幕末と明治の博物館別館:大洗に佇む昭和初期の洋風建築

茨城県東茨城郡大洗町、太平洋を望む松林に囲まれた高台に、「幕末と明治の博物館別館」は静かに佇んでいます。昭和7年(1932年)に建てられた鉄筋コンクリート造平屋建てのこの建物は、平成17年(2005年)2月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。擬石仕上げの重厚な外壁、コリント風円柱のアクセント、歯飾りの装飾など、西洋古典主義の意匠を取り入れた格調高い外観が特徴です。館内には幕末から明治にかけての志士や皇室ゆかりの貴重な品々が展示されており、近代日本の夜明けを物語る歴史の宝庫として多くの来館者を迎えています。

博物館の歴史と創設者・田中光顕

幕末と明治の博物館の歴史は、創設者である田中光顕(たなかみつあき)伯爵(1843〜1939年)の波乱に満ちた生涯と深く結びついています。天保14年、土佐国佐川(現在の高知県佐川町)に生まれた田中は、武市瑞山(半平太)に師事して土佐勤王党に参加し、幕末の尊王攘夷運動に身を投じました。中岡慎太郎のもとで陸援隊を統率し、坂本龍馬や高杉晋作とも深い交わりがありました。

明治維新後は新政府に出仕し、元老院議官・警視総監・学習院長などの要職を歴任。明治31年(1898年)から11年間にわたって宮内大臣を務めました。政界引退後は、幕末維新の志士たちの顕彰に余生を捧げ、長年にわたって蒐集してきた遺墨や遺品を茨城県大洗町の常陽明治記念館(現・幕末と明治の博物館)、東京都多摩市の多摩聖蹟記念館、高知県佐川町の青山文庫に寄贈しました。

田中が大洗の地を選んだのは、江戸時代に大洗を領した水戸藩が水戸学を通じて尊王攘夷運動に大きな影響を与え、明治維新の原動力の一つとなったことに敬意を表したためです。昭和4年(1929年)4月14日、「常陽明治記念館」として開館し、その3年後の昭和7年に展示空間を拡充するため別館が建設されました。

なぜ登録有形文化財に登録されたのか

幕末と明治の博物館別館は、平成17年(2005年)2月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録有形文化財制度は平成8年(1996年)に創設されたもので、国土の歴史的景観に寄与しているもの、造形の規範となっているもの、再現することが容易でないものを対象としています。

別館が登録に至った評価のポイントは、まず昭和初期の鉄筋コンクリート造建築として、西洋古典主義の意匠を巧みに取り入れた重厚な外観にあります。建築面積591平方メートルの平屋建てで、展示室の外壁は無窓とし、石造風に目地を切った擬石仕上げを施しています。角形の付柱(ピラスター)が外壁を区画し、軒下には古代ギリシャ・ローマ建築に由来する歯飾り(デンティル)を配しています。特に第1展示室の南面にはコリント風の円柱を並べて窓を設け、格調高いアクセントを生み出しています。

隣接する聖像殿と渡廊下で接続されたこの建物は、博物館複合施設として一体的な歴史的景観を形成しており、戦前日本における記念施設建築の好例として高く評価されています。

建築の見どころ

別館の外観で最も目を引くのは、その重厚感あふれる擬石仕上げの壁面です。鉄筋コンクリート造でありながら、石造建築のような格調を備えたこの仕上げは、昭和初期の公共建築に見られる特徴的な手法です。湿った漆喰に目地を刻んで切石積みを模す技法は、近代的な建材で伝統的な威厳を表現しようとした当時の建築家たちの工夫を伝えています。

別館は渡廊下(わたりろうか)を介して聖像殿と接続されています。聖像殿には、昭和4年の開館時に制作された明治天皇の等身大銅像が安置されており、背後には日本画家・木村武山筆の「神武天皇御肖像」が掲げられています。渡廊下を通って別館に入ると、外壁のほとんどが窓のない重厚な造りとなっており、内部の貴重な美術品や文書を日光から守る実用的な配慮がなされています。唯一の例外である第1展示室南面の窓は、コリント風円柱で装飾され、堅固な壁面とのコントラストが印象的な意匠を生んでいます。

展示室の見どころ

別館内部には第1展示室から第4展示室まで4つの展示空間があります。第1展示室は皇室関連の展示に充てられ、明治・大正・昭和天皇や皇族から下賜された品々が展示されています。田中光顕が宮内大臣として長年にわたり皇室に仕えた縁から集まった、格式高い品々を間近に見ることができます。

第2展示室には、幕末から明治期にかけて活躍した志士・先人たちの書画が展示されています。勝海舟、山岡鉄舟、西郷隆盛、藤田東湖など、日本の近代化に貢献した人物たちの筆跡からは、それぞれの人柄や信念が伝わってきます。

第3展示室は企画展示室として、絵画や美術工芸品の特別展が開催されます。第4展示室では水戸藩や幕末期に関連する歴史資料のテーマ展示が行われ、博物館の豊富なコレクションの多様な側面を紹介しています。

博物館施設全体について

別館のほかにも、博物館には見どころが充実しています。平成9年(1997年)に増築された新館には、エントランスホール、映像ホール、総合展示室があります。エントランスホールには、幕末に水戸藩が建造した初期の国産洋式軍艦「旭日丸」の推定模型がシンボリックに展示されています。総合展示室では、幕末から明治への歴史の流れが分かりやすく解説されており、桜田門外の変を描いた「桜田門外襲撃図」などの貴重な作品も鑑賞できます。

なお、平成9年の新館増築に伴い館名は「常陽明治記念館」から「幕末と明治の博物館」に改称され、平成22年(2010年)6月には財団法人常陽明治記念会から大洗町に運営が移管されて「大洗町幕末と明治の博物館」となりました。

周辺情報

博物館は太平洋に近い松林に囲まれた高台に位置しており、周辺には魅力的な観光スポットが点在しています。大洗磯前神社は、海中の岩の上に立つ鳥居で有名な、この地域を代表する神社です。日の出の時刻に訪れると、鳥居越しに昇る朝日の絶景を楽しむことができます。

アクアワールド茨城県大洗水族館は日本有数の規模を誇る水族館で、博物館と合わせて訪れるのに最適です。また、大洗町はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台としても知られ、町内各所でキャラクターパネルなどを見ることができます。博物館でも関連グッズを提示すると団体割引が適用されるキャンペーンを実施しています。

水戸方面に足を延ばせば、日本三名園の一つである偕楽園があります。特に2月下旬から3月にかけての梅まつりの時期は、博物館と偕楽園をセットで訪れるのがおすすめです。博物館でも「好文亭四季模様之図」などの関連作品が期間限定で特別公開されることがあります。

Q&A

Q幕末と明治の博物館別館はどのような文化財ですか?
A昭和7年(1932年)に建てられた鉄筋コンクリート造平屋建ての建物で、平成17年(2005年)2月9日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。擬石仕上げの重厚な外壁やコリント風円柱など、西洋古典主義の意匠を取り入れた昭和初期の記念施設建築として評価されています。
Q東京からのアクセス方法を教えてください。
AJR上野駅から特急で水戸駅まで約1時間10分、水戸駅から鹿島臨海鉄道で大洗駅まで約16分です。大洗駅からはタクシーで約5分、または町内循環バス「海遊号」で約6分「幕末と明治の博物館入り口」下車です。車の場合は、常磐自動車道・友部JCT経由、北関東自動車道・東水戸道路「水戸大洗IC」から約10分です。
Q開館時間と入館料を教えてください。
A開館時間は9:00〜17:00(入館は16:30まで)です。休館日は毎週水曜日(祝日の場合は翌日)と年末(12月27日〜31日)です。入館料は一般700円、大学生600円、中高生300円、小学生150円です。20名以上の団体割引もあります。4月29日〜5月5日、海の日〜8月31日は無休です。
Qどのような展示品がありますか?
A別館の第1展示室には明治・大正・昭和天皇や皇族ゆかりの品々、第2展示室には勝海舟・山岡鉄舟・西郷隆盛・藤田東湖らの書画が展示されています。第3・4展示室では企画展やテーマ展示が行われています。新館では桜田門外襲撃図や旭日丸の模型なども見ることができます。
Q海外からの訪問者でも楽しめますか?
A展示解説は主に日本語ですが、公式ウェブサイトには翻訳機能があります。書画や美術品、建築そのものの美しさは言葉を超えて楽しむことができます。館内のロビー・エントランスホール周辺ではフリーWi-Fiも利用可能です。

基本情報

名称 幕末と明治の博物館別館(ばくまつとめいじのはくぶつかんべっかん)
文化財区分 国登録有形文化財(建造物)/登録日:平成17年(2005年)2月9日
建築年 昭和7年(1932年)
構造 鉄筋コンクリート造平屋建、建築面積591㎡
所有 財団法人常陽明治記念会(現在は大洗町が運営)
所在地 〒311-1301 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町字見付久保8231-4
開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日 毎週水曜日(祝日の場合は翌日)、12月27日〜12月31日
入館料 一般700円/大学生600円/中高生300円/小学生150円(20名以上の団体割引あり)
アクセス 鹿島臨海鉄道大洗駅よりタクシー約5分/北関東自動車道・水戸大洗ICより車で約10分
電話番号 029-267-2276
公式サイト https://www.bakumatsu-meiji.com/

参考文献

幕末と明治の博物館別館 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/117394
幕末と明治の博物館別館 – 茨城県教育委員会
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6165/
幕末と明治の博物館 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/幕末と明治の博物館
大洗町幕末と明治の博物館 公式サイト
https://www.bakumatsu-meiji.com/
大洗町幕末と明治の博物館 - 観光いばらき公式ホームページ
https://www.ibarakiguide.jp/spot.php?mode=detail&code=925
大洗町 幕末と明治の博物館 - 大洗観光協会
https://www.oarai-info.jp/spot/postid_3129/
大洗町幕末と明治の博物館 - 文化遺産オンライン(美術館・博物館情報)
https://bunka.nii.ac.jp/museums/detail/12029
ガルパンファンは入館料が割引に!「大洗町幕末と明治の博物館」の見どころ - エアトリ
https://www.airtrip.jp/travel-column/20436

最終更新日: 2026.03.22