旧陸軍省軍馬補充部六原支部官舎第二棟 ― 明治末期の洋風木造建築が伝える軍馬の郷の記憶

岩手県南西部、胆沢郡金ケ崎町の穏やかな田園地帯に佇む旧陸軍省軍馬補充部六原支部官舎第二棟は、明治44年(1911年)に建てられた木造平屋建ての官舎建築です。かつて陸軍の軍馬補充部六原支部に勤務する将校のための住居として使われたこの建物は、平成29年(2017年)5月2日に第一棟・第三棟とともに国の登録有形文化財に登録されました。煉瓦基礎や下見板張りの洋風意匠と和室が共存する和洋折衷のたたずまいは、日本の近代化と軍馬育成という地域の歴史を静かに今に伝えています。

歴史的背景

明治29年(1896年)、近代化を進める日本陸軍は軍馬の育成・訓練・補給を一元的に管理するため、軍馬補充部を設置しました。明治31年(1898年)には、当時の相去村六原地区(現在の金ケ崎町六原)に六原支部が開設されます。その誘致に尽力したのが、相去村村長や胆沢郡会議員を歴任した地元の政治家・桑島重三郎でした。広大な土地を活用し、地域の発展につなげたいという彼の強い意志が、この支部の設立を実現させました。

六原支部には支部長・支部員用の官舎が9区画設けられ、第二棟は明治44年頃に建築されました。しかし大正14年(1925年)、軍縮の流れの中で六原支部は廃止され、広大な敷地はその後農場として利用され、現在は岩手県立農業大学校の敷地となっています。当初9棟あった官舎のうち現存するのはわずか3棟であり、本建物は明治期における陸軍官舎建築の貴重な遺構として高い歴史的価値を持っています。

文化財登録の理由

旧陸軍省軍馬補充部六原支部官舎第二棟が登録有形文化財として評価された理由はいくつかあります。まず、建築年代が明治44年と明確に記録されており、建築史研究上の基準点となること。次に、洋風と和風が融合した明治末期の住宅建築様式をよく残していること。そして、全国的に現存例が極めて少ない旧陸軍の官舎建築であることが挙げられます。第一棟が佐官級の上級将校向けのやや格式高い造りであるのに対し、第二棟はより簡素な構成をとっており、当時の軍の住宅における階級による差異を知る上でも重要な建築物です。

建築的特徴と見どころ

第二棟は、第一棟の道路を挟んで西側に東西棟として建てられています。木造平屋建て、寄棟造鋼板葺で、建築面積は約100平方メートルです。

間取りは機能性と快適性を兼ね備えた設計になっています。北面に設けられた玄関から中廊下が通り、東側には洋風の応接間、南側には和室が配されるなど、採光にも十分な配慮がなされています。台所・浴室などの水回りは北西にまとめられ、合理的な動線が確保されています。

外観には西洋建築の影響が色濃く表れています。基礎にはイギリス積みの煉瓦が使われ、外壁は洋風の下見板張り(横板を重ねて張る工法)で仕上げられています。窓は上げ下げ式の洋風窓で、窓枠にはモールディング(装飾的な額縁)が施されています。そして最も特徴的なのが、換気口に施された「六」の字を象ったグリルです。これは六原支部特有のデザインとされ、この建物群ならではの意匠として注目されています。

見学情報

3棟の官舎のうち第一棟は、平成28年(2016年)10月に「軍馬の郷六原資料館」として修復・公開されています。館内では軍馬補充部の歴史や、誘致に尽力した桑島重三郎に関する資料が展示されています。第二棟は資料館の敷地内にあり、外観を見学することができます。資料館の入館料は無料です。

開館日は水曜・土曜・日曜・祝日で、開館時間は午前9時から午後5時まで。年末年始は休館となります。JR東北本線金ケ崎駅から車で約10分の距離にあり、東北自動車道の水沢ICまたは北上金ケ崎ICからもアクセスしやすい立地です。

周辺の見どころ

金ケ崎町には、旧軍馬官舎と合わせて訪れたい歴史的・自然的スポットが数多くあります。町の中心部にある「金ケ崎町城内諏訪小路」は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、江戸時代の武家屋敷が美しい生垣とともに残されています。鉤形桝形の防御的な道路構造も見どころのひとつで、金ケ崎要害歴史館では藩政時代の歴史を学ぶことができます。

自然を楽しみたい方には、官舎からほど近い岩手県立花きセンターがおすすめです。また、千貫石森林公園では四季折々の散策が楽しめ、併設の千貫石温泉で森に囲まれた露天風呂を満喫できます。そのほか、永岡温泉夢の湯や金ケ崎温泉駒子の湯など、町内には複数の温泉施設があり、観光の疲れを癒すのに最適です。

Q&A

Q旧陸軍省軍馬補充部六原支部官舎第二棟とはどのような建物ですか?
A明治44年(1911年)に建てられた、陸軍軍馬補充部六原支部の将校用官舎です。木造平屋建て、寄棟造鋼板葺の和洋折衷建築で、平成29年に国の登録有形文化財に登録されました。
Q建物の内部を見学することはできますか?
A第一棟は「軍馬の郷六原資料館」として内部が公開されており、無料で見学できます。第二棟は資料館敷地内にあり、外観を見学することができます。
Qアクセス方法を教えてください。
AJR東北本線金ケ崎駅から車で約10分です。東北自動車道の水沢ICまたは北上金ケ崎ICからも車で約10〜15分でアクセスできます。
Q建築上の特徴は何ですか?
Aイギリス積みの煉瓦基礎、洋風の下見板張り外壁、上げ下げ窓とモールディング付き額縁など、西洋建築の要素を取り入れた和洋折衷の意匠が見どころです。特に「六」の字を象った換気口グリルは六原支部特有のデザインとして注目されています。
Q周辺にはどのような観光スポットがありますか?
A重要伝統的建造物群保存地区に選定されている金ケ崎町城内諏訪小路の武家屋敷群、岩手県立花きセンター、千貫石森林公園・千貫石温泉、永岡温泉夢の湯、金ケ崎温泉駒子の湯などがあります。

基本情報

名称 旧陸軍省軍馬補充部六原支部官舎第二棟(きゅうりくぐんしょうぐんばほじゅうぶろくはらしぶかんしゃだいにとう)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成29年(2017年)5月2日
建築年 明治44年(1911年)
構造 木造平屋建、寄棟造鋼板葺、建築面積約100㎡
所在地 岩手県胆沢郡金ケ崎町六原蟹子沢16
所有者 金ケ崎町
関連施設 軍馬の郷六原資料館(第一棟)
開館時間 午前9時~午後5時(水曜・土曜・日曜・祝日)
入館料 無料
アクセス JR東北本線金ケ崎駅から車で約10分
お問い合わせ 0197-43-2077(軍馬の郷六原資料館)

参考文献

旧陸軍省軍馬補充部六原支部官舎第二棟 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/222497
国登録有形文化財 軍馬の郷六原資料館 | 金ケ崎町役場
https://www.town.kanegasaki.iwate.jp/docs/2017122800027/
軍馬の郷六原資料館 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8D%E9%A6%AC%E3%81%AE%E9%83%B7%E5%85%AD%E5%8E%9F%E8%B3%87%E6%96%99%E9%A4%A8
旧陸軍省軍馬補充部六原支部官舎第二棟 | いわての文化情報大事典
http://www.bunka.pref.iwate.jp/archive/hist588
国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011402

最終更新日: 2026.04.13