桐生織物会館旧館:織都・桐生の栄華を今に伝えるレトロモダン建築

群馬県桐生市の中心部に、約90年にわたり日本の織物産業の歴史を見守り続けてきた堂々たる建物があります。桐生織物会館旧館(きりゅうおりものかいかんきゅうかん)は、昭和9年(1934年)に完成した国の登録有形文化財であり、日本有数の絹織物産地・桐生の繁栄と誇りを体現する建築物です。現在は「桐生織物記念館」として一般に公開されており、1,300年以上の歴史を持つ桐生織物の豊かな伝統に触れることができます。

桐生の歴史:日本を代表する「織都」の歩み

桐生と織物の関わりは、遙か古代にまで遡ります。奈良時代の歴史書『続日本紀』には、714年(和銅7年)にこの地域から絹織物が朝廷に献上されたという記録が残されています。江戸時代には「西の西陣、東の桐生」と称され、京都の西陣と並び日本を代表する絹織物の産地としての地位を確立しました。

桐生は「織都(しょくと)」という雅称で呼ばれ、日本の織物生産における中心的な役割を担ってきました。明治維新後は、鋸屋根(のこぎりやね)工場の導入や電力化の推進など、いち早く近代化に成功。数多くの大規模工場が立ち並ぶ日本屈指の繊維産業地帯へと発展しました。

昭和初期の大恐慌からも早期に回復した桐生は、昭和10年(1935年)前後に織物産業の全盛期を迎えます。この躍進の原動力となったのは、大陸への積極的な輸出販路の開拓、人絹(レーヨン)や絹洋服地などの新製品開発、そして効果的な宣伝広告活動でした。まさにこの好況期の頂点に建てられたのが「桐生織物会館」だったのです。

建築の特徴と文化的価値

桐生織物会館旧館は、群馬県土木課営繕係の設計により、桐生織物同業組合の事務所として昭和9年(1934年)10月に竣工しました。木造2階建て、建築面積は約833平方メートルで、屋根には独特の青緑色をした日本洋瓦が葺かれています。

外壁には、当時流行していたスクラッチタイルが全面に張り巡らされており、建物に重厚で洗練された質感を与えています。2階の旧大広間にはステンドグラスが嵌め込まれ、西洋風の優雅な雰囲気を醸し出しています。明治末期から役所や事務所建築に多く採用された、背の高い総2階建てで上階に大会議室を備えるという形式を踏襲しており、まさに桐生織物業界の象徴的な建築物でした。

この建物には織物関係の各組合の事務所が置かれ、桐生織物産業の司令塔としての役割を果たしていました。そのモダンな外観は当時の市民にも大きな影響を与え、周囲にも同様のスクラッチタイル張りの事務所や住宅が次々と建てられました。その一部は現在も残っており、桐生の街並みに独特の風情を添えています。

なぜ文化財に指定されたのか

桐生織物会館旧館は、平成9年(1997年)5月に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その理由は、昭和初期の洋風建築の好例として保存状態が良好であること、スクラッチタイル張り・青緑色の瓦葺き・ステンドグラスという和洋折衷の意匠が時代の建築美意識を示していること、そして桐生織物産業の最盛期を象徴する歴史的建造物であることが高く評価されたためです。

さらに、平成19年(2007年)には経済産業省の「近代化産業遺産」にも認定され、平成27年(2015年)4月には文化庁が認定する日本遺産「かかあ天下 ―ぐんまの絹物語―」の構成文化財の一つにも選ばれました。この日本遺産ストーリーは、古くから絹産業が盛んであった上州(群馬県)において、女性たちが養蚕・製糸・織物で家計を支え大いに活躍した歴史を語るものです。桐生織物会館旧館においても、かつて女子職員が電話交換手やタイプライター事務員として業務を支えていたという記録が残っています。

見どころ・楽しみ方

1階:桐生織物販売場

1階は「織匠の間」として、桐生織物製品の展示販売スペースとなっています。シルクのネクタイ、スカーフ、布小物、着物生地、各種端切れ、婦人服地など、産地ならではの価格で本物の桐生織を購入することができます。特にネクタイは、百貨店の2〜3倍の品質のものが手頃な価格で手に入ると評判です。エントランスには、桐生織物の歴史を物語る貴重なジャカード式手織機も展示されています。

2階:織物資料展示室

2階の織物資料展示室では、桐生で実際に使用されていた貴重な織機をはじめ、織物道具、生地サンプル、歴史パネルなど、桐生織物の歩みを辿る資料が展示されています。ビデオ鑑賞で製造工程や地域の織物史を学ぶこともでき、スタッフに声をかければ手織り体験にも挑戦できます。旧大広間のステンドグラスから差し込む柔らかな光の中で、織物文化に触れる贅沢な時間を過ごせるでしょう。

レトロモダンな建物そのもの

スクラッチタイル張りの重厚な外観と歴史的な内装空間は、映画やドラマのロケ地としても頻繁に活用されるほど評価が高く、建築ファンにとっても見逃せないスポットです。昭和初期の日本にタイムスリップしたかのような雰囲気の中、桐生の街並みの原点ともいえるこの建物の魅力を、ぜひ間近で感じてください。

周辺情報

桐生織物記念館の周辺には、織物文化に関連する魅力的な観光スポットが数多く点在しています。

  • 有鄰館(ゆうりんかん):江戸時代から昭和初期にかけて酒・味噌・醤油の醸造に使われていた11棟の蔵群。桐生市指定重要文化財で、現在は展示やコンサートなどの文化イベントスペースとして活用されています。桐生新町重要伝統的建造物群保存地区内の本町通り沿いに位置しています。
  • 絹撚記念館(きぬよりきねんかん):明治時代に建てられた模範工場・桐生撚糸合資会社の事務所棟を活用した煉瓦造りの建物。近代化産業遺産に認定されており、桐生の重要伝統的建造物群保存地区や絹遺産に関する展示が行われています。
  • 織物参考館"紫"(ゆかり):より大規模な体験型織物博物館。稼働するジャカード織機の見学、染色体験、蚕の繭から生糸を繰る実演など、織物づくりの工程を五感で体験できます。
  • 桐生新町重要伝統的建造物群保存地区:約400年前に桐生天満宮を起点として形成された在郷町の面影を残す地区。江戸後期から昭和初期に建てられた主屋、土蔵、鋸屋根工場などが残り、現在はカフェやギャラリーなどに活用されています。
  • 西桐生駅:上毛電気鉄道のアールデコ調の終着駅舎で、それ自体が登録有形文化財。記念館から徒歩約3分の距離にあります。

Q&A

Q桐生織物記念館の入館料はかかりますか?
A入館料は無料です。1階の織物販売場も2階の織物資料展示室も、どなたでも無料で見学・利用できます。手織り体験も無料で楽しめますので、2階のスタッフにお気軽にお声がけください。
Q東京からのアクセス方法を教えてください。
A東京方面からは、JR両毛線で桐生駅まで約2時間。桐生駅から記念館までは北へ徒歩約5〜7分です。また、上毛電気鉄道の西桐生駅からは徒歩約3分です。車の場合は、北関東自動車道の太田桐生ICから約25分です。
Q開館時間と休館日を教えてください。
A1階の織物販売場は10:00〜17:00、2階の織物資料展示室は10:00〜16:00です。休館日は毎月最終週の土曜日・日曜日、お盆期間(8月13日〜16日)、年末年始(12月29日〜1月3日)です。
Q駐車場はありますか?
Aはい、無料の駐車場が約15〜17台分あります。ただし、周辺施設の利用者も駐車することがあるため、混雑時は満車になることもあります。JR桐生駅から徒歩圏内ですので、公共交通機関の利用もおすすめです。
Qお土産として桐生織物製品を購入できますか?
Aはい、1階の販売場では産地直売価格で桐生織物製品を購入できます。シルクのネクタイ、スカーフ、布小物、着物生地、端切れ類など、幅広い品揃えが魅力です。企画展も随時開催されています。なお、免税店ではありませんのでご了承ください。

基本情報

名称 桐生織物会館旧館(きりゅうおりものかいかんきゅうかん)/ 桐生織物記念館
文化財指定 国登録有形文化財(平成9年5月7日登録)、日本遺産構成文化財(平成27年)、近代化産業遺産(平成19年)
竣工年 昭和9年(1934年)10月
設計 群馬県土木課営繕係
構造 木造2階建て、瓦葺、建築面積約833㎡
所有者 桐生織物協同組合(旧:財団法人桐生織物会館)
所在地 〒376-0044 群馬県桐生市永楽町6-6
開館時間 10:00〜17:00(織物資料展示室は16:00まで)
休館日 毎月最終週の土曜日・日曜日、8月13日〜16日、12月29日〜1月3日
入館料 無料
駐車場 あり(約15〜17台、無料)
アクセス JR両毛線 桐生駅より徒歩約5〜7分/上毛電気鉄道 西桐生駅より徒歩約3分/北関東自動車道 太田桐生ICより約25分
電話番号 0277-43-7272(販売場)/ 0277-43-2510(展示室)
公式サイト https://kiryuorimonokinenkan.com/

参考文献

桐生織物会館旧館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/180033
桐生織物会館旧館|桐生市ホームページ
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1001995.html
桐生織物記念館公式ウェブサイト
https://kiryuorimonokinenkan.com/
桐生織物会館旧館|日本遺産ポータルサイト
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/258/
日本遺産 かかあ天下 ―ぐんまの絹物語― 桐生織物会館旧館
https://worldheritage.pref.gunma.jp/JH/sbt/kb013/
ぐんま絹遺産データベース — 桐生織物会館旧館
https://worldheritage.pref.gunma.jp/kinuisan/db-dtl.php?data=58
桐生織物記念館|桐生テキスタイル公式ウェブサイト
https://kiryutextile.com/cooperative-association/
桐生織物記念館(桐生織物会館旧館)|ニッポン旅マガジン
https://tabi-mag.jp/gu0448/

最終更新日: 2026.03.26