筑波山南麓に建てられた実験住宅

旧矢中家住宅は、茨城県つくば市北条にある昭和期の近代和風住宅で、昭和17年(1942年)建築の本館と昭和24年(1949年)完成の別館の2棟が令和5年(2023年)に重要文化財に指定された。

建てたのは、北条に生まれた建材研究者で実業家の矢中龍次郎である。セメント防水剤「マノール」の開発者として知られ、油脂化工社を興した。昭和30年(1955年)に紫綬褒章を受けている。

邸宅の普請は昭和13年(1938年)に始まり、昭和28年(1953年)まで15年を要した。約770坪、およそ2,500平方メートルの敷地に、居住棟である本館と迎賓棟の別館が高低差を利用して配され、そのあいだを庭が埋める。矢中は昭和40年(1965年)にこの家で没した。

その後、家族が離れて約40年にわたり空き家に近い状態が続いた。平成20年(2008年)に所有が矢中家から現在の所有者へ移り、清掃から始まる保存活用の取り組みが動き出す。現在はNPO法人「“矢中の杜”の守り人」が管理運営を担っている。

重要文化財となった理由

指定の理由は2つある。ひとつは学術的価値、もうひとつは意匠である。

学術的価値のほうは、この家が矢中自身の研究を試す場だったことに由来する。本館は木造でありながら屋根の一部を陸屋根とし、そこに矢中が発明した防水剤を使った。大壁には、彼が自ら採掘して精錬した顔料を用いている。木造住宅で平らな屋根を成立させられるかどうかを、自分の家で確かめたことになる。

通風への配慮も両棟に共通する。壁の各所に換気口が開けられ、建具にも工夫が凝らされた。高温多湿という日本の気候のもとで木造の建物を長持ちさせるという課題に、建材の側から答えを出そうとした住宅だと評価されている。

意匠については、南部春邦の手による杉戸絵、襖絵、水墨画が各所に配され、サクラ、ケヤキ、スギといった銘木が吟味して使われている点が挙げられる。本館は建築面積197.53平方メートル、木造で地下室が付き、南と西に石階、北に渡廊下が付属する。別館は建築面積90.31平方メートルの2階建で、1階が鉄筋コンクリート造、2階が木造という構成をとる。

指定は建物だけにとどまらない。高低差のある地形を生かした敷地、それを画する石塀や擁壁もあわせて保存の対象となり、附として石蔵1棟が指定に含まれている。

旧矢中家住宅で目を向けたいところ

別館は「皇族のような賓客を迎えられるように」という意図で建てられた棟である。板戸絵が並ぶ廊下、天井の高い室、特注の調度が残る。1階の鉄筋コンクリート造と2階の木造という組み合わせは、外から見ただけでは分かりにくい。

本館では建具を部屋ごとに見比べたい。同じ家のなかで意匠が揃えられておらず、部屋によって異なる。壁や欄間の周囲に開けられた換気口も、意識して探すと数が多いことに気づく。地下室は大谷石で築かれている。

外壁の色にも触れておきたい。山吹色の壁は、矢中が扱った顔料の性格をそのまま示すものである。

旧矢中家住宅には建設当時の調度や設備が数多く残っている。空き家だった40年のあいだに失われずに済んだことが、この家を昭和の生活空間として読み解ける資料にしている。

旧矢中家住宅の見学方法

旧矢中家住宅は「矢中の杜」の名で邸宅公開が行われている。公開日は原則として毎週土曜、時間は午前11時から午後4時まで。ガイドツアーが午前11時と午後2時の2回あり、定員制である。ツアーが休止となる日や、月によって公開そのものが休みになる週もあるため、訪問前にNPO法人の公式サイトで最新の予定を確認してほしい。

邸宅維持修繕協力金として1人500円が求められる。中学生以下は無料。建物保護のため、見学には靴下の着用が必要である。

公共交通で向かう場合は、つくばエクスプレスのつくば駅に隣接するつくばセンターから筑波山方面のバスに乗り、北条で降りる。そこからは歩ける距離である。車で訪れるときは北条商店街共用駐車場(無料)に停め、県道138号を東へ約400メートル進むと入口に着く。個人宅や店舗の敷地に停めないよう案内が出ている。

撮影の可否について公式な定めは公表されていない。ガイドツアーの際に案内役へ確認するのが確実である。公開日・時間・協力金は令和8年(2026年)9月にNPO法人「“矢中の杜”の守り人」の公表内容で確認した。

Q&A

Q旧矢中家住宅は見学できますか。公開日と料金は?
A「矢中の杜」として原則毎週土曜の午前11時から午後4時まで公開されています。邸宅維持修繕協力金は1人500円、中学生以下は無料です。月によって休みの週があるため、公式サイトで最新の予定を確認してください。
Q旧矢中家住宅のガイドツアーは何時からですか?
A午前11時と午後2時の2回です。定員制で、都合により休止となる場合があります。建物保護のため、見学には靴下の着用をお願いしています。
Q旧矢中家住宅はいつ重要文化財に指定されましたか?
A令和5年(2023年)9月25日です。対象は昭和17年(1942年)建築の本館と昭和24年(1949年)完成の別館の2棟で、附として石蔵1棟が含まれます。敷地や石塀、擁壁もあわせて保存されます。
Q旧矢中家住宅を建てた矢中龍次郎とはどんな人物ですか?
A北条出身の建材研究者で実業家です。セメント防水剤「マノール」を開発し、油脂化工社を創業しました。昭和30年(1955年)に紫綬褒章を受けています。自邸は彼の研究成果を試す場でもありました。
Q旧矢中家住宅へのアクセスと駐車場は?
Aつくばセンターから筑波山方面のバスで北条下車、徒歩圏内です。車では北条商店街共用駐車場(無料)を利用し、県道138号を東へ約400メートル進みます。個人宅や店舗の敷地への駐車は控えてください。

基本データ

名称旧矢中家住宅
所在地茨城県つくば市北条字古城94番地1号
指定区分重要文化財
指定年令和5年(2023年)
員数2棟(本館・別館)、附 石蔵1棟
寸法本館 建築面積197.53平方メートル、別館 建築面積90.31平方メートル
所有者個人
公開状況NPO法人「“矢中の杜”の守り人」が邸宅公開。原則毎週土曜の午前11時から午後4時まで。ガイドツアーは午前11時と午後2時の2回。邸宅維持修繕協力金500円、中学生以下無料

参考文献

国指定文化財等データベース 旧矢中家住宅 本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005486
国指定文化財等データベース 旧矢中家住宅 別館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005487
国指定重要文化財 矢中の杜 旧矢中邸のこと
https://www.yanakanomori.org/?page_id=156
国指定重要文化財 矢中の杜 邸宅公開のご案内
https://www.yanakanomori.org/?p=9973
つくば市 コミュニティバス「つくバス」利用案内
https://www.city.tsukuba.lg.jp/soshikikarasagasu/toshikeikakubusogokotsuseisakuka/gyomuannai/2/1/1001471.html

最終更新日: 2026.09.06

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