金沢で最初につくられた浄水場
末浄水場は、石川県金沢市末町にある金沢市企業局の浄水場で、昭和5年(1930年)に給水を始めた金沢で最初の近代浄水施設であり、開設当初の緩速ろ過系の沈澱池・ろ過池・上屋など12件が国の登録有形文化財となっている。場所は市の中心街から南東へ約8キロメートル、犀川の中流域にあたる。
水源は寺津用水である。寛文5年(1665年)に新田開発のための灌漑用水として開かれた水路で、その中流に設けた取水井から浄水場まで、約1.8キロメートルの導水管が地中に埋められた。江戸時代の農業用水が、昭和の上水道の入口になったわけである。
計画の中心にいたのは二人の技術者だった。京都帝国大学教授の大井清一が全体を指導し、大正12年(1923年)に元名古屋市水道技師の石井一夫が調査主任として招かれた。石井は昭和3年(1928年)から金沢市水道事務所長兼技師長として実施設計を担う。昭和2年(1927年)6月に国へ出された原設計書は、この過程で大きく書き換えられ、園地を設ける方針が加わった。文化庁の解説は、そこに石井の関与を想定している。
昭和40年(1965年)に犀川ダムが完成すると、場内に急速ろ過方式の系統が加わった。現在は二つの方式を合わせて1日105,000立方メートルを浄水している。登録された12件はすべて古いほうの緩速ろ過系に属し、開設当初の施設がいまも水をつくり続けている。
水の通り道がそのまま配置図になった
末浄水場の設計でもっとも目を引くのは、施設の並べ方である。正門へ向かう道路の真下に導水管が通り、管は正門の内側で二手に分かれる。一方は着水井で水の量と質を整えてから東南の3基の沈澱池へ入り、もう一方は正門の北にある泉水の噴水へつながる。
金沢市の解説は、正門から泉水を経て北へ延びる線を「導水軸」、それと直交して西へまっすぐ延びる通路を「送水軸」と呼ぶ。送水軸の突き当たり、敷地の西端に立つのが緩速浄水集合井である。通路の両側には緩速ろ過池が3基ずつ左右対称に並び、それぞれの浄水井と上屋も対になって配されている。二つの軸が交わる点に置かれたのが前庭の東屋である。沈澱池から東屋の直下を通り、ろ過池、集合井へと、水は高低差だけで流れ下りながら浄化されていく。
前庭そのものは、浄水場の開設から2年後の昭和7年(1932年)に完成した。泉水は大小3つの楕円形のコンクリート水槽を重ねた形で、水面の高さを段ごとに変え、流れ下る水で水質を見る仕掛けを兼ねていた。竣工時の写真では、噴き上げた水が弧を描いて東屋の漏斗状の頂部へ落ちている。現在の噴水は水圧を絞って池の中に収めてある。泉水と東屋のあいだには石垣と刈込みが左右対称に配され、直線・円・楕円の組み合わせで整形式の庭がつくられている。
この園地は、近代的な造園意匠を取り入れた芸術上・観賞上の価値が評価され、平成22年(2010年)2月22日に「末浄水場園地」として国の名勝に指定された。指定面積は80,103.18平方メートルで、浄水場の敷地のほぼ全体に及ぶ。登録有形文化財の12件は、この名勝の範囲の中に立っている。これに先立つ昭和60年(1985年)には、環境と景観に優れた浄水場として厚生省(当時)の「近代水道百選」にも選ばれた。
登録された12件と、その並び
登録は二度に分かれている。平成13年(2001年)8月28日に、3基の緩速沈澱池、6基の緩速ろ過池、緩速浄水集合井、緩速浄水ポンプ室の11件が登録された(登録番号17-0043から17-0053)。平成28年(2016年)11月29日には、正門脇の旧着水井上屋が加わった(17-0260)。同じ日には、浄水場の外にある大桑町の大桑配水場旧計量室も登録されている。
適用された登録基準にも違いがある。建物としての意匠が評価された緩速浄水集合井と旧着水井上屋は「造形の規範となっているもの」、池の9基とポンプ室は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。前者は見せることを意識した上屋、後者は群として景観をつくる土木構造物と小建築、という分け方になる。
水の流れに沿って見ると、並びが頭に入りやすい。正門を入って右手に旧着水井上屋が西を向いて立ち、その奥に一号から三号の沈澱池が南から北へ並ぶ。前庭を挟んだ西側がろ過池の区画で、通路の南側に一号・三号・五号、北側に二号・四号・六号が、東から西へ順に並ぶ。通路の西の突き当たりに緩速浄水集合井、その北隣に緩速浄水ポンプ室がある。ろ過池の区画は沈澱池より一段低い土地に置かれ、水はこの高低差で西へ送られる。
見学の方法とアクセス
前庭は予約なしで自由に散策できる。開園は午前9時から午後4時まで(午後4時が退園時刻)で、入園料はかからない。年末年始の12月29日から1月3日までと、1月・2月の土曜・日曜・祝日は閉園となる。場内での飲食と喫煙はできず、ペットを連れての入場も控えるよう求められている。
沈澱池やろ過池など水道施設の内部は、完全予約制の施設見学でのみ案内される。対象は自治体や地域サークルなどの団体で、見学日の2週間前までに金沢市電子申請サービスから申し込む。実施は平日の午前9時30分から12時と午後1時30分から3時30分で、所要時間は約40分。浄水処理の工程と、沈澱池・ろ過池を見て回る内容である。学校の学習活動は別に問い合わせる。窓口は金沢市企業局上水課(電話076-229-2006、平日午前9時から午後5時15分)。個人で池の近くまで入れる機会としては、6月の水道週間に合わせて企業局が浄水場を一般開放する催し「かなざわ水道フェスタin末浄水場」が開かれてきた。開催の有無と日程は年ごとに企業局の告知を確かめたい。
撮影の可否について企業局の案内に記載はない。稼働中の浄水施設であるため、予約見学の際は案内の職員に確かめておくのが確実である。
公共交通では、JR金沢駅から北陸鉄道バスの東部車庫行きに乗り、終点の「東部車庫」で降りて徒歩約8分。所在地は石川県金沢市末町1-1である。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 末浄水場園地
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/401/00003666
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 末浄水場一号緩速沈澱池
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002231
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 末浄水場旧着水井上屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011283
- 文化遺産オンライン — 末浄水場園地
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/170008
- 金沢市 — 名勝 末浄水場園地
- https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/bunkazaihogoka/gyomuannai/3/1/1/siteibunkazai/5/5832.html
- 石川県 — 末浄水場園地
- https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/bunkazai/siseki/2-6.html
- 金沢市企業局 — 登録有形文化財 末浄水場
- https://www2.city.kanazawa.ishikawa.jp/about_us/facility_tour/water02/water04/
- 金沢市企業局 — 末浄水場園地 前庭(予約不要)
- https://www2.city.kanazawa.ishikawa.jp/about_us/facility_tour/water02/
- 金沢市企業局 — 末浄水場 水道施設(要予約)
- https://www2.city.kanazawa.ishikawa.jp/about_us/facility_tour/water01/
- 金沢市企業局 — 令和2年度水道水質検査計画(末浄水場の概要)
- https://www2.city.kanazawa.ishikawa.jp/wp-content/uploads/2021/03/d214b14a572ef8b21c25ef72093f0eb8.pdf
最終更新日: 2026.09.24
基本情報
| 名称 | 末浄水場 |
|---|---|
| 所在地 | 石川県金沢市末町1-1 |
| 所有者 | 金沢市 |
| 指定 | 登録有形文化財 12件 |
| 座標 | 36.51326, 136.69893 |