階建、桟瓦葺、建築面積約128㎡
建築様式 切妻造、平入、整形四間取
所在地 岐阜県各務原市鵜沼西町1-528
アクセス 名鉄鵜沼宿駅から徒歩約10分、JR鵜沼駅から徒歩約17分
内部見学 非公開(個人住宅)、外観は自由に見学可
周辺施設 鵜沼宿脇本陣・町屋館:開館9:00〜17:00、月曜休館、入場無料

参考文献

安田家住宅主屋 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/119064
安田家住宅主屋 — 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009225
登録有形文化財 — 各務原市公式ウェブサイト
https://www.city.kakamigahara.lg.jp/kankobunka/bunkazai/1005182.html
中山道鵜沼宿 — 各務原市公式ウェブサイト
https://www.city.kakamigahara.lg.jp/kankobunka/1010039/unuma/index.html
中山道鵜沼宿 — かかみがはらさんぽ(各務原市観光情報)
https://kakamigahara-kankou.jp/tourism/194
中山道 鵜沼宿 — Network2010.org
https://network2010.org/article/201
鵜沼宿 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B5%9C%E6%B2%BC%E5%AE%BF
安田家住宅(若竹屋) — Monumento
https://ja.monumen.to/spots/11306

最終更新日: 2026.03.22