八ツ三館本館:飛騨古川に息づく登録有形文化財の老舗料亭旅館

岐阜県飛騨市古川町、荒城川に架かる霞橋のたもとに佇む八ツ三館(やつさんかん)は、安政年間(1850年代後半)に創業した歴史ある料亭旅館です。その本館は、飛騨の匠の技を結集した明治建築として、国の登録有形文化財に指定されています。160年以上にわたり旅人を迎え続けてきた八ツ三館は、飛騨古川の歴史と伝統を今に伝える貴重な存在です。

歴史的背景

八ツ三館の歴史は江戸時代末期にさかのぼります。越中八尾(現・富山県富山市八尾町)出身の三五郎が飛騨古川に移り住み、宿を開いたのが始まりです。「八ツ三館」の名は、出身地の「八(尾)」と名前の「三(五郎)」を組み合わせて名付けられました。当初は米屋から商人宿として営まれていましたが、高山本線の全線開通に伴い宿泊需要の変化を見据え、料理旅館へと業態を転換し、現在に至ります。

現在の本館は、明治37年(1904年)の古川大火の後、明治38年(1905年)に再建されたものです。飛騨の大工の卓越した技術によって築かれた建物は、山本茂実の名作小説『あゝ野麦峠』にも登場します。明治時代、信州の製糸工場へ向かう多くの若い女性たちが、この八ツ三館を経由して野麦峠を越えていきました。八ツ三館は飛騨最北の募集拠点・検番宿として賑わった歴史を持っています。

文化財指定の理由

八ツ三館本館は、平成19年(2007年)10月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。木造2階建、瓦葺の建物は建築面積385平方メートルを有し、南北棟の入母屋造を正面に、その奥に両下造の東西棟を突出させる特徴的な構造を持ちます。2階には客室を主に配し、1階には吹抜けのホールや応接室、浴室などが設けられています。各室ごとに異なるデザインが施されており、飛騨の匠の技術の多様性と創造性を示す建築として高く評価されています。

見どころと魅力

八ツ三館は3つの棟から構成されており、それぞれ異なる時代と建築様式を反映しています。明治38年築の招月楼(しょうげつろう)は、飛騨商家造りの本館であり、登録有形文化財に指定された空間です。なるべく明かりを取り入れようとした先人の知恵が生きた吹抜けの建築は、明治時代の面影をそのまま残しています。昭和初期に建てられた光月楼(こうげつろう)は、優美な数寄屋造りが特徴です。平成に増築された観月楼(かんげつろう)は、現代的な快適さを備えながらも和の趣を大切にした造りで、本光寺と荒城川を望む眺望が楽しめます。

館内には飛騨春慶の和箪笥や箱階段など、時代とともに使い込まれた調度品が随所に配されています。傷んだものは修理し、漆を塗り直して使い続けるという、物を大切にする日本の美意識がここには息づいています。

到着時には抹茶と和菓子でのおもてなしがあり、地元飛騨の食材をふんだんに使った月替わりの会席料理は個室料亭でいただけます。庭園露天風呂には流葉温泉の単純アルカリ泉が引かれ、しっとりとした肌触りの湯が旅の疲れを癒してくれます。

アクセス・周辺情報

八ツ三館は飛騨古川の中心部に位置し、鯉が泳ぐ瀬戸川と白壁土蔵の町並みまで徒歩約5〜10分です。「高山の奥座敷」と称される飛騨古川は、隣接する高山に比べて静かで落ち着いた雰囲気が魅力です。JR飛騨古川駅から徒歩約10分。名古屋からはJR特急「ひだ」で約2時間半、富山からは約1時間でアクセスできます。

周辺の見どころ

  • 瀬戸川と白壁土蔵街 — 色とりどりの鯉が泳ぐ風情ある水路と蔵の町並み(徒歩約5分)
  • 飛騨古川祭(古川祭) — 毎年4月19・20日に行われる国の重要無形民俗文化財。勇壮な起し太鼓が見どころ
  • 飛騨古川まつり会館 — 古川祭の屋台や起し太鼓を通年展示
  • 本光寺 — 荒城川を挟んで八ツ三館の真向かいに位置する歴史ある寺院
  • 飛騨高山 — 古い町並みで有名な高山市街まで電車で約15分

Q&A

Q八ツ三館本館が「登録有形文化財」に指定された意味は?
A日本の文化庁が建築的・歴史的に重要な建造物として認定したものです。八ツ三館は現在も料亭旅館として営業しており、宿泊することで文化財の空間を実際に体験できる稀有な施設です。
Q宿泊しなくても文化財の建物を見学できますか?
A八ツ三館は営業中の旅館のため、館内の見学は基本的に宿泊者に限られます。ただし、風格ある外観や玄関まわりは、霞橋や県道から見ることができます。
Q飛騨古川へのアクセス方法は?
AJR高山本線の飛騨古川駅が最寄りです。名古屋からは特急「ひだ」で約2時間半、富山からは約1時間です。八ツ三館は駅から徒歩約10分の場所にあります。
Q小説『あゝ野麦峠』との関係は?
A明治時代、八ツ三館は飛騨地方で最も北に位置する製糸工場への募集拠点・検番宿でした。多くの若い女性たちがここを経由して野麦峠を越え、信州の製糸工場へ向かいました。山本茂実の小説『あゝ野麦峠』にもその様子が描かれています。
Q本館の建築的な特徴は何ですか?
A明治37年の古川大火後に飛騨の匠によって再建された本館は、入母屋造の屋根構造と、明かりを取り入れるための吹抜けホールが特徴的です。各客室ごとに異なるデザインが施されており、飛騨の伝統的建築技術の奥深さを感じることができます。

基本情報

名称 八ツ三館本館(やつさんかんほんかん)
文化財種別 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成19年(2007年)10月2日
建築年 明治38年(1905年)
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積385㎡
所在地 岐阜県飛騨市古川町向町1-8-33
アクセス JR飛騨古川駅から徒歩約10分

参考文献

八ツ三館本館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/119254
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006381
飛騨古川「八ツ三館」宿泊体験記 — 岐阜県観光公式サイト
https://www.kankou-gifu.jp/blog/detail_289.html
八ツ三館 公式サイト
https://823kan.com/
八ツ三館 — 飛騨市公式観光サイト「飛騨の旅」
https://www.hida-kankou.jp/reserve/467

最終更新日: 2026.04.10