参道に残る戦前の一棟

西宮の町は酒で名を上げた。その湊は上方の酒を江戸へと積み出し、地元の神社もこの商いとともに栄えた。その社、西宮神社は全国のえびす信仰の総本社であり、参道には多くの参拝者が何気なく用いる小さな建物が建つ。参拝の前に手と口をすすぐ手水舎である。

建物は境内中央部、参道の東脇に位置する。戦後の昭和36年(1961)に再建された本殿やその周囲の社殿とは異なり、この手水舎は戦前から残る。昭和9年(1934)の式年造営の際に建てられたもので、神社のなかでも古い遺構の一つに数えられる。

屋根は切妻造で銅板を葺く。四隅の石製台座の上には、円柱と八角柱を束ねて立て、頭貫で固める。大斗肘木が桁と虹梁を受ける。

登録の理由と価値

令和7年(2025)3月、手水舎は登録有形文化財に登録された(登録番号28-0836)。造形の規範となる建築として評価されている。

小さな建物ながら、仕事は丁寧である。柱間の中備には蟇股を据え、中世風の復古的な意匠に仕上げる。軒は真反の優美な曲線を見せ、規模を超えた品格を与えている。

柱を受ける石製の台座は、木を切石に載せることを好んだ昭和初期の趣味を映す。四方を吹き放ち、中央に手水鉢を据えたこの建物は、実用の設備であると同時に、意匠に凝った堂々たる一棟でもある。

訪れて使うなら

境内で参拝者が実際に手を触れるのがこの建物である。社殿へ進む前に、ここで手と口を鉢の水ですすぎ、身を清めたい。その折に、組物と蟇股を見上げ、軒の反りを目で追ってみたい。

手水舎が建つのは、正月の十日えびすに人で埋まる参道である。三日間で百万人ほどが境内を行き交うが、その時期を外せば、本殿へ歩を進める前に静かに立ち寄れる場所となる。

境内は無料で参拝でき、手水鉢は誰でも使うことができる。

Q&A

Q手水舎とは何ですか。
A参拝の前に手と口をすすいで身を清めるための、手水鉢を納めた建物です。神社の参道に置かれる一般的な設備です。
Qこの建物は戦災を免れたのですか。
Aはい。昭和9年(1934)の建立で、旧本殿を焼いた昭和20年(1945)の空襲より前のものです。昭和36年(1961)に再建された中心の社殿より古い遺構です。
Q蟇股とは何ですか。
A部材の間に据える蛙の脚のような形の束です。ここでは中世風の復古的な意匠で刻まれています。
Q手水鉢は使えますか。
Aはい。四方を吹き放った実用の建物で、参拝の前に手と口を清めることができます。

基本情報

名称西宮神社手水舎(にしのみやじんじゃてみずしゃ)
所在地兵庫県西宮市社家町11
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日令和7年(2025)3月13日/登録番号 28-0836
年代昭和9年(1934)
構造木造平屋建、銅板葺、面積約13㎡
所有者宗教法人西宮神社
公開境内は無料で参拝可能。手水鉢は利用可

参考文献

国指定文化財等データベース — 西宮神社手水舎
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015344
えびす宮総本社 西宮神社 公式サイト — 境内案内
https://nishinomiya-ebisu.com/guide/guide-2/
えびす宮総本社 西宮神社 公式サイト — 由緒
https://nishinomiya-ebisu.com/history/

最終更新日: 2026.07.03