織都桐生に建てられた煉瓦造の校門
旧桐生高等染織学校正門(きゅうきりゅうこうとうせんしょくがっこうせいもん)は、群馬県桐生市天神町の群馬大学桐生キャンパスに建つ高さ3.7メートル、幅16.8メートルの煉瓦造の門で、大正5年(1916年)の建築、平成10年(1998年)12月11日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
桐生の織物には長い蓄積があったが、高等教育機関はなかった。転機は国の産業政策である。明治政府は生糸の輸出から付加価値の高い織物生産への転換を図り、明治36年(1903年)に桐生、足利、米沢、京都、福井、富山の六か所へ模範撚糸工場を設置した。その教育機関として大正4年(1915年)12月に設置されたのが、官立唯一の高等染織学校である桐生高等染織学校だった。染織科と紡織科の二科をもち、入学式は大正5年4月10日に行われている。
正門はその創立年に建てられた。校地は群馬県から寄附されたもので、門はまっさらな敷地の入口に立った。学校の名は大正9年(1920年)に桐生高等工業学校、のちに桐生工業専門学校と変わり、昭和24年(1949年)の学制改革で新制群馬大学工学部となった。現在は理工学部。門は、それらすべてより長く同じ場所に立ち続けている。
「造形の規範」としての登録
登録有形文化財の登録基準は三つある。多くの建造物は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されるが、この門が該当したのは二つ目の「造形の規範となっているもの」である。全体から見れば少数派の基準で、校門という工作物がこれで登録される例はさらに限られる。
理由は門柱の扱いにある。同時期の煉瓦門柱は、角柱に笠石を載せただけの簡素なものが一般的だった。この門は門柱上部の四面すべてにゴシック風のポーチコを付し、その頂部に門灯を掲げる。門柱の間には鉄製の門扉が吊られる。文化庁の解説は、東京大学本郷キャンパスの煉瓦塀に似た門として知られると記しており、地方の一例としてではなく、官立学校の煉瓦意匠という系譜の中に位置づけている。
登録は平成10年(1998年)12月11日、告示は同月25日、登録番号は10-0032。同じ日に、創立時本館の一部と講堂からなる群馬大学工学部同窓記念会館、そして旧門衛所である工学部守衛所も登録された。いずれも大正5年の建築である。本館の設計は、文部省大臣官房建築課桐生出張所長で文部技師の新山平四郎とされる。新山は札幌、秋田、桐生、横浜と文部省の出張所長を歴任し、明治から大正にかけて新設された官立学校の校舎を数多く手がけた建築家である。
ひとつ補足しておきたいことがある。この門は建てられた場所には立っていない。校舎新築にともなって本館が移設された際、門も解体され、移設後の本館玄関前に建て直された。それが現在地である。移設の時期について、群馬大学は昭和47年度としており、現地の説明板は昭和48年、資料によっては昭和45年とするものもある。門はいま、敷地の境界ではなく建物の正面を画している。
門の見方と訪ね方
同窓記念会館の側から歩いて近づくと、門、前庭、下見板張りの木造正面という順に構図が組み上がる。門柱を見上げてほしい。四面それぞれに付されたポーチコは、一面あたり手のひらほどの大きさしかない。それでも、誰も正対しない側の面まで同じ手が加えられている。「造形の規範」という基準が指しているのは、こうした判断である。
煉瓦は焼きむらを含んだ深い赤に落ち着き、鉄製の門扉は当初の建て込みのまま吊られている。
門は稼働中の大学構内にあるため、見学の際は入口の守衛所で記名してから入ることになる。その守衛所自体が登録有形文化財の旧門衛所で、木造平屋建、瓦葺の切妻屋根に下見板張りという、本館と同系列の造りをしている。規模に応じて意匠は簡略化されているが、共通する部分を探しながら見ると面白い。見学料はかからない。30名以上の団体は桐生市を通じて事前予約が必要。外観の撮影に制限はないが、講義棟などは見学対象ではない。
多くの人が足を運ぶ目的は同窓記念会館だろう。旧講堂は平屋ながら二階から三階ほどの高さの吹き抜けで、三方を桟敷が取り囲み、演壇の背後には装飾的な壁龕が設けられている。往時の長椅子も残る。門を見たなら、こちらまで見ておきたい。
鉄道はJR両毛線・わたらせ渓谷鐵道の桐生駅、または上毛電鉄の西桐生駅から、おりひめバスで群馬大学方面へ。キャンパスの南側には桐生天満宮が控え、その先には桐生新町重要伝統的建造物群保存地区が広がる。この学校が支えようとした産業の現場、のこぎり屋根の織物工場がいまも街路沿いに残っている。
Q&A
- 旧桐生高等染織学校正門は見学できますか。手続きや料金は?
- 見学できます。群馬大学桐生キャンパスの構内にあるため、入口の守衛所で記名のうえお入りください。見学料は不要です。30名以上の団体は桐生市を通じた事前予約が必要です。
- 旧桐生高等染織学校正門はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
- 学校が開校した大正5年(1916年)の建築です。登録有形文化財となったのは平成10年(1998年)12月11日で、告示は同月25日、登録番号は10-0032です。
- 旧桐生高等染織学校正門は創建時の場所に建っているのですか。
- いいえ。本館の移設にあわせて解体され、移設後の本館玄関前へ建て直されました。本館の移設時期は群馬大学の記録では昭和47年度、現地説明板では昭和48年とされ、資料によって幅があります。
- 旧桐生高等染織学校正門のほかに、構内で見られる登録有形文化財はありますか。
- 同じ平成10年12月11日に、創立時本館の一部と講堂からなる群馬大学工学部同窓記念会館、および旧門衛所である工学部守衛所が登録されています。いずれも大正5年の建築です。
- 旧桐生高等染織学校正門への行き方を教えてください。
- JR両毛線・わたらせ渓谷鐵道の桐生駅、または上毛電鉄の西桐生駅から、おりひめバスで群馬大学方面へ向かいます。所在地は桐生市天神町1-5-1です。
基本データ
| 名称 | 旧桐生高等染織学校正門(きゅうきりゅうこうとうせんしょくがっこうせいもん) |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県桐生市天神町1-5-1(群馬大学桐生キャンパス内) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 10-0032/登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 平成10年(1998年)12月11日登録(告示 同年12月25日) |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 煉瓦造、鉄製門扉附属、高さ3.7メートル、幅16.8メートル。大正5年(1916年)建築 |
| 所有者 | 国立大学法人群馬大学 |
| 公開状況 | 構内のため守衛所で記名のうえ見学可。見学料無料。30名以上の団体は桐生市を通じて要事前予約 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 旧桐生高等染織学校正門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000948
- 文化遺産オンライン — 旧桐生高等染織学校正門
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/196892
- 桐生市 — 群馬大学工学部関係(3件)
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1007462.html
- 群馬大学理工学部 — 群馬大学工学部同窓記念会館
- https://www.st.gunma-u.ac.jp/kinenkan
- 桐生市 — 群馬大学工学部同窓記念会館(見学案内)
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/spot/kiryu/1001865.html
最終更新日: 2026.08.08