嘉永4年に建った街道沿いの町家
高井家住宅主屋は、兵庫県加西市北条町横尾127に建つ嘉永4年(1851年)建築の町家で、平成18年(2006年)3月2日に国の登録有形文化財に登録された。建物は街道に北面して長い側を向け、この道は播磨から京・大坂へ向かう街道にあたる。地元では横尾街道、あるいは旧丹波街道と呼ばれている。
規模は桁行6間半、梁間5間。建築面積は139平方メートルと記録されている。商家としては堂々としているが、群を抜いて大きいわけではない。この建物が立ち止まって見る価値をもつのは、周囲の家の多くが建て替わったあとも、街道に向いた正面がほぼ当初の姿を保っているからである。
建築年には土地の事情が重なる。西へ徒歩15分ほどの住吉神社では、同じ嘉永4年に白髭神社が、翌嘉永5年には中本殿が建てられている。高井家が普請にかかったのは、北条の大工が神社の境内で仕事をしていた時期にあたる。町にまだ材木へ金を回す余力があった時代だった。
登録の理由と評価された点
登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。許可制で厳しく縛る指定制度とは違い、届出制と指導・助言を基本とする緩やかな保護措置である。社会的な評価を受ける前に消えていく近代や幕末期の建物が大量にあり、それを幅広く受け止めるために設けられた。高井家住宅主屋は、登録基準のうち「国土の歴史的景観に寄与しているもの」に該当するとして登録されている。
この基準の読み方は、審査の視点をそのまま示している。単独で希少な建築として扱われたのではない。街道の連続した景観を構成する一枚の面として評価され、これが欠けたときに通りがどうなるかが問われた。横尾一帯は兵庫県の歴史的景観形成地区(町家景観通り)に含まれ、平成21年(2009年)には高井家住宅が兵庫県景観形成重要建造物に指定されている。加西市内では最初の例で、二例目が同じ通りの水田家住宅となった。
登録原簿には少し注意して読みたい箇所がある。「構造及び形式等」の欄は木造平屋建と記す一方、解説文は木造つし2階建としている。矛盾ではない。つし2階は屋根裏に設けられた天井の低い階で、構造上の階数には数えないのが通例のためである。原簿は階数を、解説文は使える空間の層を記していると考えればよい。
正面を読む
街道の北側に立って正面を見ると、上下二段に分かれているのがわかる。
上段はつし2階で、虫籠窓が並ぶ。細い縦の格子を厚い漆喰で包み込み、光と風の通る隙間だけを残した窓である。下段には出格子が付く。壁面から手のひらの幅ほど前へ張り出し、午後の光を受けて正面に一本の影の線を落とす。
どちらも塗屋造の一部である。外部に現れる構造材を漆喰で塗り込める工法で、狙いは火である。街道に沿って軒を接して並ぶ木造の店構えは、火が出れば一体となって燃える。骨組みの外側を塗り込めておけば、そのぶん時間が稼げる。切妻の屋根に桟瓦を葺くのも同じ考え方の延長にある。
出入口は建物の長い側にあり、この形式を平入という。中へ入ると平面は東西に分かれ、東側は通り土間として奥まで一直線に抜ける。西側の床上部は2間×2間の規則正しい配置、いわゆる整形四間取りである。通り土間は廊下でもあり、台所でもあり、荷を出し入れする場でもあった。現代の目には脇の勝手口に見える位置に玄関があるのは、そのためである。
建物は現在も個人の住宅として使われており、内部は非公開である。見学は街道からの外観に限られる。公道からの撮影に制限はないが、道幅が狭いので三脚は控えたい。住む人の生活を妨げない距離を保ちたい。
横尾街道を歩く
北条は、ともに8世紀に遡ると伝わる住吉神社と酒見寺の門前町として発展し、山陽と山陰を結ぶ交通の要衝でもあった。北播磨の中心として栄えたこの町では、商家が家の造りに趣向を競った。横尾を通る道は100メートルごとに穏やかに曲がり、漆喰壁、千本格子、卯建といった意匠が今も断続的に残っている。
加西市観光協会は、北条町駅を起点に旧宿場を抜けて酒見寺と住吉神社に至り、五百羅漢を経て横尾街道からこの家の前へ戻る総距離5キロメートル、所要1時間45分の散策コースを案内している。事前に申し込めば観光ガイドの同行も頼める。
日程を選べるなら4月の第1土曜・日曜がよい。住吉神社の春季例大祭「北条節句祭り」が行われ、播磨三大祭のひとつに数えられる。15台の化粧屋台が町を巡行し、県指定文化財の龍王舞が奉納される。桜の見頃とほぼ重なる。
Q&A
- 高井家住宅主屋の内部は見学できますか。公開されていますか。
- 内部は公開されていません。個人の住宅であり、受付も拝観料も公開時間の設定もありません。街道に面した正面の外観は公道からいつでも見ることができ、通常はその形で鑑賞します。
- 高井家住宅主屋へは電車でどう行けばよいですか。最寄り駅からの所要時間は。
- 北条鉄道の終点、北条町駅から北東へ徒歩約10分です。粟生駅から北条町駅までは約23分、運行はおおむね1時間に1本。粟生駅はJR加古川線と神戸電鉄粟生線が乗り入れます。北条町駅に隣接する加西市観光案内所ではレンタサイクルも扱っています。
- 高井家住宅主屋の写真撮影はできますか。
- 公道からの外観撮影に制限はありません。ただし敷地内に立ち入らないこと、住む方を被写体にしないこと、三脚で道をふさがないことを守ってください。道幅は狭く、地元の車が通ります。
- 高井家住宅主屋はいつ建てられ、どのような構造ですか。
- 嘉永4年(1851年)、江戸時代末期の建築です。木造つし2階建、切妻造、桟瓦葺で、外部の構造材を漆喰で塗り込める塗屋造とし、平入の町家形式をとります。建築面積は139平方メートルです。
- 高井家住宅主屋の周辺に他の見どころはありますか。
- 同じ敷地内の土蔵一・土蔵二がそれぞれ別件で登録されています。同じ通りには大正11年(1922年)建築の水田家住宅があり、「横尾歴史街道町かど亭」としてカフェと宿に活用されています。徒歩15分ほど西には、令和4年(2022年)12月に本殿3棟と拝殿が重要文化財となった住吉神社、寛文2年(1662年)の多宝塔をもつ酒見寺があります。
基本データ
| 名称 | 高井家住宅主屋(たかいけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県加西市北条町横尾127 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0238 |
| 指定年 | 登録 平成18年(2006年)3月2日/告示 同年3月23日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 桁行6間半、梁間5間 建築面積139平方メートル |
| 所有者 | 個人(国のデータベースに公表なし) |
| 公開状況 | 内部非公開。外観は公道から見学可 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「高井家住宅主屋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005328
- 文化遺産オンライン「高井家住宅主屋」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/181546
- 加西市「水田家住宅(北条町横尾)が景観形成重要建造物に指定されました」(高井家住宅の平成21年指定を記載)
- https://www.city.kasai.hyogo.jp/soshiki/26/1901.html
- かさい観光ナビ「北条の宿散策コース」
- https://kanko-kasai.com/model_course/北条の宿散策コース/
最終更新日: 2026.08.26