敷地の中央に立つ蔵
岡田家住宅土蔵(おかだけじゅうたくどぞう)は、広島県東広島市西条本町にある昭和前期の土蔵で、令和3年(2021年)2月4日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。土蔵造2階建、瓦葺、建築面積は約37平方メートルである。
建つ位置に、この建物の役割が表れている。主屋の南側、つまり街道から見て奥まった側に、西を向いて立つ。主屋が街道に北面して間口をとり、その背後に敷地が細長く伸びる。土蔵はその中ほどを占め、扉を作業のための内庭側へ開く。
建築面積は主屋の6分の1ほど。蔵は大きさで勝負する建物ではない。守るための建物である。
土蔵という構法
土蔵は、木の軸組を厚い土壁で包み、表面を漆喰で仕上げた建物を指す。木造家屋の密集する町にとって火災は日常的な脅威で、蔵は帳簿や証文、什器、季節ごとの調度、そして商品を火から隔てるための箱だった。
この土蔵は、外壁の漆喰を軒先まで塗り込めている。屋根と壁の取り合いにできる隙間を塞ぐ塗籠(ぬりごめ)の手法で、そこから火の粉が入って軸部に届くのを防ぐ。屋根は桟瓦葺である。
壁の下部、腰の部分だけは扱いが違う。漆喰でも石張りでもなく、モルタル洗出しで仕上げてある。モルタルがまだ固まりきらないうちに表面を水で洗い、内部の骨材である石の粒を浮き立たせる技法である。大正から昭和初期にかけてモルタルは新しい材料だった。伝統的な構法の蔵の腰にこの仕上げが現れることは、建設年代を示す手がかりになる。雨の跳ね返りを受け、荷の出し入れでぶつけられる場所であるから、硬い骨材の面は漆喰より長く保つ。
蔵前の格天井
この建物で唯一、実用一辺倒ではない部分が蔵前(くらまえ)である。扉の前に設けられた庇下の空間で、幅は一間。独立した入母屋屋根がかかり、天井には格天井を張る。
格天井は、角材を格子状に組んでその間に板を張る天井で、本来は寺院の仏堂や神社の社殿、あるいは格式の高い座敷に用いられる。働くための蔵の入口にそれが載っている。庇には、重い漆喰塗の扉を開け放っているあいだ雨を防ぎ、荷を仮置きする実際的な役割がある。板を張り渡すだけでも用は足りたはずである。そうしなかった判断がここに残っている。
内部は板敷。一階の壁は竪板張とし、二階は漆喰塗のままとする。荷が触れる下階には板を張って土壁を守り、上階は仕上げをそのまま見せる。使い方の違いが、そのまま壁の仕上げの違いになっている。
登録の理由と、酒都のなかでの位置
登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は34-0299、第97回の登録である。文化庁の解説文は、この土蔵が「敷地中央の屋敷景観を形成する」と記している。通りからほとんど見えない建物に対する評価としては珍しい書き方で、正面の意匠ではなく屋敷全体の構成を見た判断であることが分かる。
登録有形文化財は、指定に比べて規制のゆるやかな制度である。平成8年(1996年)に始まり、おおむね築50年以上の建物を対象とし、使い続けながら守ることを前提とする。この土蔵と主屋は令和2年(2020年)7月の文化審議会で同時に答申され、翌年2月の官報告示で登録された。
周囲の評価はここ数年で積み上がっている。平成29年(2017年)12月には日本イコモス国内委員会が「西条の酒造施設群」を「日本の20世紀遺産20選」に選定。令和6年(2024年)2月には、地区内の4か所の酒造施設が「西条酒蔵群」としてまとめて国の史跡に指定された。酒蔵が史跡に指定されたのは全国で初めてである。指定にあたっての評価は、旧西国街道沿いの町家の背後に置かれた小規模な酒蔵が、やがて町並みの裏手の農地を使った大規模な酒蔵へ発展していった過程を読み取れる点にあった。街道に面した主屋と、その背後に立つ土蔵という岡田家の敷地の構成は、その過程の前半を小さな規模で示している。
見学について
土蔵は非公開である。事業に使われている私有地の内側に立つため、拝観時間も拝観料もなく、内部に入ることはできない。主屋よりもさらに奥にあるので、通りからは屋根と壁の上部がわずかに見える程度と考えておきたい。よく見える角度を探して敷地に立ち入ることは避けていただきたい。
そのかわり、敷地の組み立て方を頭に置いて地区を歩くと、見え方が変わる。JR西条駅の南口から徒歩5分ほどでこの一帯に着く。通りはかつての西国街道で、宿場町・四日市宿の目抜き通りだった道である。脇道を覗くと同じ配置が繰り返されている。街道に面した建物、その奥の庭、さらに奥の白い蔵や酒蔵、屋根の上に立つ赤煉瓦の煙突。煙突は地区内に12本ある。
史跡「西条酒蔵群」の構成要素である賀茂鶴酒造一号蔵は、蔵元直営店として公開され、きき酒もできる。約1キロメートルの範囲に7つの蔵元が集まり、西条は灘・伏見と並ぶ日本三大銘醸地に数えられる。道路上からの撮影は妨げられていないが、東広島市は文化財の見学にあたってマナーを守るよう呼びかけている。
Q&A
- 岡田家住宅土蔵は見学できますか?
- できません。事業に使われている私有地の内側に立つ建物で、内部は非公開です。主屋の背後、敷地の中央にあるため、通りから見えるのは一部にとどまります。
- 岡田家住宅土蔵はどこにありますか?
- 広島県東広島市西条本町910、岡田家住宅主屋と同じ敷地内にあります。JR西条駅の南口から徒歩5分ほど、西条酒蔵通り沿いの敷地です。
- 岡田家住宅土蔵はいつ文化財になりましたか?
- 令和3年(2021年)2月4日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。登録番号は34-0299です。同じ日に主屋も34-0298として登録されています。
- 岡田家住宅土蔵の建築上の特徴は何ですか?
- 扉の前に付く一間幅の蔵前に入母屋屋根をかけ、天井を格天井とする点です。格天井は本来、寺社建築や格式の高い座敷に使われる仕上げです。外壁は軒先まで漆喰で塗り込め、腰はモルタル洗出しとしています。
- 岡田家住宅土蔵は酒を仕込むための蔵ですか?
- 酒造用の蔵ではありません。岡田家は酒問屋を営んだ家で、この土蔵は家財や商品を納めるための蔵です。令和6年(2024年)に史跡「西条酒蔵群」に指定された酒蔵は、同じ通り沿いの別の建物です。
基本情報
| 名称 | 岡田家住宅土蔵(おかだけじゅうたくどぞう) |
|---|---|
| 所在地 | 広島県東広島市西条本町910 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 34-0299 |
| 指定年 | 令和3年(2021年)2月4日 登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 土蔵造2階建、瓦葺(解説文では桟瓦葺)、建築面積約37平方メートル |
| 所有者 | 株式会社岡田グループ本社 |
| 公開状況 | 非公開(主屋背後の私有地内に所在) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 岡田家住宅土蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013659
- 東広島市 — 市内の指定・登録文化財
- https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkaishogaigakushu/3/11/bunkazai/index.html
- 東広島市 — 史跡 西条酒蔵群
- https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkaishogaigakushu/3/11/bunkazai/town/saijo/sakaguragun/index.html
- 東広島市観光協会 — 酒蔵通りの町並み
- https://www.hh-kanko.ne.jp/ginjyo/machinami.html
- Dive! Hiroshima — 西条酒蔵通り
- https://dive-hiroshima.com/explore/1199/
最終更新日: 2026.08.08