動橋の街道に東面する造り酒屋の屋敷
橋本酒造は、石川県加賀市動橋町にある造り酒屋の屋敷で、文化5年(1808年)の槽場から昭和29年(1954年)の釜場及び白米庫まで、時代の異なる12棟が平成17年(2005年)12月26日にそろって国の登録有形文化財となった。登録番号は17-0133から17-0144まで連続している。
蔵元の橋本酒造は宝暦10年(1760年)の創業と案内しており、銘柄「大日盛(だいにちざかり)」の名で知られてきた。屋敷は動橋の町を通る街道に東面して主屋を構え、その背後の西側へ、酒造りの工程ごとの蔵が奥へ奥へと連なる。加賀市教育委員会は、この12棟を江戸後期の住宅と酒蔵からなる大型町家の典型として紹介している。
屋敷の中身は、住まいと仕事場が一つの敷地に収まった造り酒屋そのものである。表に家族の暮らしと商いの場、奥に米を蒸し、醪(もろみ)を搾り、酒を寝かせる蔵。1軒の家業が200年近くのあいだに必要に応じて建て足し、建て替えてきた結果が、そのまま12棟の並びになっている。
12棟の配置と歩く順序
街道から見えるのは表の3棟である。道に面して建つのが文化11年(1814年)の主屋で、つし二階の町家の棟上に越屋根を載せる。主屋の北側には庭があり、その入口が敷地の東辺北寄りに開く表門、門の両脇から敷地の東辺と北辺を囲うのが延長23メートルの塀である。
主屋の北西に接続するのが昭和25年(1950年)再建の離座敷で、その西に江戸末期の道具蔵が建ち、廊下で主屋とつながる。道具蔵の南には昭和23年(1948年)の石蔵がある。ここまでが家族の暮らしに属する建物である。
酒造りの蔵は、主屋の通り土間の西側から始まる。通り土間に接して東西に長く延びるのが、12棟のうち最も古い文化5年の槽場。その北面西寄りに江戸末期の貯蔵庫が南北棟で接続し、貯蔵庫の北西、敷地の北辺沿いに冷蔵室が建つ。槽場の西方には大正14年(1925年)の清酒蔵、その南に昭和29年の釜場及び白米庫、さらに西の敷地南辺沿いに大正10年(1921年)の旧精米所が続く。
表から奥へ進むほど建物が新しくなるわけではない。最古の槽場は主屋のすぐ裏にあり、最も新しい釜場及び白米庫は敷地の南西寄りにある。蔵を建て替えるたびに、空いた場所ではなく工程上必要な場所へ建ててきたことが、配置から読み取れる。
石で守られた蔵、地震のあとの再建
12棟に共通する素材が凝灰岩である。槽場・貯蔵庫・清酒蔵は外周の壁の内側または外側に凝灰岩を張り、石蔵・冷蔵室は木の骨組みに石を積む木骨石造、釜場及び白米庫は鉄骨の柱に石を積む鉄骨石造とする。主屋・離座敷・石蔵・貯蔵庫・塀の棟には、越前(現在の福井県)の笏谷石を置く。石蔵の外壁は隣の小松市で採れる滝ヶ原石である。
もう一つの共通項が、昭和23年の福井地震である。離座敷・表門・塀の3棟はこの地震のあと、昭和25年に再建された。表門は元の位置にほぼ同じ形で建て直されている。石蔵も地震と同じ年の建築で、昭和29年の釜場及び白米庫は、木造から鉄筋コンクリート造へ移っていく過渡期の構造を示す。大正期の冷蔵室は昭和31年(1956年)に現在地へ移築された。
登録の基準も3つに分かれる。主屋・離座敷・釜場及び白米庫の3棟は「造形の規範となっているもの」、道具蔵・石蔵・槽場・貯蔵庫・清酒蔵・冷蔵室・旧精米所の7棟は「再現することが容易でないもの」、表門と塀の2棟は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。江戸後期の町家と蔵、大正の蔵、戦後の再建と鉄骨の試みが、一つの敷地に重なっている点にこの屋敷の価値がある。
酒蔵から美術館へ、見学とアクセス
2025年12月の北陸中日新聞の報道によれば、酒蔵として使われてきた主屋や蔵は、小松市出身の美術品収集家が館長を務める私設の「加賀蔵美術館」として改装が進められ、2026年春の開館が予定されていた。主屋は美術館の受付になる計画とされる。開館の有無、公開される建物の範囲、開館日と料金は、2026年9月の時点で公式な案内を確認できなかった。訪れる前に最新の情報を確かめてほしい。
敷地の外からは、街道に面した主屋の正面、表門、塀を見ることができる。蔵の多くは敷地の内側に建つため、道路からは屋根の一部が見える程度である。所有者の案内なく敷地へ立ち入ることはできない。
鉄道では、IRいしかわ鉄道の動橋駅が最寄りで、駅から約350メートル、徒歩5分ほどである。北陸新幹線の加賀温泉駅からはIRいしかわ鉄道の普通列車で金沢方面へ1駅、約3分。加賀温泉駅から車なら約4キロメートル、北陸自動車道の片山津ICからは約8キロメートルである。
なお、橋本酒造株式会社は同じ動橋町内のイ164を所在地として「大日盛酒蔵資料館」を案内しており、登録された12棟の所在地(イ184)とは地番が異なる。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/橋本酒造主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005122
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/橋本酒造槽場
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005126
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/橋本酒造釜場及び白米庫
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005130
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/橋本酒造表門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005132
- 文化遺産オンライン/橋本酒造主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/170432
- 加賀市/国登録文化財
- https://www.city.kaga.ishikawa.jp/ed/bunka_shinko/6066.html
- 日本遺産ポータルサイト(文化庁)/加賀市加賀橋立伝統的建造物群保存地区(笏谷石)
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/2679/
- 橋本酒造株式会社 公式サイト
- https://judaime.com/
- 北陸中日新聞/国文化財元酒蔵に美術館 加賀・動橋で来春(2025年12月3日)
- https://www.chunichi.co.jp/article/1173156
- ほっと石川旅ねっと/大日盛酒蔵資料館(橋本酒造)
- https://www.hot-ishikawa.jp/spot/detail_5786.html
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | 橋本酒造 |
|---|---|
| 所在地 | 石川県加賀市動橋町イ184 |
| 所有者 | 加賀萬隆株式会社 |
| 指定 | 登録有形文化財 12件 |
| 座標 | 36.32778, 136.38619 |