旧日の丸写真館:竹原の町並みを見守る昭和のランドマーク
広島県竹原市の町並み保存地区の南西端、本川左岸の角地に建つ旧日の丸写真館は、昭和7年(1932年)頃に建てられた木造3階建ての写真館です。竹原在住の大工・吉名市次郎によって手がけられたこの建物は、台形の敷地を最大限に活かした独特の外観を持ち、竹原を代表するランドマークのひとつとなっています。平成26年(2014年)12月19日に国登録有形文化財に登録され、昭和初期の建築技術の高さと写真産業の歴史を今に伝える貴重な存在です。
歴史と背景
旧日の丸写真館が建てられた昭和7年頃は、写真が一般市民にも広まりつつあった時代でした。竹原の大工・吉名市次郎がこの建物を設計・施工し、竹原伝統的建造物群保存地区の南西、本川左岸の道路沿い角地という変形敷地に、その形状を巧みに活かした建築を実現しました。
昭和20年(1945年)頃に改修が行われていますが、全体の形や窓などの開口部の配置は建築当初の状態をよく保っています。2階には写真修整室、3階には写場(撮影スタジオ)と現像室が設けられており、写真館としての機能が建物の外観デザインに直接反映されている点が大きな特徴です。
写真館としての営業はその後別の場所に移転しましたが、建物自体は大切に維持されてきました。そのたたずまいが「国土の歴史的景観に寄与している」と高く評価され、平成26年に国登録有形文化財に登録されました。
なぜ文化財に登録されたのか
旧日の丸写真館が国登録有形文化財に登録された理由は、大きく分けて三つあります。
第一に、建築当初の姿をよく留めている点です。昭和20年頃の改修を経ているものの、建物全体の形状や開口部の配置は建設時の状態を保持しており、昭和初期の建築技術の高さを現在に伝えています。西角を隅切りとした平面や、3階で北角も斜めにする独特の形状は、文化庁の記録においても「特異な景観を創出している」と評されています。
第二に、産業遺産としての価値です。写真は幕末期に日本にもたらされた新しい技術であり、この建物は地方都市において写真という産業がどのように営まれていたかを物語る貴重な証拠です。撮影・修整・現像という写真制作の各工程に対応した室内配置が、建物の構造そのものに刻まれています。
第三に、竹原の歴史的景観への貢献です。江戸時代の商家が立ち並ぶ伝統的建造物群保存地区に隣接する位置で、昭和初期という異なる時代の建築でありながら、この町の重層的な歴史を体現し、保存地区周辺の景観に独自の魅力を加えています。
建築の見どころ
旧日の丸写真館の最大の見どころは、その独特な形状です。道路沿い角地の台形敷地にぴったりと建てられ、交差点に面する西角は隅切り(角を斜めにカット)とし、さらに3階では北角も斜めに処理されています。この結果、木造建築としては非常に珍しい、モダンで幾何学的な外観が生まれています。
窓の配置もこの建物の大きな魅力です。一見不規則に並んだ窓は、実は各階の用途に応じた合理的な設計の結果です。3階の写場(撮影スタジオ)には自然光を最大限に取り入れるための大きな窓が配され、2階の修整室は異なる採光条件に対応した窓の配置がなされています。建物の機能が外観のデザインとして表現されているのです。
建物は本川の対岸にある「酔景の小庭」と呼ばれる小さな広場から眺めることができ、川岸の雁木(石の階段)や常夜灯とともに、異なる時代の歴史が重なる趣深い風景を楽しむことができます。
アニメ「たまゆら」との関わり
旧日の丸写真館は、竹原市を舞台としたアニメ「たまゆら」に登場する写真館のモデルとしても知られています。作品の中で、写真好きの主人公・沢渡楓(愛称「ぽって」)が父の形見のカメラ「ローライ35S」のメンテナンスやフィルムの現像のために通う場所として描かれ、店主の「マエストロ」が物語の重要な人物として登場します。
「たまゆら」は2010年から2016年にかけてOVAやテレビシリーズとして展開され、竹原市の実在の風景が忠実に再現されたことで、多くのファンが「聖地巡礼」として竹原を訪れるきっかけとなりました。旧日の丸写真館はその中でも特に人気の高い巡礼スポットのひとつであり、作品を通じてこの建物の魅力を知る若い世代も増えています。
周辺の見どころ
旧日の丸写真館は、竹原の町並み保存地区への玄関口ともいえる場所に位置しています。すぐ北側に広がる保存地区は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、江戸時代の製塩業や酒造業で栄えた豪商たちの屋敷が今も美しく残されています。
徒歩圏内の主な見どころとしては、明治5年に建てられた塩田経営者の邸宅・旧笠井邸、京都の清水寺の舞台を模したとされる西方寺の普明閣(町並みを一望できる絶景スポット)、そして「日本のウイスキーの父」竹鶴政孝の生家でもある竹鶴酒造などがあります。NHK連続テレビ小説「マッサン」のモデルとなった竹鶴政孝とリタ夫妻の銅像も保存地区内に設置されています。
また、JR竹原駅の隣駅・忠海駅近くの忠海港からはフェリーで大久野島(通称「うさぎ島」)に渡ることもできます。数百匹の野生のうさぎが出迎えてくれるこの島は、国内外から多くの観光客を集める人気スポットです。竹原の歴史的町並みとあわせて訪れれば、充実した一日を過ごすことができるでしょう。
訪問のヒント
旧日の丸写真館は外観見学のみの文化財であり、内部の一般公開は行われていません。ただし、建物の魅力はむしろ外観にあり、特に本川の対岸からの眺めがおすすめです。周辺の町並み保存地区は自由に散策でき、一部の歴史的建造物は入館料(300~400円程度)で内部を見学できます。
季節ごとの楽しみも豊富です。毎年10月下旬から11月上旬に開催される「たけはら憧憬の路」では、約5,000本の竹灯りが町並みを幻想的に照らし出します。春の桜や秋の紅葉の季節も、歴史的建造物と自然の美しい調和を楽しめます。
町並みをより深く知りたい方には、道の駅たけはら内のたけはら観光ガイド会が提供するガイド付き散策がおすすめです。90分から120分の散策で、地元のガイドが町の歴史や建築の見どころを丁寧に案内してくれます。2日前までの予約が必要で、ガイド料は1名につき2,000円(税込)です。
Q&A
- 旧日の丸写真館の内部は見学できますか?
- 現在、内部は一般公開されておらず、外観見学のみとなっています。本川の対岸にある「酔景の小庭」から眺めると、建物の独特な形状や窓の配置をよく観察することができます。
- 広島市内からのアクセス方法は?
- 広島駅から高速バス「かぐや姫号」で竹原駅まで約70~90分、またはJR呉線で約110分です。竹原駅から旧日の丸写真館までは徒歩約15分です。車の場合は、広島空港から約25分、山陽自動車道・河内ICから約20分です。
- アニメ「たまゆら」のファンですが、他にどんな聖地がありますか?
- 竹原市内には多くの「たまゆら」関連スポットがあります。町並み保存地区の本町通り、西方寺の普明閣と石段、憧憬の広場、旧笠井邸などが作中に登場しています。竹原市公式サイトでも聖地マップが公開されていますので、事前にチェックして訪問するとより楽しめます。
- 駐車場はありますか?
- 旧日の丸写真館の近くには、道の駅たけはらの無料駐車場や新町市営駐車場(有料)があります。道の駅たけはらは町並み保存地区の入口に位置しており、散策の起点としても便利です。
- 見学にはどのくらいの時間が必要ですか?
- 旧日の丸写真館自体は外観見学のため10~15分程度ですが、隣接する町並み保存地区の散策を含めると、飲食・休憩なしで約2~3時間が目安です。ガイド付きツアーは90分~120分のコースが用意されています。
基本情報
| 名称 | 旧日の丸写真館(きゅうひのまるしゃしんかん) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成26年(2014年)12月19日 |
| 建築年代 | 昭和7年(1932年)頃建築/昭和20年(1945年)頃改修 |
| 設計・施工 | 吉名市次郎(竹原在住の大工) |
| 構造 | 木造3階建、瓦葺、建築面積約97㎡ |
| 所在地 | 〒725-0022 広島県竹原市本町1-4996-2 |
| アクセス | JR呉線竹原駅から徒歩約15分 |
| 見学 | 外観見学のみ(内部非公開) |
| 見学料 | 無料(外観見学) |
参考文献
- 旧日の丸写真館 – 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/235401
- 旧日の丸写真館(きゅうひのまるしゃしんかん) – 竹原市
- https://www.city.takehara.lg.jp/soshikikarasagasu/bunkashogaigakushuka/gyomuannai/9/1/8/2423.html
- 広島県の文化財 – 旧日の丸写真館 – 広島県教育委員会
- https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/bunkazai/bunkazai-data-3000113381.html
- たけはら町並み保存地区 – 竹原市公式観光サイト
- https://www.takeharakankou.jp/spot/4305
- たまゆら – 竹原市公式サイト
- https://www.city.takehara.lg.jp/soshikikarasagasu/sangyoshinkoka/gyomuannai/3/2073.html
- 旧日の丸写真館 – じゃらんnet
- https://www.jalan.net/kankou/spt_guide000000214812/
- 旧日の丸写真館(広島県竹原市) – 安芸の国から
- https://www.akinokuni.jp/cars/drive/hinomaru-syashinkan-2023
最終更新日: 2026.03.26