三棟のうち一棟だけ、別の基準で登録された

高井家住宅土蔵二は、兵庫県加西市北条町横尾127に建つ明治初期の土蔵で、平成18年(2006年)3月2日に国の登録有形文化財に登録された。主屋の東側に接して建ち、桁行3間半、梁間2間、土蔵造2階建で建築面積は27平方メートルである。

この敷地では同じ日に三棟が登録番号を受けている。うち主屋と土蔵一の二棟は、登録基準の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」に該当するとされた。土蔵二だけが違う。

土蔵二の登録基準は「再現することが容易でないもの」である。理由は文化庁の記録に一行で書かれている。屋根はむくりをもった梁に母屋を置いて造られており、希少な構造だという。

むくりの梁が意味すること

日本の屋根の輪郭は、相反する二つの曲線で語られてきた。反りは寺院の軒に見られる内側にくぼむ曲線で、隅が持ち上がる。むくりはその逆で、屋根面がゆるやかに外へふくらむ。数寄屋の系統や、京都の上質な町家の屋根に多い。

このふくらみを出す一般的な方法は、表層で処理することである。梁はまっすぐのまま、野地板や垂木の下に木を挟んで瓦の面だけを湾曲させる。費用が抑えられ、多少の誤差も吸収できる。ところが土蔵二では曲線が梁そのものにある。むくりの線をもつ材を選び、あるいは削り出し、その上に母屋を置いた。屋根面は上から形づけられたのではなく、構造の形をそのままなぞっている。

この方法に妥協の余地はない。母屋を受ける位置は一つひとつ高さも角度も異なり、幾何は建方の前に解いておかねばならず、狂いは後から挟み物で直せない。「再現することが容易でない」とはそういう意味である。技術は特定の時期に特定の大工が握っていたもので、図面には残らない。

街道からだと曲線は控えめで、何を見るのかを知っておくと違う。棟の線を空を背景に追い、視線をそのまま瓦の面から軒先へ下ろしてみるとよい。落ち込むのではなく、ふくらむ。

壁、出入口、置かれた位置

構造は土蔵造で、厚い土壁を漆喰で仕上げた2階建。切妻造の屋根に本瓦を葺き、出入口は長い側にある平入である。外壁は全面が漆喰ではなく、一部を板張りとしている。傷みと風雨がどこに集中したかが、この張り分けから見て取れる。

出入口は主屋の土間の背後に開く。土間は街道から住まいの奥へ通り抜ける通路であり、この一点が使われ方を語っている。荷は道から土間へ下ろされ、床を上がることなくそのまま蔵へ入った。西側の土蔵一は廊下で結ばれ、道具を納めていた。東側のこちらは、家の働く側に据えられている。

高井家住宅は敷地全体として平成21年(2009年)に兵庫県景観形成重要建造物に指定され、加西市内では最初の例となった。横尾一帯は県の歴史的景観形成地区でもある。こうした措置は建物群をまとめて対象とするもので、登録番号が別々でも三棟を一体として見たほうがよい理由がここにある。

横尾を訪ねる

土蔵二は個人の住宅の一部であり、内部は非公開である。拝観料も公開時間の設定もなく、予約する対象でもない。公道からの外観撮影に制限はないが、生活道路として使われている狭い道なので、敷地の境界と車の通行には気を配りたい。

北条鉄道の北条町駅までは南西へ徒歩10分ほど。粟生駅からの所要は約23分、運行はおおむね1時間に1本なので、乗り継ぎを詰める予定なら事前の確認をすすめたい。

北条の町は半日をかける値打ちがある。養老元年(717年)の創建と伝わる住吉神社、天平17年(745年)に行基が開いたと伝わる酒見寺、その門前として町は育った。住吉神社は令和4年(2022年)12月に本殿3棟と拝殿が重要文化財に指定されている。酒見寺には寛文2年(1662年)の多宝塔があり、上重を檜皮葺、下重を瓦葺とする珍しい形式をとる。4月最初の土日には住吉神社の北条節句祭りが行われ、播磨三大祭のひとつに数えられる。15台の化粧屋台がこの界隈を巡行し、龍王舞が奉納される。

Q&A

Q高井家住宅土蔵二だけ他の二棟と登録基準が違うのはなぜですか。
A屋根の構造によります。主屋と土蔵一は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録されました。土蔵二は「再現することが容易でないもの」に該当するとされ、その根拠として、むくりをもった梁に母屋を置いて屋根を組む希少な構造であることが国の記録に挙げられています。
Q高井家住宅土蔵二の内部は見学できますか。
Aできません。個人の住宅の一部で、内部は非公開です。受付も拝観料も公開時間もありません。外観は公道からいつでも見ることができます。
Q高井家住宅土蔵二の規模と建築年を教えてください。
A桁行3間半、梁間2間で、土蔵造2階建、建築面積は27平方メートルです。国のデータベースは建築年代を明治初期とし、西暦では1868年から1911年の幅で示しています。一年に絞る記録はありません。登録番号は28-0240です。
Q高井家住宅土蔵二は敷地のどこに建っていますか。
A主屋の東側に接して建ち、出入口は主屋の土間の背後に開いています。土蔵一は反対の西側、旧街道に接する位置にあります。
Q大阪や神戸から高井家住宅土蔵二へはどう行きますか。
AJR加古川線または神戸電鉄粟生線で粟生駅へ向かい、北条鉄道に乗り換えて終点の北条町駅まで約23分です。北条町駅からは北東へ徒歩10分ほど。駅に隣接する加西市観光案内所でレンタサイクルも借りられます。

基本データ

名称高井家住宅土蔵二(たかいけじゅうたくどぞうに)
所在地兵庫県加西市北条町横尾127
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0240 登録基準「再現することが容易でないもの」
指定年登録 平成18年(2006年)3月2日/告示 同年3月23日
員数1棟
寸法桁行3間半、梁間2間 土蔵造2階建 建築面積27平方メートル
所有者個人(国のデータベースに公表なし)
公開状況内部非公開。外観は公道から見学可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「高井家住宅土蔵二」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005330
文化庁「登録有形文化財(建造物)」制度解説
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
加西市「指定文化財一覧」
https://www.city.kasai.hyogo.jp/site/kyoiku/1647.html
ハートにぐっと北播磨「住吉神社北条節句祭り」
https://www.kita-harima.jp/spot/320/

最終更新日: 2026.08.26