路地に向けて開く門と、十九メートルの塀
荻原家住宅門及び塀は、群馬県桐生市新宿にある明治10年(1877年)建築の門と塀で、平成19年(2007年)5月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。門と塀は台帳上まとめて1棟として数えられている。
建つ場所は、新宿通りから南へ入った小路の東隅。渡良瀬川の左岸にあたる。通りからは母屋も土蔵も見えない。小路に折れて初めて、間口3.4メートルの門と、そこから西へ19メートル続く白漆喰の塀が現れる。塀の上には土蔵と奥座敷の屋根が少しだけ顔を出している。
外に見せているのは、それだけである。
桐生は織物の町で、荻原家もその一員だった。明治37年(1904年)刊の『群馬県営業便覧』には「女帯地製造 荻原文三郎」の名が載る。機織は江戸時代から手がけていたが、本格化したのは土蔵が建った明治10年以降と伝わる。工場はのちに境野町に置かれ、新宿の敷地は住まいとして使われた。現在、機織は廃業している。
棟門と、簓子下見板張の腰
門の形式は棟門。二本の本柱が直接棟を受ける形で、脇に部屋を伴う長屋門とは造りが違う。屋根は切妻造の桟瓦葺。門口の幅は1.7メートルで、両開きの板扉を吊り込む。東側には潜戸が設けてある。日常の出入りは潜戸ですませ、荷や客のときだけ板扉を開ける、という使い分けができる。
見どころはむしろ塀の方にある。木造で瓦を葺き、上半は白漆喰塗。腰の部分は簓子下見板張とする。下見板を横に張り、その上から縦に簓子と呼ばれる桟を打って板の縁を押さえる技法である。装飾ではなく実用の判断で、漆喰の壁は雨の跳ね返りを受ける足元から傷む。傷む場所を、交換しやすい板で受けているわけだ。
町家の境界としては19メートルはかなりの長さになる。ゆっくり歩いてみると、漆喰の面がほとんど途切れず一枚に見えることに気づく。区切っているのは瓦の笠木と、腰板が始まる位置に落ちる影の線だけである。
「歴史的景観に寄与」という登録理由
登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号は10-0231、第54回の登録にあたる。この基準が、この物件の性格をよく説明している。著名な棟梁の作だから、あるいは歴史上の事件の舞台だから登録されたのではない。街路に対して何をしているか、が評価されている。
同じ荻原家住宅では、主屋(木造平屋建、瓦葺、建築面積59平方メートル)と土蔵(土蔵造2階建、瓦葺、建築面積35平方メートル)も別個に登録されている。いずれも明治10年の建築で、三件の登録が一つの屋敷を分担して記述している格好になる。
桐生市の説明によれば、屋敷は南北に廊下がめぐる「L」字型の構成で、建物に囲まれた南西側が庭となる。新宿通りからは望見できないが、南に面する門と土塀越しに見える土蔵や奥座敷の屋根が往時の景観を思わせ、桐生織物全盛期の機屋の住居構成を伝える建造物群だとされる。
桐生には織物にまつわる登録文化財が数多くある。織物工場、商家の事務所、駅舎、水道施設。そのなかに置けば門と塀は小さな存在だが、この種の物件で一般の目に触れる部分は、たいていそこしかない。
訪ねるときに
個人の住宅であり、公開されていない。内部の見学も、駐車場も、受付もない。見られるのは小路から眺める外観だけで、それが登録の趣旨にもかなっている。門をくぐったり、敷地内をのぞき込んだりすることは控えたい。
小路からの撮影自体に問題はないが、人が暮らしている場所である。門口から敷地内へレンズを向けない、小路をふさがない、この二点は守りたい。道幅は狭く、住民の生活道路でもある。
最寄り駅はJR両毛線の桐生駅と上毛電気鉄道の西桐生駅で、新宿地区はいずれからも徒歩圏にある。多くの人は桐生新町重要伝統的建造物群保存地区を歩く流れでこのあたりに足を延ばすことになるだろう。両者を合わせれば、半日の徒歩コースとしてちょうどよい。登録文化財についての問い合わせは桐生市教育委員会文化財保護課が窓口となっている。
Q&A
- 荻原家住宅門及び塀は見学できますか。内部の公開はありますか。
- 個人の住宅のため公開されていません。内部見学や敷地への立ち入りはできず、駐車場もありません。敷地南側の小路から門と塀の外観を眺めることのみ可能です。
- 荻原家住宅門及び塀はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
- 建築は明治10年(1877年)です。登録有形文化財(建造物)への登録は平成19年(2007年)5月15日、第54回登録で、登録番号は10-0231です。
- 荻原家住宅の門はどのような形式の門ですか。
- 棟門です。二本の本柱が棟を直接受ける形式で、切妻造・桟瓦葺、間口3.4メートル。門口の幅は1.7メートルで両開きの板扉を吊り、東側に潜戸を設けています。
- 荻原家住宅門及び塀の写真撮影はできますか。
- 小路からの外観撮影であれば差し支えありませんが、居住中の住宅です。門口から敷地内へカメラを向けること、狭い小路に立ち止まって通行を妨げることは避けてください。
- 荻原家住宅には門及び塀のほかにも登録文化財がありますか。
- 主屋(木造平屋建、瓦葺、建築面積59平方メートル)と土蔵(土蔵造2階建、瓦葺、建築面積35平方メートル)が別途登録されています。どちらも門及び塀と同じ明治10年の建築です。
基本情報
| 名称 | 荻原家住宅門及び塀(はぎわらけじゅうたくもんおよびへい) |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県桐生市新宿2-9-7 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 10-0231 |
| 指定年 | 平成19年(2007年)5月15日 登録(第54回) |
| 員数 | 1棟(門及び塀を一括して1棟) |
| 寸法 | 門:木造、瓦葺、間口3.4メートル、潜戸付/塀:木造、瓦葺、延長19メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 非公開(小路から外観のみ見学可) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 荻原家住宅門及び塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006147
- 桐生市 — 荻原家住宅
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1001992.html
- 桐生市 — 国登録文化財一覧
- https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1001989.html
最終更新日: 2026.08.08