神社の裏にある煉瓦の樋門

江連用水旧溝宮裏両樋(えづれようすいきゅうこうみやうらりょうひ)は、茨城県下妻市本宗道にある明治33年(1900年)竣工の煉瓦造分水施設で、平成27年(2015年)3月26日に国の登録有形文化財となった。

位置は宗任神社(むねとうじんじゃ)の裏手にあたり、地元では古くから「宮裏堰」と呼ばれてきた。長さ3.6メートルの二連の煉瓦造樋門が東西に一基ずつ並び、湾曲する煉瓦擁壁がこれを一体につないでいる。上流から流れてきた水を、ここで東西に等分して下流へ送る仕組みだった。

周囲の雰囲気からは想像しにくい構造物である。田園の神社と小さな公園を抜けた先、足元の高さに煉瓦の面が現れる。低く、精確で、竣工から126年たった今も稜線が崩れていない。

水をめぐる二百年

江連用水は栃木県真岡市上江連を水源とし、鬼怒川から取水して、鬼怒川と小貝川に挟まれた地域に水を導く。起源は江戸時代で、享保の改革の一環である新田開発のために引かれた。ところが鬼怒川の水位が下がって取水できなくなり、いったん廃された。

その後、廃された水路と以前からあった四本の用水路をつなぐ工事が行われ、文政12年(1829年)に現在の江連用水が完成する。これにより1,654町歩、およそ1,640ヘクタールの水田が潤ったと記録されている。旧千代川村の村名は、この用水工事の陣頭指揮をとった役人が詠んだ歌に由来するとされる。

宮裏両樋はその後の章にあたる。明治33年(1900年)の築造で、江戸時代以来の用水網が煉瓦とモルタルによって近代化された段階を示す。文化庁の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号は08-0271で、下妻市では初めての国登録有形文化財となった。

農業用の土木構造物が登録文化財となる例は、全国的にみても多くない。明治期の北関東には煉瓦造の樋門が数多く築かれ、江連用水にも複数の煉瓦水門が存在した。現存するのはこの一基のみである。

近づいて見るべき箇所

まず二連の開口のあいだにある堰柱を見たい。上流側は船の舳先のような水切りに削り出され、水流が平面にぶつからず左右へ分かれるようになっている。下流側は同じ柱が階段状に落ちる。この上下流で異なる処理が、登録の解説でも特徴として挙げられている点で、岸から普通に立って確認できる。

次に積み方。長手だけの段と小口だけの段が一段おきに重なる、いわゆるイギリス積みである。水圧を受ける構造物に対して、十九世紀後半の技術者が好んで採った方式にあたる。

煉瓦の産地も近い。現在の下妻市南東部、鯨(くじら)にあった國府田煉瓦工場が明治31年(1898年)3月に操業を始め、ここの製品が使われた。刻印は三つの点を三角形に配した「∴」。渇水期に水位が下がると、水路の底に敷かれた煉瓦が姿を現し、刻印を見分けられることがある。

昭和50年代に江連用水の流路が変更され、この樋門は役目を終えた。旧水路は「江連用水旧溝」と呼ばれるようになり、その名称が物件の正式名にそのまま入っている。分水施設としての機能は失ったが、歴史的な価値から保存が決まり、周囲は公園として整備された。平成13年(2001年)に改修が加えられている。

屋外にあり、見学は常時自由で無料。門も券売所も開館時間もなく、撮影の制限もない。下妻市役所から車で15分ほど。鉄道は関東鉄道常総線が最寄りとなるが、本宗道までは車かタクシーが現実的である。市民ボランティア「下妻いいとこ案内人の会」が、この樋門を含む歴史探索コースの案内を行っており、市の商工観光課を通じて依頼できる。

Q&A

Q江連用水旧溝宮裏両樋は自由に見学できますか?
Aできます。宗任神社の裏手の公園内にあり、門や券売所はなく、入場料も開館時間の制限もありません。撮影も自由です。
Q江連用水旧溝宮裏両樋はどこにありますか。アクセス方法は?
A茨城県下妻市本宗道の宗任神社裏手です。下妻市役所から車で約15分。最寄りの鉄道は関東鉄道常総線ですが、駅からは距離があるため車かタクシーの利用が現実的です。
Q江連用水旧溝宮裏両樋のどこが珍しいのですか?
A二点あります。国の登録有形文化財のなかで農業用の土木構造物は数が少ないこと、そして、かつて複数存在した江連用水の煉瓦水門のうち現存するのがこの一基だけであることです。堰柱を上流側は水切り、下流側は階段状とする形式も特徴に挙げられます。
Q江連用水旧溝宮裏両樋に使われている煉瓦はどこ製ですか?
A現在の下妻市鯨にあった國府田煉瓦工場の製品です。明治31年(1898年)3月の操業開始で、煉瓦には「∴」の刻印があります。渇水期には水路の底の煉瓦が露出し、刻印を確認できることがあります。
Q江連用水旧溝宮裏両樋は今も使われているのですか?
A使われていません。昭和50年代に江連用水の流路が変更されて分水施設としての役目を終えました。歴史的な価値から保存され、周囲は公園として整備されています。平成13年(2001年)には改修が行われました。

基本情報

名称江連用水旧溝宮裏両樋
所在地茨城県下妻市本宗道
指定区分登録有形文化財(登録番号08-0271)/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」
指定年平成27年(2015年)3月26日
員数1基
寸法東樋門 煉瓦造2連樋門・長さ3.6m/西樋門 煉瓦造2連樋門・長さ3.6m、擁壁付。明治33年(1900年)築、平成13年(2001年)改修
所有者下妻市
公開状況屋外の公園内。常時見学自由、無料

参考文献

国指定文化財等データベース 江連用水旧溝宮裏両樋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010420
文化遺産オンライン 江連用水旧溝宮裏両樋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/235661
下妻市 国登録有形文化財 江連用水旧溝宮裏両樋
https://www.city.shimotsuma.lg.jp/page/page001288.html
下妻市観光物語 国登録有形文化財 江連用水旧溝宮裏両樋
https://www.city.shimotsuma.lg.jp/shimotsumakankomonogatari/kanko-event/page001288.html
常陽リビング「茨城歴史散歩」 江連用水旧溝宮裏両樋(下妻市)
https://www.joyoliving.co.jp/sp/htg/data00086.htm

最終更新日: 2026.08.06