山を失った灯台
幌泉灯台記念塔は、北海道幌泉郡えりも町字本町にある鉄筋コンクリート造の灯台で、昭和3年(1928年)に建てられ、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財に登録された。現在は光を放っていない。町なかの公園の芝生に、四角い白塔が一本だけ立っている。
この塔がもともと据えられていたのは、漁港の背後にせり上がる灯台山という小高い丘の頂だった。同じ場所には初代の木造灯台があったと伝わり、昭和3年の建て替えで木造からコンクリートへ替わっている。日本の灯台に鉄筋コンクリートが使われ始めて間もない時期の選択だった。
その後およそ50年間、光は沖へ届き続けた。ところが丘のふもとに市街地が広がるにつれ、街灯や住宅の明かりが灯光と混ざるようになる。昭和53年(1978年)、観音山(住吉山)に新しい灯台が建設されて役目を終えた。
普通なら、ここで解体される。えりも町はそうしなかった。同じ年、丘のすそを迂回していた国道の直線化と、えりも港湾の整備が進んでおり、灯台山そのものが切り崩されることになっていた。町は廃灯となった塔を国から譲り受け、山を削って造成した「えりも町灯台公園」の中央に据え直した。しかもその位置は、平面図の上ではかつて建っていた場所とほぼ重なる。塔は動かず、下の山だけが消えたことになる。
光を失った塔が登録された理由
登録基準は「造形の規範となっているもの」。文化庁の解説は、その理由を具体的に書いている。我が国の鉄筋コンクリート造灯台の初期の形式をよく残している、というものだ。
石造・鉄造の時代を経てコンクリートが入ってきた頃、灯台はまだ現在よく見る白い円筒形ではなかった。設計にあたった技術者たちは西洋古典建築の語彙を身につけており、それを塔の表面に率直に出している。
幌泉の塔は、その特徴が一通り読み取れる。外観は円錐でも円筒でもなく四角柱。入口の上には持送を介した半円アーチが載る。壁の隅部には唐戸面という、指物や建具に用いられる面取りの形式が施され、角が線として立ち上がる。頂部にはコーニスが一周し、そこにデンティルと呼ばれる小さな方形の連続装飾が並ぶ。屋上の灯火部には鉄枠の窓が穿たれている。
この世代の灯台で、装飾の細部まで残るものは多くない。まして一度解体・移設を経てなお形式を保っている例となると、さらに数が絞られる。登録が評価したのは、その組み合わせである。
寸法について一点、記しておきたい。文化庁の国指定文化財等データベースは高さ11メートル、建築面積13平方メートルと記録する。一方えりも町の観光ページは高さ9メートル、幅3.65メートル、奥行き4.15メートルとする。本稿は登録原簿に基づく文化庁の数値を採った。計測の基準点の違いか、移設にともなう地盤高の変化に由来する差かは、確認できていない。
塔の足もとに立つ
灯台公園はえりも町の市街地のただ中、襟裳岬へ向かう国道336号沿いにある。門も受付もない。芝生と公衆トイレとイベントステージがあり、その中央に塔が立つ。
撮影は自由。白く角張った塔なので影の出方が強く、表面はいつ見ても新しい。えりも町商工会青年部などの手で定期的に化粧直しが行われており、建築から100年近い建物がこれほど鮮明に見えるのはそのためである。
ぜひ真下まで歩いてほしい。登録の根拠になった細部は、いずれも目線かそのすぐ上にある。道路から一枚撮って終えるのとは、見えるものがまるで違う。持送付の半円アーチがいちばん読み取りやすい。灯火部の鉄枠窓は下からでは見づらいので、少し離れて見上げるとよい。
内部は公開されていない。灯火装置は廃灯時に撤去されており、登れる構造でもない。
8月中旬は様子が一変する。毎年8月14日から16日にかけて「えりもの灯台まつり」がこの公園で開かれ、露店とステージが並び、中日には花火が上がる。塔は主役から背景に回る。静かに建物と向き合いたい場合は、この3日間を外すのが賢明だ。
えりも町に鉄道駅はない。路線バスか車での移動になる。襟裳岬までは車でおよそ30分。灯台の資料は郷土資料館「ほろいずみ」が扱っており、国史跡の猿留山道など町内の他の文化財もあわせて調べられる。
Q&A
- 幌泉灯台記念塔は見学できますか。拝観料はかかりますか。
- 見学できます。料金はかかりません。えりも町中心部の「灯台公園」という公共の公園内に立っており、門も受付もないため時間を問わず外観を見ることができます。見学できるのは外観のみです。
- 幌泉灯台記念塔の内部に入ったり、上まで登ったりできますか。
- できません。内部は非公開で、灯火装置も昭和53年の廃灯時に撤去されています。展望塔ではなく、記念物として保存されている建物です。
- 幌泉灯台記念塔はどこにあり、どう行けばよいですか。
- 所在地は北海道幌泉郡えりも町字本町53-1、市街地を通る国道336号沿いです。えりも町に鉄道駅はないため、路線バスか車での移動になります。襟裳岬までは車でおよそ30分です。
- 幌泉灯台記念塔は今も灯台として使われていますか。なぜ移設されたのですか。
- 昭和53年(1978年)に観音山へ新灯台が建設されて廃灯となりました。同じ時期に、建っていた灯台山が港湾整備と国道の直線化のために切り崩されることになり、えりも町が塔を国から譲り受けて、造成された公園のほぼ元の位置に据え直しました。
- 幌泉灯台記念塔は撮影できますか。
- 撮影は自由です。開かれた公園内にあり制限はありません。白い四角柱なので、朝夕の低い光のときに陰影がよく出ます。
- 幌泉灯台記念塔のある灯台公園では、8月に何が行われますか。
- 毎年8月14日から16日にかけて「えりもの灯台まつり」が開かれます。露店やステージのほか花火大会もあり、この3日間は公園が大変混み合います。
基本情報
| 名称 | 幌泉灯台記念塔(ほろいずみとうだいきねんとう) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道幌泉郡えりも町字本町53-1(灯台公園内) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 01-0159/登録基準:造形の規範となっているもの |
| 指定年 | 令和元年(2019年)12月5日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 鉄筋コンクリート造、高さ11メートル、建築面積13平方メートル(文化庁)。えりも町は高さ9メートル、3.65×4.15メートルとする |
| 所有者 | えりも町 |
| 公開状況 | 公園内のため外観は常時見学可・無料。内部は非公開 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「幌泉灯台記念塔」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013016
- 文化遺産オンライン「幌泉灯台記念塔」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/458339
- えりも町 郷土資料館「ほろいずみ」・水産の館「幌泉燈台記念塔」
- https://www.town.erimo.lg.jp/horoizumi/dp6l350000000jgx.html
- 風のまち「えりも」観光ナビ「灯台公園」
- https://www.town.erimo.lg.jp/kankou/pages/k9mfea0000000bd6.html
最終更新日: 2026.08.28