小田垣商店とは ― 旧京街道に面した黒豆商の10棟

小田垣商店は、兵庫県丹波篠山市立町にある享保19年(1734年)創業の黒豆卸商の本店で、江戸後期から大正初期に建てられた店舗・作業場・旧酒蔵と、その背後に続く小田垣家住宅の7件、あわせて10件が平成19年(2007年)10月2日に国の登録有形文化財に登録された。

篠山城の東、城下の商家地区を南北に抜ける旧京街道に、店舗が西を正面にして建つ。店舗の東の奥に作業場と旧酒蔵、南側に座敷・茶室・離れ座敷など住まいの棟が連なり、街道沿いには塀が延びる。登録番号は28-0283から28-0292までの連番で、10件とも同じ日に登録有形文化財となった。

文化庁のデータベースでは、店舗・作業場・旧酒蔵の3件が「小田垣商店」、残る7件が「小田垣家住宅」の名で登録されている。商いの棟と住まいの棟で名称は分かれるものの、各棟の解説文は互いの位置を基準に書かれていて、一つの屋敷として読むのが自然である。所在地の表記は、令和元年(2019年)5月に市名が丹波篠山市へ変わる前の「篠山市」のままになっている。

小田垣商店の歩み

公式サイトの沿革によると、小田垣商店の始まりは享保19年(1734年)、小田垣六左衛門が鋳物師として金物商を開いたことにある。明治元年(1868年)に種苗店へ転じて黒大豆の種子を扱い、黒大豆の集荷と販売を始めた。「小田垣商店」を名乗るのは昭和10年(1935年)からである。

一方、文化庁の解説文は旧酒蔵を「造酒屋時代」の中核施設と呼び、作業場とともにその機能を受け継いだ建物としている。この家が酒造りをしていた時期について公式の沿革は触れておらず、確認できた資料からは時期を特定できない。

平成27年(2015年)には、小田垣商店が日本遺産「丹波篠山デカンショ節」の構成文化財となった。日本遺産ポータルサイトは、民謡に歌われる特産の黒豆を扱う店として、塗屋造の重い外観と、18世紀後期にさかのぼる老舗の屋敷構えを紹介している。

小田垣商店の屋敷構え ― 街道から奥へ

文化庁の解説文をつなぎ合わせると、小田垣商店の10件は次のように並ぶ。建てられた時期は江戸後期から大正初期まで、およそ1世紀半に及ぶ。

  • 店舗(江戸後期):旧京街道に西面する平入の大きな町家で、屋敷の表構えをなす
  • 作業場(明治初期):店舗の東、土間の背後に建ち、店舗から一続きの空間をつくる
  • 旧酒蔵(江戸後期):作業場のさらに東にあり、作業場と一連の屋根を架ける
  • 味噌蔵(江戸末期):作業場の南に建つ井戸屋付きの小さな土蔵
  • 蔵(明治中期):味噌蔵の南に接する2階建の土蔵
  • 座敷(明治末期):店舗の南に坪庭を挟んで建ち、店舗から渡廊下が通じる
  • 茶室(明治末期):座敷の南に接し、庭に面する
  • 便所及び風呂棟(大正期):茶室の東にあり、渡廊下で離れ座敷とつながる
  • 離れ座敷(大正3年頃):敷地の南側に建つ2階建の接客棟
  • 塀(明治末期):店舗の南西隅から南へ延び、敷地の南西角で東に折れて離れ座敷の玄関に取り付く

表の街道に店、その奥に作業と貯蔵の棟、南の庭のまわりに客を迎える棟、という配置である。商いと暮らしが一つの敷地に収まり、明治の末から大正にかけて接客の棟が南へ広がっていった順序も、建築年代から読み取れる。登録基準は10件とも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。各棟の造りと見どころは、それぞれのページで紹介している。

新素材研究所による小田垣商店の改修

小田垣商店は平成30年(2018年)から、現代美術作家の杉本博司氏と建築家の榊田倫之氏が主宰する新素材研究所の設計監修で、10件の改修を段階的に進めてきた。第1期で手を入れたのは10件のうち5件で、もっとも古い江戸後期の建物も含まれる。令和3年(2021年)4月に本店ショップとカフェ「小田垣豆堂」が再開し、翌令和4年(2022年)の第2期では本店の蔵と旧酒蔵、隣接する倉庫と庭が改修された。

令和7年(2025年)春に全棟の改修が終わり、住まいの側の2件が一棟貸しの宿「豆家(まめや)」として同年5月17日に開業した。丹波篠山市長の日記は、宿になったのを大正時代の住居の建物、延べ床面積165平方メートルと伝えている。

設計者はこの仕事を「時代を還る建築」と名づけている。後の時代に取り付けられた雑多な設備を外し、商家の小屋組や在来の工法に倣って耐震性を確保しながら、建物を古い姿へ戻していく考え方である。敷地の中央には新たに石庭がつくられた。黒豆に見立てた真黒石を敷いた「豆道」、枯山水、苔庭、それに縄文時代の遺跡に倣った2組の環状列石からなり、宿泊棟側の列石の中心には縄文時代の石柱が据えられている。

小田垣商店を訪ねるには

小田垣商店の本店は、JR福知山線(JR宝塚線)の篠山口駅からバスで約20分、「上立町」バス停を降りて歩いて約2分のところにある。車なら舞鶴若狭自動車道の丹南篠山口インターチェンジから約13分で、駐車場がある。

誰でも立ち寄れるのは、店舗の建物を中心とした本店ショップとカフェ「小田垣豆堂」である。ショップは午前9時30分から午後5時30分まで開き、休みは年末年始のみ。カフェは午前11時から午後5時まで(ラストオーダー午後4時)で、木曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始が休みとなる。入店に料金はかからない(2026年9月確認)。

住まいの側のうち宿「豆家」になった2件には、宿泊者以外は入れない。茶室も宿泊者の朝食の席として使われている。建物の成り立ちを案内付きで知りたい場合は、小田垣商店が不定期に催す予約制の体験ツアーに建物案内が含まれる(最大8名、大人6,000円、2026年9月確認)。

外観は旧京街道からいつでも眺められる。西を向く店舗の正面と、その南に続く塀が通りから見える範囲になる。店内で撮影するときはスタッフに一言かけ、ほかの客が写り込まないよう気を配りたい。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣商店店舗」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006235
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣商店作業場」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006350
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣商店旧酒蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006351
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣家住宅味噌蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006353
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣家住宅蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006352
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣家住宅座敷」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006354
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣家住宅茶室」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006355
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣家住宅便所及び風呂棟」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006356
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣家住宅離れ座敷」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006357
文化庁 国指定文化財等データベース「小田垣家住宅塀」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006358
日本遺産ポータルサイト(文化庁)「小田垣商店(店舗他9件)」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/882/
小田垣商店 公式サイト「小田垣商店の歴史」
https://www.odagaki.co.jp/about/history
小田垣商店 公式サイト「本店・豆堂」
https://www.odagaki.co.jp/store/facility
小田垣商店 公式サイト「宿泊施設」
https://www.odagaki.co.jp/accommodation
小田垣商店 公式サイト「丹波黒大豆 一粒に宿る仕事 ― 小田垣商店の体験ツアー ―」
https://www.odagaki.co.jp/news/4237/
豆家 mameya「豆家について」
https://mameya.odagaki.co.jp/our-story
豆家 mameya「よくあるご質問」
https://mameya.odagaki.co.jp/faq
新素材研究所「小田垣商店」
https://shinsoken.jp/works/odagaki-shoten/
丹波篠山市「小田垣商店に宿泊施設『豆家』が誕生(市長日記R7.4.18)」
https://www.city.tambasasayama.lg.jp/gyoseijoho/shichonoheya/shichonikki/2025/4/28689.html

最終更新日: 2026.09.28

基本情報

名称小田垣商店
所在地兵庫県篠山市立町19他
指定登録有形文化財 10件
座標35.07230, 135.22348