浅間高原に残る木造駅舎

旧草軽電鉄北軽井沢駅駅舎は、群馬県吾妻郡長野原町北軽井沢にある昭和5年(1930年)建築の木造平屋建駅舎で、平成18年(2006年)11月29日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

草軽電気鉄道は、軌間762ミリの軽便鉄道として新軽井沢と草津温泉のあいだ55.5キロを結んでいた。大正4年(1915年)に一部区間で営業を始め、大正15年(1926年)に全線が開通する。浅間山の裾を回り込みながら高原を走る小さな電車は、戦後まもない昭和21年(1946年)には年間46万人を運んだ記録が残る。しかし度重なる台風被害と自動車輸送の伸長にはあらがえず、昭和35年(1960年)に新軽井沢から上州三原までが廃止され、昭和37年(1962年)に全線が姿を消した。

沿線には18の駅が置かれていた。建物として現存するのは、ここ一棟だけである。

開設は大正7年(1918年)、当初の名称は地蔵川停留場といった。転機は別荘地の開発だった。法政大学学長を務めた松室致が所有地を大学関係者や学者、文化人に分譲し、「法政大学村」と呼ばれる集落が形成される。その大学村が駅舎を新築して鉄道会社に寄贈し、軽井沢の北に位置することから北軽井沢駅と改称された。

登録の理由と建築の内容

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。国宝や重要文化財の指定と違い、所有者は建物を使い続け、必要に応じて手を加える自由を保ったまま、大きな改変の際に届け出る義務を負う。登録の基準は三つあり、この駅舎は第一の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」に該当するとして登録された。登録番号は10-0210である。

文化庁データベースの記載は「木造平屋建、鉄板葺、建築面積68㎡」と簡潔だが、実際の造りは手が込んでいる。主屋は入母屋造で、屋根は鉄板を瓦棒葺とし、桟が屋根面を縦に走る。そこから前面に突き出す玄関もまた入母屋造で、その側面には千鳥破風が加えられている。屋根の稜線が一枚の面で終わらず、大小の三角形に分節されるのはこのためだ。

軒下の処理も丁寧だ。建物は石積の基礎の上に建ち、外壁は柱を見せる真壁造で白漆喰を塗る。腰まわりは簓子下見板張、つまり刻みを入れた竪桟で横板を押さえる仕上げとした。屋根の形は信州の善光寺を手本にしたとも伝わるが、これは地元に語り継がれてきた話であって、記録で裏づけられたものではない。

平成17年(2005年)、長野原町がこの建物を譲り受けて改修工事を実施した。翌年9月に国の文化審議会が答申し、11月29日付で登録されている。

訪ねたときに見ておきたいところ

まず玄関の欄間を見上げてほしい。透かしの中に、白く抜かれたHの字が並んでいる。寄贈者である法政大学村に由来する意匠で、群馬の山あいの駅舎がローマ字の頭文字を掲げている理由はここにある。気づかずに通り過ぎる人が多い。

駅舎の裏手には、平成22年(2010年)7月にホームと線路の一部が再現された。その上に据えられているのが、デキ12形電気機関車の実物大木製モニュメントである。もとは米国ジェフリー社が鉱山用に製造した車両を改良して使ったもので、小さな車体に不釣り合いなほど高く伸びるパンタグラフから、利用者は「カブトムシ」と呼んだ。産学官による北軽井沢コンソーシアム協議会が企画し、地元の建築工房が設計・施工を手がけている。

もうひとつ。昭和26年(1951年)公開の映画『カルメン故郷に帰る』の舞台がこの駅である。木下惠介監督、高峰秀子主演による日本初の国産カラー長編映画で、主人公が降り立つ駅のホーム、そして実際に走るデキ12形の姿が色つきで記録されている。作品を知っている人なら、現地に立った瞬間に見覚えのある構図に気づくはずだ。

見学について。外観、再現されたホーム、機関車のモニュメントはいつでも自由に見られ、屋外での撮影に制限はない。内部は北軽井沢観光協会が管理しており、夏期を中心に期間を限って無料開放されるほか、絵画や写真の展示会場として一般に貸し出されることもある。開放は通年ではないため、内部を見たい場合は事前に観光協会または長野原町役場へ確認しておきたい。

アクセスは北陸新幹線の軽井沢駅北口から。草軽交通の草津温泉方面行きバスに乗り、約40分で「北軽井沢」に着く。バス停は駅舎の建つロータリーに面している。車の場合は国道146号沿いで、隣接する観光協会前に駐車できる。標高は約1100メートルあり、秋の朝晩は急に冷え込む。ロータリー周辺に植えられたしだれ桜は、旧軽井沢の桜が散ったあとに見頃を迎える。

隣の北軽井沢観光協会と北軽井沢ふるさと館には、草軽電鉄に関する資料の一部が展示されている。数歩の距離なので、あわせて立ち寄るとよい。

Q&A

Q旧草軽電鉄北軽井沢駅駅舎の内部は見学できますか。料金はかかりますか。
A内部は夏期を中心に期間を限って無料開放されており、それ以外の時期は展示会場として利用されることがあります。外観はいつでも自由に見学できます。内部の公開状況は北軽井沢観光協会または長野原町役場にご確認ください。
Q軽井沢駅から旧草軽電鉄北軽井沢駅駅舎までどう行けばよいですか。
A軽井沢駅北口から草軽交通の草津温泉方面行きバスに乗り、約40分の「北軽井沢」で下車します。駅舎はバス停のあるロータリーに面しており、徒歩すぐです。車では国道146号沿いになります。
Q北軽井沢駅駅舎は草軽電気鉄道で唯一残る駅舎ですか。
Aそのとおりです。新軽井沢から草津温泉までの沿線には18の駅がありましたが、昭和37年(1962年)の全線廃止後に取り壊しが進み、当時の姿をとどめる駅舎はこの一棟のみとなりました。
Q北軽井沢駅駅舎の玄関にあるHの文字は何を意味しますか。
A法政大学の頭文字です。法政大学関係者の別荘地である法政大学村が駅舎を新築して鉄道会社に寄贈した経緯があり、その由来を示す意匠として玄関の欄間に組み込まれています。
Q北軽井沢駅駅舎の周辺には他に見どころがありますか。
A駅舎の裏手には平成22年(2010年)にホームと線路が再現され、デキ12形電気機関車の実物大木製モニュメントが置かれています。隣接する北軽井沢観光協会と北軽井沢ふるさと館にも草軽電鉄関係の資料があります。

基本情報

名称旧草軽電鉄北軽井沢駅駅舎(きゅうくさかるでんてつきたかるいざわえきえきしゃ)
所在地群馬県吾妻郡長野原町大字北軽井沢字新鎌1987-649
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 10-0210
指定年平成18年(2006年)11月29日登録
員数1棟
寸法木造平屋建、鉄板葺、建築面積68平方メートル
所有者文化庁データベースに記載なし(北軽井沢観光協会が管理)
公開状況外観は常時見学可・無料。内部は夏期を中心に期間限定で無料開放(要事前確認)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 旧草軽電鉄北軽井沢駅駅舎
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005928
文化遺産オンライン — 旧草軽電鉄北軽井沢駅駅舎
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/185833
北軽井沢観光協会 — 観光案内・駅舎
https://kita-karuizawa.jp/guide/ekisya.html
長野原町観光情報サイト — 旧草軽電鉄 北軽井沢駅舎
https://naganohara.com/tourist/tourist-546/
草軽交通株式会社 — 路線バスのご案内
https://www.kkkg.co.jp/bus/rosen-bus.html

最終更新日: 2026.08.08