正門の脇で最初に水を受ける建物

末浄水場旧着水井上屋は、石川県金沢市末町の末浄水場にある昭和7年(1932年)完成の鉄筋コンクリート造平屋建の建物で、平成28年(2016年)11月29日に国の登録有形文化財に登録された。正門を入ってすぐ右手に、西を向いて立つ。建築面積は87平方メートルで、地階を備えている。

着水井とは、導水管で運ばれてきた原水を最初に受け止める井戸のことである。ここで水の質と量を整えてから、東の3基の沈澱池へ送り出す。浄水の工程でいえば入口の装置で、末浄水場旧着水井上屋はその井戸を覆う上屋として建てられた。

文化庁の解説は、この建物を浄水場の最初期の整備事業で建てられたものと位置づけている。池や導水管のような土木構造物が先に形になり、それを覆う建物が追って整っていく。昭和5年(1930年)の給水開始から2年後という完成時期は、その順序をそのまま示している。

12件のうち最後に加わった登録

平成13年(2001年)に沈澱池・ろ過池など11件がまとめて登録された際、この上屋は対象に入っていなかった。加わったのは15年後で、登録番号は17-0260。そのあいだの平成27年(2015年)3月に、外観を当初の姿へ戻す復元工事が行われている。文化庁のデータベースは年代を「昭和7年/平成26年(2014年)改修」と記しており、年度で数えた表記と読める。

登録基準は「造形の規範となっているもの」である。池や小さな機械室の多くが「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録されたのに対し、末浄水場旧着水井上屋は緩速浄水集合井とともに、建物の意匠そのものが評価された。

金沢市企業局は、この建物を建設当時に生まれつつあったモダニズム風の建築として紹介している。和風の意匠を借りず、装飾を幾何学的な形に置き換えていく時代の建物である。水道という新しい都市設備に、ふさわしい顔を与えようとした意図がうかがえる。

曲線のパラペットと丸窓

正面に立ってまず目に入るのは、屋上の縁を囲む低い立ち上がり壁、パラペットである。壁は角で緩い曲線を描きながら外へ持ち出され、箱形の建物の輪郭に柔らかさを与えている。

入口の上には、パラペットより一段低い位置に庇がまわる。上下二本の水平線が正面の構成を決め、入口の位置を静かに強調する。

窓は長方形を基本とし、そこに丸窓が点のように加わる。外壁の腰まわりにも飾りが付けられている。企業局は、長方形の窓とアクセントの丸窓が建物全体の幾何学的な印象を強めていると説明し、文化庁の解説は近代的な水道施設として意図された装飾性が感じられると述べる。

細部を見るなら、丸窓の位置と庇の高さの関係に注目したい。窓と庇、パラペットの三つの高さがそろえてあり、小さな建物でも立面が整って見えるのはそのためである。現在の外観は平成27年の復元工事を経たもので、工事の詳しい内容は公表資料では確かめられなかった。

見学の方法

末浄水場旧着水井上屋は正門を入ってすぐの位置にあり、予約不要で公開されている前庭の東隣にあたる。外観は前庭側から眺めることができる。建物の内部と地階の公開は案内されていない。

正面は西を向いているため、午前中は正面が影になりやすい。パラペットの曲線や丸窓の陰影をはっきり見たいなら、前庭が開いている午後の早い時間がよい。

撮影の可否について企業局の案内に記載はない。浄水場は稼働中の施設なので、立ち入りが許された範囲を守って見学したい。前庭への行き方と公開時間は、末浄水場のページにまとめてある。

Q&A

Q末浄水場旧着水井上屋はいつ建てられましたか?
A昭和7年(1932年)に完成しました。浄水場の最初期の整備事業で建てられた建物で、平成27年(2015年)3月に外観の復元工事が行われています。
Q末浄水場旧着水井上屋はいつ登録有形文化財になりましたか?
A平成28年(2016年)11月29日に登録されました。登録番号は17-0260で、登録基準は「造形の規範となっているもの」です。
Q末浄水場旧着水井上屋は予約なしで見られますか?
A外観は見られます。正門を入ってすぐ右手にあり、予約不要で公開されている前庭の東隣に立っています。内部の公開は案内されていません。
Q末浄水場旧着水井上屋の見どころはどこですか?
A曲線を描いて持ち出されたパラペット、入口の上を一段低くまわる庇、長方形の窓に加えられた丸窓、外壁の腰まわりの飾りです。
Q着水井とは何のための設備ですか?
A導水管で運ばれてきた原水を最初に受け止め、質と量を整えてから沈澱池へ送り出す井戸です。末浄水場旧着水井上屋はその井戸を覆う建物として建てられました。

基本情報

名称末浄水場旧着水井上屋(すえじょうすいじょうきゅうちゃくすいせいうわや)
所在地石川県金沢市末町1-1
指定区分登録有形文化財(建造物)、登録番号17-0260、登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成28年(2016年)11月29日登録
員数1棟
寸法鉄筋コンクリート造平屋建、地階付、建築面積87平方メートル
所有者金沢市
公開状況外観は予約不要の前庭側から見学可、内部の公開は案内なし

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 末浄水場旧着水井上屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011283
文化遺産オンライン — 末浄水場旧着水井上屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/299129
金沢市企業局 — 登録有形文化財 末浄水場
https://www2.city.kanazawa.ishikawa.jp/about_us/facility_tour/water02/water04/
国指定文化財等データベース(文化庁)— 末浄水場園地(詳細解説)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/401/00003666
金沢市企業局 — 末浄水場 水道施設(要予約)
https://www2.city.kanazawa.ishikawa.jp/about_us/facility_tour/water01/
金沢市企業局 — 末浄水場園地 前庭(予約不要)
https://www2.city.kanazawa.ishikawa.jp/about_us/facility_tour/water02/

最終更新日: 2026.09.24