敷地南東隅に残る年貢米の蔵
桁行二間、梁間二間。建築面積にしておよそ十六平方メートルの小さな土蔵が、赤木家屋敷の南東隅に建つ。東籾蔵と呼ばれるこの蔵は、土蔵造平屋建ながら東半分に二階床を張り、かつて小作から納められた年貢米を収めていた。
赤木家は代々この地の大庄屋を務めた家である。年貢の取りまとめと地域の取締りを担う立場にあり、収穫期に集まる米を蓄える籾蔵は、その役目を支える実務の場であった。小ぶりな蔵が屋敷の隅にあって、家の生業を静かに語っている。
置屋根と漆喰がつくる構え
屋根は切妻造、桟瓦葺。蔵本体の上に屋根を別構造として架ける置屋根形式をとり、瓦屋根と土壁のあいだに空気の層を設けている。雨を土壁に直接当てず湿気を逃がすこの手法は、長期の貯蔵を前提とする蔵にとって理にかなう。
外壁は漆喰塗で整え、平入の西面に両開きの土戸を構える。東面には窓を一つ開く。内壁は板張りとし、土壁がにじませる湿りから米俵を守った。中規模の蔵でありながら、防火と防湿の工夫を一通り備えた端正な造りである。
建築は明治中期。主屋が明治三年(1870年)に建てられて以降、書院造の離れや蔵、門などが明治中・末期にかけて整えられていった、その一連の普請のなかに位置づけられる。
水と向き合った屋敷の一部として
東籾蔵は平成十八年(2006年)、国土の歴史的景観に寄与するものとして登録有形文化財に登録された。重要文化財のような許可制の強い規制ではなく、届出と指導を基本とする緩やかな保護制度であり、平成八年(1996年)の制度創設以来、各地の近代和風建築を広く救ってきた枠組みである。
この蔵の価値は、屋敷全体の構えと切り離せない。赤木家屋敷は氾濫を繰り返した円山川のほとりにあり、敷地は玄武岩を主とする石垣によって周囲よりおよそ二メートルかさ上げされている。川側には流れの勢いを弱める水防竹林を育て、蔵の軒下には洪水時にすぐ漕ぎ出せる小舟を吊るしていたと伝わる。一度も浸水を許さなかったという屋敷のなかで、籾蔵もまた水と暮らす知恵の一部として建っている。
この屋敷は、のちに「砂防の父」と称された赤木正雄(1887–1972)の生家でもある。水害と隣り合わせの少年期が、砂防という生涯の仕事へ向かわせたとも語られる。彼の尽力により、SABOは国際語として通用するようになった。
Q&A
- 蔵の中を見学できますか。
- 赤木家住宅は個人の住宅であり、原則として非公開です。ただし同じ敷地内には「砂防の父 赤木正雄展示館」があり、金・土曜に事前予約制で開館しています。訪問前に開館日・時間をご確認ください。
- 置屋根とは何ですか。
- 蔵の上に屋根を別構造として架け、土壁との間に空気層を設ける形式です。瓦屋根が雨を受け、土壁を濡らさず湿気も逃がすため、米を長く乾いた状態で保つ籾蔵に適しています。
- なぜ小さな蔵が文化財なのですか。
- 単体の規模ではなく、円山川の水害に備えた屋敷全体の歴史的景観に寄与する点が評価されています。石垣でかさ上げした敷地に整然と並ぶ蔵や塀の一つとして、屋敷の構えを形づくっています。
- 赤木正雄とのつながりは。
- この蔵は、砂防工学の先駆者となった赤木正雄が生まれた屋敷の建物の一つです。水害への備えに囲まれて育った少年期が、後の砂防事業への道につながったと考えられています。
基本情報
| 名称 | 赤木家住宅東籾蔵(あかぎけじゅうたくひがしもみぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県豊岡市引野972 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録年月日:平成18年(2006年)3月2日/告示:同年3月23日 |
| 登録番号 | 28-0229 |
| 員数 | 1棟 |
| 時代 | 明治中期(1868–1911) |
| 構造及び形式 | 土蔵造平屋建、瓦葺、建築面積約16㎡。桁行二間・梁間二間、切妻造・桟瓦葺の置屋根形式、東半に二階床 |
| 公開状況 | 個人住宅のため原則非公開。敷地内「砂防の父 赤木正雄展示館」(金・土、事前予約制)で屋敷の様子を見学可。最新情報は要確認 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「赤木家住宅東籾蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005319
- 但馬の百科事典(公益財団法人たんしん地域振興基金)「赤木家住宅」
- https://tanshin-kikin.jp/tajima/564
- たじま旅ネット(但馬観光協会)「『砂防の神様』と言われた男、『赤木正雄』博士」
- https://tajima-tabi.net/publictopics/376148
- 土砂災害防止広報センター「砂防の父 赤木正雄展示館」
- https://www.sabopc.or.jp/category/砂防の父 赤木正雄展示館/
最終更新日: 2026.06.22