昭和13年、一族の寄付で建った小学校講堂
真岡市久保講堂(旧真岡小学校久保講堂)は、栃木県真岡市田町にある木造2階建の講堂建築で、昭和13年(1938年)の竣工、平成9年(1997年)5月7日に国の登録有形文化財(建造物)となった。
成立の経緯は私的な申し出に始まる。昭和12年(1937年)、真岡町在住の美術評論家久保貞次郎(1909〜1996)が、祖父久保六平の傘寿を記念して真岡尋常高等小学校に講堂を寄付したいと申し入れた。事業費は全額久保家の負担である。町議会は謝意を表すため六平の胸像建設を計画したが、本人が強く辞退したため、建物の名称に家名を冠することで折り合った。
設計を託されたのは遠藤新(1889〜1951)。帝国ホテル設計に際してフランク・ロイド・ライトの下で実務を担い、以後ライトの造形理念を日本で最も忠実に展開した建築家である。遠藤の手がけた講堂で現存するものは三棟にとどまり、他の二棟はいずれも自由学園に属する。規模では久保講堂が最大となる。
登録番号09-0001という位置
登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に発足した。既存の指定制度が全国的な価値の頂点を厳格な現状変更規制のもとに置くのに対し、登録制度は築後およそ50年を経た建造物を広く受け止め、届出制の緩やかな枠組みで近代建築の消失に歯止めをかけることを狙う。久保講堂の登録番号は09-0001。県コード09は栃木県を指し、末尾の0001は同県の建造物として最初の登録であることを示す。制度発足からまだ一年に満たない時点の登録である。
登録基準は「造形の規範となっているもの」。三つの基準のうち、後続の設計が参照しうる完成度をもつ建物に与えられる区分である。登録年月日は平成9年5月7日、告示は同月29日。
寸法は真岡市の公表値で間口45.45メートル、奥行19.089メートル。面積は1階651.21平方メートル、2階52.88平方メートル、塔屋11.65平方メートル、延べ715.74平方メートルとなる。文化庁の登録原簿は建築面積を651平方メートルと記す。吹き抜け部分の三角屋根にはキングポストトラスが架かり、遠藤の三つの講堂はいずれも異なる小屋組を採用しているため、この洋風トラスは久保講堂固有の解答にあたる。大屋根は瓦葺、左右の塔屋と正面ポーチのみ陸屋根とし、段差のある水平線を生んでいる。
正面に立って読み取れるもの
正面の構成は帯の重なりとして把握できる。主床より一段低いバルコニーが間口いっぱいに延び、水平線を引き伸ばす。その両端に展望用の塔屋が立ち上がる。外壁は淡黄色のモルタルを平坦に塗り込め、玄関部のみ板壁に切り替わる。装飾らしいものは加えられていない。見どころは、水平線が止まり垂直線が始まる位置の按配にある。
内部は広い板敷が一面に広がり、両側面と背面の2階部分にギャラリーがめぐる。床から見上げる視点と、上から見下ろす視点の双方が用意されている構成である。現在このギャラリー階は展示空間として機能し、文化祭・芸術祭の展示、児童生徒の書道展、市民の各種展示会が年間を通じて開かれている。
保存された建物としてではなく、使われている建物として立っている。
失われる寸前まで行った経緯もある。昭和50年代、真岡小学校に体育館が完成し老朽化した講堂の取り壊し方針が打ち出された。昭和54年(1979年)、同校卒業生を中心に「久保講堂をのこす会」が組織され署名活動が展開される。昭和56年(1981年)には遠藤新の子息である建築家遠藤楽らによる実地調査が行われ、移築費用を投じてでも残すべきとの提言が出された。移築は昭和61年(1986年)1月から8月にかけて、真岡市青少年女性会館の隣地へ向けて実施された。なお文化庁データベースの解説文は移築を昭和62年と記しており、真岡市の記載と一年の差がある。
内部見学は無料で、真岡市教育委員会文化課文化財係(電話0285-83-7735)への事前申込による。施設利用は有料。ロケーション撮影など商用の撮影には事前の許可を要する。最寄りは真岡鐵道真岡駅、徒歩約15分。北関東自動車道宇都宮上三川インターチェンジから車で約20分、駐車場は約300台分が確保されている。
Q&A
- 真岡市久保講堂は内部を見学できますか。料金はかかりますか。
- ギャラリーとして公開されており、内部見学は無料です。ただし事前申込が必要で、真岡市教育委員会文化課文化財係(0285-83-7735)が窓口となります。ホールとして施設を利用する場合は使用料が発生します。年間を通じて市民の展示会などが入るため、日程の確認を兼ねて事前に連絡するのが確実です。
- 真岡市久保講堂へのアクセス方法と駐車場を教えてください。
- 真岡鐵道真岡駅から徒歩約15分です。車の場合は北関東自動車道宇都宮上三川インターチェンジから約20分、駐車場は約300台分あります。所在地は真岡市田町1345-1です。
- 真岡市久保講堂の設計者は誰で、なぜ建築的に評価されているのですか。
- 設計は遠藤新(1889〜1951)です。帝国ホテルの設計でフランク・ロイド・ライトの実務を担った建築家で、ライトの造形理念を継いだ代表的存在とされます。装飾を排し水平線と垂直線の対比のみで構成をまとめる手法が評価され、登録基準は「造形の規範となっているもの」が適用されました。
- 真岡市久保講堂は栃木県で最初の登録有形文化財なのですか。
- 建造物としては最初の登録です。登録番号09-0001の末尾は県内通番を示し、平成9年5月7日の登録は制度発足から一年に満たない時期にあたります。
- 真岡市久保講堂は建設当初の場所に建っているのですか。
- 当初は真岡小学校の構内に建てられ、のちに現在地の田町へ移築されました。真岡市の記載では昭和61年(1986年)1月から8月にかけての移築、文化庁データベースの解説文は昭和62年としており、年次に一年の差があります。
基本情報
| 名称 | 真岡市久保講堂(旧真岡小学校久保講堂)/もおかしくぼこうどう |
|---|---|
| 所在地 | 栃木県真岡市田町1345-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号09-0001 登録基準「造形の規範となっているもの」 |
| 指定年 | 平成9年(1997年)5月7日登録/告示同年5月29日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建左右塔屋付、瓦葺、建築面積651平方メートル(真岡市公表値:間口45.45メートル、奥行19.089メートル、延べ715.74平方メートル) |
| 所有者 | 真岡市 |
| 公開状況 | ギャラリーとして公開。内部見学は無料、事前申込制(真岡市教育委員会文化課文化財係 0285-83-7735)。施設利用は有料 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「真岡市久保講堂(旧真岡小学校久保講堂)」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000122
- 文化遺産オンライン「真岡市久保講堂(旧真岡小学校久保講堂)」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/165432
- 真岡市「真岡市久保講堂概要」
- https://www.city.moka.lg.jp/kakuka/bunka/gyomu/rekishi_bunka/rekishi_bunkazai/3/918.html
- 真岡市「久保講堂」
- https://www.city.moka.lg.jp/kakuka/bunka/gyomu/rekishi_bunka/rekishi_bunkazai/3/index.html
- とちぎの文化財(栃木県教育委員会)「真岡市久保講堂(旧真岡小学校久保講堂)」
- https://bunkazai.pref.tochigi.lg.jp/cultural/【真岡市久保講堂(旧真岡小学校久保講堂)】/
最終更新日: 2026.08.24