街道に北面する酒問屋の商家

岡田家住宅主屋(おかだけじゅうたくおもや)は、広島県東広島市西条本町にある昭和前期の商家建築で、令和3年(2021年)2月4日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。木造2階建、瓦葺、建築面積は約212平方メートルである。

建物が面しているのは、いま西条酒蔵通りと呼ばれている道である。かつては京と下関を結ぶ西国街道であり、この一帯は宿場町・四日市宿の目抜き通りだった。岡田家住宅主屋はその街道に北面して建つ。

岡田家が営んでいたのは酒造ではなく酒問屋、つまり流通の側である。文化庁の記録も「市中心部にある酒問屋を営む商家」と記す。店の間があり、荷を通す土間があり、家族の暮らす座敷がある。三つの機能をひとつの屋根の下に納めた構えは、酒どころ西条を支えたもうひとつの生業の姿を示している。

正面の見どころ

屋根は入母屋造の妻入である。街道沿いの町家は桁行方向に長い平入が多いなかで、妻側を正面に向けた妻入は、三角形の妻壁が通りに立ち上がるぶん、垂直方向の伸びを感じさせる。

一階は下屋(げや)を葺きおろし、その正面に幅広く出格子を立てる。出格子は壁面から少し前に張り出した格子窓で、通りの光と風を店の間に入れながら、外からの視線はやわらかく遮る。

二階を見上げると、この建物の性格がはっきりする。周囲の酒蔵が白漆喰の壁を並べるなかで、岡田家住宅主屋の二階外壁は黒タイル貼なのである。屋根の灰色との対比は強く、通りを歩いていて足が止まる。

その二階壁の両端には袖卯建(そでうだつ)を設ける。卯建はもともと隣家との間に立てる防火壁で、やがて経済力を示す意匠としての性格を帯びた。下に淡い色の格子、上に黒い面、両端を短い袖壁で締める。正面の構成は一続きの意図として読める。

間取りに残る町家の論理

内部は間口が狭く奥行の長い敷地に対応した町家の構成をとる。東側には土間を通し、街道から敷地の奥まで、床に上がらずに荷を運べるようにしている。西側は前面にミセを置き、その奥に二列四室を並べる。

背後には角屋(つのや)と風呂場が接続する。商いの拡大や家族構成の変化にあわせて建物を後ろへ伸ばしていった結果で、間口から想像するよりも建築面積が大きいのはそのためである。

ただし、これらの部屋を見学することはできない。建物は現在も企業の所有する私有財産で、内部は非公開である。ここに書いた間取りは、文化庁の国指定文化財等データベースの記載に基づく。

登録の理由と、西条という場所

日本の建造物の保護には、指定と登録という二つの制度が並んでいる。国宝や重要文化財を生む指定は対象を絞り、現状変更に強い規制をかける。一方の登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、おおむね築50年以上の建物を幅広く受け止め、規制をゆるやかにして、使い続けながら守ることを想定している。岡田家住宅主屋は後者にあたる。

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号は34-0298、第97回の登録である。令和2年(2020年)7月の文化審議会答申では、東広島市内から8件が答申された。うち6件が西条岡町の太田家住宅、残る2件が西条本町の岡田家住宅、すなわちこの主屋と土蔵だった。翌年2月の官報告示によって、西条酒蔵地区の登録有形文化財は81件に達した。

この密度が意味を持つ。昭和前期の商家一棟だけを取り出せば、規模の大きな建物ではない。しかし約1キロメートルの通り沿いに、酒蔵、赤煉瓦の煙突、町家が数十件単位で登録されている状況に置くと、宿場町から醸造町へ、さらに近代の産業地区へと変わっていった街の履歴が、建物の並びとして読めるようになる。

訪ねるときに

最寄りはJR山陽本線の西条駅で、南口から徒歩5分ほど。広島駅からは在来線でおよそ35分の距離である。前述のとおり内部は非公開のため、拝観時間も拝観料も設定されていない。見学は通りからの外観のみとなる。

道路上からの撮影は妨げられていないが、東広島市は指定・登録文化財の見学にあたって、撮影や火気の扱いなどのマナーを守るよう呼びかけている。生活と仕事が続いている建物であることは意識しておきたい。

酒蔵通りを歩くなら、周辺にも足を延ばしたい。西へ数分の賀茂鶴酒造一号蔵は、令和6年(2024年)2月に「西条酒蔵群」の一部として国の史跡に指定された建物で、現在は蔵元直営店として公開されている。賀茂泉酒造の敷地内にある旧広島県醸造試験場は一部が公開施設。地区内には赤煉瓦の煙突が12本立ち、7つの蔵元が今も酒造りを続けている。

西条が兵庫の灘、京都の伏見と並んで日本三大銘醸地に数えられるのには、実務的な理由がある。周囲の山地から届く伏流水、良質な酒米、そして仕込みの季節に昼夜の寒暖差が大きくなる盆地の気候である。

Q&A

Q岡田家住宅主屋の内部は見学できますか?
Aできません。建物は企業が所有する私有財産で、事業用の建物として使われており、内部は非公開です。外観は前面の道路からいつでも見ることができます。
Q岡田家住宅主屋の場所と行き方を教えてください。
A所在地は広島県東広島市西条本町910です。JR西条駅の南口から徒歩5分ほど、西条酒蔵通り沿いに建っています。
Q岡田家住宅主屋はいつ、どの区分の文化財になりましたか?
A令和3年(2021年)2月4日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。登録番号は34-0298、登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。指定ではなく登録の制度によるもので、重要文化財ではありません。
Q岡田家住宅主屋は酒蔵ですか?
A酒蔵ではありません。岡田家は酒造ではなく酒問屋を営んでいた家で、この建物は流通を担った商家です。西条の酒蔵は同じ通り沿いの別の建物で、見学や試飲を受け入れている蔵元もあります。
Q岡田家住宅主屋は伊丹の旧岡田家住宅と同じものですか?
A別の建物です。兵庫県伊丹市の旧岡田家住宅は正徳5年(1715年)頃の酒蔵を含む国の重要文化財で、市の文化施設として公開されています。奈良市や岐阜県大野町にも同名の登録有形文化財があり、いずれも東広島市の岡田家住宅とは関係がありません。

基本情報

名称岡田家住宅主屋(おかだけじゅうたくおもや)
所在地広島県東広島市西条本町910
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 34-0298
指定年令和3年(2021年)2月4日 登録
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積約212平方メートル
所有者株式会社岡田グループ本社
公開状況内部非公開(外観は道路から見学可)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 岡田家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013658
文化遺産オンライン — 岡田家住宅主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/550225
東広島市 — 西条町の指定等文化財
https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkaishogaigakushu/3/11/bunkazai/town/saijo/index.html
東広島市 — 史跡 西条酒蔵群
https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkaishogaigakushu/3/11/bunkazai/town/saijo/sakaguragun/index.html
東広島市観光協会 — 西条酒蔵通り
https://higashihiroshima-kanko.jp/saijo-sakaguradori/

最終更新日: 2026.08.08