手狭になった博物館が建てた増築棟

網走市立郷土博物館新館は、北海道網走市桂町にある昭和36年(1961年)竣工の増築棟で、昭和11年(1936年)建設の本館東側に接し、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

建てられた理由は単純である。およそ3,000点の資料で開館した博物館が、昭和30年代には収まりきらなくなった。

圧力の多くは足元の土から来ている。網走川河口のモヨロ貝塚は、大正2年(1913年)以来、理髪師で在野の考古学研究者だった米村喜男衛がほぼ一人で掘り続けてきた場所だった。戦後になると東京大学や北海道大学の調査団が加わり、昭和22年(1947年)以降の組織的な発掘によって、人骨、土器、石器、骨角器が小さな一棟では処理しきれない量で出てくる。網走市は昭和23年(1948年)4月に運営を引き継いだばかりで、自分の町の砂丘が産み出し続ける資料を収める場所を用意しなければならなかった。

増築が完成したのは昭和36年11月。創設25周年に合わせた工事である。市は、本館を設計した建築家に再び依頼した。

同じ設計者の、四半世紀後の答え

田上義也(1899年〜1991年)が昭和11年に手がけた本館は、左右対称の構成に塔屋を載せ、左官仕上げの壁面に幾何学模様のパネルを貼るという、戦前の彼が繰り返し用いた語彙でできている。昭和36年、田上は60代に入っていた。作風は変わっていた。文化庁のデータベースはその点をはっきり書いている。立面は本館との連続性を考慮しつつ、壁面の切込などの彫塑的表現に、田上の戦後の作風が現れている、と。

この一文が、二棟そろって登録された理由でもある。一人の建築家の四半世紀を隔てた作品が、一つの丘の上で接して建っている。訪れる者は一瞬ではなく、一人の設計者の変化を読むことになる。網走市はこの点を根拠に申請し、両棟は令和元年12月5日に「造形の規範となっているもの」として登録された。

構造の面でも本館とは別物である。一次資料が記す新館の構造は、木造及び鉄筋コンクリート造、地上2階地下1階建、金属板葺、建築面積138平方メートル。平面は矩形で、屋根は片流れ。塔屋を戴く隣の構えとは対照的である。凍結深度の関係で地下室を設けにくい道東で地階を持つ点は目を引くが、発掘資料の箱が増え続ける博物館にとっては実務上の解でもあった。

資料を突き合わせる方のために一点だけ補足しておく。同じ国指定文化財等データベースでも、解説文は新館を「木造2階建、地階付」と記す一方、構造及び形式等の欄には「木造及び鉄筋コンクリート造地上2階地下1階建」とある。正式な記載欄である後者を本稿では採った。

見どころは二棟が接するところ

玄関よりも、まず敷地を歩いてほしい。新館の面白さは本館との接し方にあり、それは入館料を払わなくても外から見える。

東側に少し離れて立つ。本館は対称であることにこだわる。新館はこだわらない。量塊は素直な矩形、屋根は片流れ、壁面は貼り付けた装飾ではなく彫り込みによって表情をつくる。田上は立面の水平線を本館と呼応させたので、二棟は喧嘩をしていない。ただし言葉づかいは、模様から彫塑へ移っている。戦前の田上は面を飾る。戦後の田上は面を削る。

接合部そのものにも一分だけ時間を割く価値がある。この時代の増築は、隣に何が建っているかを無視して建つことが少なくない。新館はそうしていない。その抑制が読みどころである。

内部は二棟の別なく、一つの博物館として見学する動線になっている。常設展示はオホーツクの自然と、古代から現代に至る網走の歴史。モヨロ貝塚の出土資料が考古展示の中心を占める。年に二回程度、自然と歴史の分野から特別企画展が組まれるとされ、普段は収蔵庫にある資料が出てくる機会になる。新館内部を目当てに行く場合は、展示替えによって使う部屋が変わるため、受付で確認するのが早い。

開館は火曜から日曜の9時から17時。11月から4月は16時までとなる。休館日は月曜、国民の祝日、12月29日から1月3日。入館料は敷地全体で大人120円、小中学生60円、20名以上の団体は大人96円・小中学生48円。駐車場は5台分で、JR網走駅からは徒歩約15分。

撮影は令和8年(2026年)5月13日から適用されている市のガイドラインに従う。個人の思い出・記録としての写真および動画は掲示された条件の範囲で撮影でき、それ以外の利用は事前の問い合わせが必要、個人利用以外の動画撮影は不可となっている。建築としての見どころが集まる外観については、特段の支障はない。

訪れる季節で印象が変わる。12月から4月頃まで丘には雪が積もり、片流れの屋根と切り込まれた壁面は、夏の緑を背にしたときとは別の見え方をする。冬期は閉館が一時間早い点だけ、出かける前に確かめておきたい。

Q&A

Q網走市立郷土博物館新館とは何ですか。いつ建てられたのですか?
A昭和11年開館の網走市立郷土博物館の東側に、昭和36年(1961年)11月、創設25周年を記念して増築された棟です。戦後のモヨロ貝塚の発掘で資料が急増し、本館だけでは収まらなくなったことが背景にあります。令和元年12月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。
Q網走市立郷土博物館新館の内部は見学できますか?
A博物館は本館と新館を一体で運営しており、通常の入館料で敷地全体を見学できます。ただし展示替えの時期によって使用中の部屋が変わるため、新館の内部を目的に訪れる場合は受付で確認してください。建築的な見どころが集まる外観は、敷地内からいつでも見ることができます。
Q網走市立郷土博物館新館は本館とどこが違うのですか?
A本館は左右対称の平面に塔屋を載せ、壁面に幾何学模様のパネルを貼る昭和11年の建築です。新館は矩形平面に片流れ屋根を架けた木造及び鉄筋コンクリート造で、地上2階地下1階建。壁面は貼り付けた模様ではなく切込による彫塑的表現でつくられています。設計はどちらも田上義也で、新館には戦後の作風が表れています。
Q網走市立郷土博物館新館と本館が同じ日に登録されたのはなぜですか?
A二棟がそろって初めて価値が説明できるからです。田上義也の四半世紀を隔てた作品が一つの敷地で接して建っていることにより、設計思想の変化を実物で追える。網走市はその点を根拠に申請し、両棟は令和元年12月5日、登録番号01-0156(本館)と01-0157(新館)として、いずれも「造形の規範となっているもの」の基準で登録されました。
Q網走市立郷土博物館新館を訪ねるのに適した時期とアクセスは?
A桂町の丘の上にあり、JR網走駅から徒歩約15分、駐車場は5台分です。開館は火曜から日曜の9時から17時、11月から4月は16時まで。月曜・国民の祝日・12月29日から1月3日は休館です。夏は開館時間が長く坂道も歩きやすく、冬は雪を背にした片流れ屋根の輪郭がはっきり見えます。

基本情報

名称網走市立郷土博物館新館(あばしりしりつきょうどはくぶつかんしんかん)
所在地北海道網走市桂町一丁目1番3号
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録基準:造形の規範となっているもの
指定年令和元年(2019年)12月5日登録(登録番号 01-0157、第94回登録)
員数1棟
寸法木造及び鉄筋コンクリート造、地上2階地下1階建、金属板葺、建築面積138平方メートル
所有者網走市
公開状況博物館の一部として公開。火曜〜日曜9時〜17時(11月〜4月は16時まで)、月曜・国民の祝日・12月29日〜1月3日は休館。入館料は大人120円、小中学生60円

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「網走市立郷土博物館新館」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013014
文化遺産オンライン「網走市立郷土博物館新館」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/380417
文化庁 国指定文化財等データベース「網走市立郷土博物館本館」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013013
網走市「網走市立郷土博物館プロフィール」
https://www.city.abashiri.hokkaido.jp/soshiki/31/2209.html
網走市「網走市立郷土博物館の施設情報」
https://www.city.abashiri.hokkaido.jp/site/kyodo/1245.html
網走市「博物館所管施設での写真・動画の撮影について」
https://www.city.abashiri.hokkaido.jp/soshiki/31/22113.html

最終更新日: 2026.08.27