民俗学の拠点となった旅籠

旧高善旅館(柳翁宿)は、岩手県遠野市中央通りにある明治前期建築の木造2階建旅館建物で、令和5年(2023年)8月7日に国の登録有形文化財に登録された。

この建物を訪ねる人の目的は、まず宿帳にある。柳田國男は『遠野物語』(明治43年刊)の取材にあたってここに滞在した。のちに折口信夫が泊まり、ロシアの言語学者ニコライ・ネフスキーも足を運んでいる。日本民俗学が形をとりつつあった時期、この旅館は事実上の調査拠点として機能していた。

柳翁宿という呼称は後年に付けられたもので、柳田にちなむ。建物そのものの名は高善旅館。盛岡と太平洋沿岸を結ぶ街道が通る城下町にあって、遠野屈指の宿とされ、要人の宿泊も受けていた。

ふたつの性格が同居する建物

東側から読めば、これは遠野の町家である。切妻造の屋根、前後に貫く通り土間、広いミセ、そして吹抜けの常居。通り土間・ミセ・吹抜常居を一列に並べるこの構成は遠野の典型的な町家平面で、本建物はその明快な事例にあたる。

西側に移ると語彙が変わる。明治後期の増築部で、屋根は入母屋造、しかも起りをもつ。玄関は石敷である。入ってすぐ正面に大階段が構えられており、通常の旅籠がここに費用を投じることはない。

2階には床構えを備えた客室が配される。東半分は働く町の側にあり、西半分は主人が遇したい客のための空間だった。ひとつの建物が二種類のもてなしを抱え込んでいる。その継ぎ目は、意識して見れば外からも読み取れる。

建築面積は243平方メートル、屋根は瓦葺。文化庁の登録原簿は、当初部分の年代を1868年から1882年の間とし、明治39年(1906年)と大正5年(1916年)の増築、昭和23年(1948年)の改修、昭和60年(1985年)の移築、平成25年(2013年)の改修を記録している。

登録区分についての確認

登録は令和5年8月7日、第105回登録。登録番号は03-0120で、登録基準は「造形の規範となっているもの」。所有者は遠野市である。

ここは正確を期しておきたい。本件は登録有形文化財であって、重要文化財ではない。観光関連のページには「国指定有形文化財」といった表現も見られるが、文化庁の記録は明確に登録有形文化財としている。登録制度は指定制度に比べて規制がゆるやかで、建物を使い続けることを前提に設計された枠組みである。実際にこの建物は、展示館として日々人を迎えている。

昭和60年の移築についても触れておく。高善旅館はもともと城下の中心部にあった。登録有形文化財の移築は一般に慎重を要するが、この移築は登録の約40年前に行われたもので、原簿でも建物の来歴の一部として記載されている。

見学のための情報

現在は「とおの物語の館」内の柳田國男展示館として公開されている。同館には、酒蔵を改装した昔話蔵、語り部が遠野の言葉で昔話を語る遠野座、東京都世田谷区成城から移築された旧柳田國男隠居所が併設されている。

開館時間は9時から17時、入館受付は16時30分まで。休館日は季節で変わる。4月と5月は休館日なし、6月から10月は毎月第1火曜日、11月から3月は毎週火曜日と年末年始(12月29日から1月3日)。ただし火曜日が祝日にあたる場合は開館する。

料金は一般600円、高校生以下300円。とおの物語の館と遠野城下町資料館の2館共通券である。券売所は高善旅館の建物内に置かれているため、料金を払い終える前にすでに文化財の中に立っていることになる。

JR遠野駅から約0.7キロ、徒歩約8分。車の場合は釜石自動車道遠野インターチェンジから約2.8キロ、8分ほど。駐車場は20台、市民センター側に57台分が用意されている。

館内の撮影はおおむね可能だが、個別の展示資料には制限がかかる場合があり、その際は掲示か係員の案内がある。語り部の実演には日程が公開されており、入館料に含まれる。午前中に着くと組み合わせやすい。

Q&A

Q旧高善旅館(柳翁宿)はなぜ民俗学にとって重要な建物なのですか。
A柳田國男が『遠野物語』の取材で滞在した宿だからです。折口信夫やロシアの言語学者ニコライ・ネフスキーも宿泊し、初期の民俗調査の拠点として使われました。
Q旧高善旅館(柳翁宿)は見学できますか。入館料はいくらですか。
A「とおの物語の館」の柳田國男展示館として公開されています。入館料は一般600円、高校生以下300円で、遠野城下町資料館との2館共通券です。
Q旧高善旅館(柳翁宿)の開館時間と休館日を教えてください。
A9時から17時(入館受付は16時30分まで)です。休館日は6月から10月が毎月第1火曜日、11月から3月が毎週火曜日と年末年始。4月と5月は休館日がありません。
Q旧高善旅館(柳翁宿)の文化財区分と登録年はいつですか。
A登録有形文化財(建造物)で、令和5年(2023年)8月7日の登録、登録番号03-0120です。重要文化財ではありません。
Q旧高善旅館(柳翁宿)へのアクセス方法は。
AJR遠野駅から約0.7キロ、徒歩約8分です。車の場合は釜石自動車道遠野インターチェンジから約2.8キロ、駐車場は20台分あります。

基本情報

名称旧高善旅館(柳翁宿)/きゅうたかぜんりょかん(りゅうおうじゅく)
所在地岩手県遠野市中央通り2-11
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 03-0120
指定年令和5年(2023年)8月7日登録
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積243平方メートル。当初部分は1868年から1882年、明治39年・大正5年増築、昭和60年移築
所有者遠野市
公開状況とおの物語の館(柳田國男展示館)として公開。9時から17時、一般600円・高校生以下300円

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014556
とおの物語の館(遠野時間/遠野市観光情報サイト)
https://tonojikan.jp/tourism/tono-folktale-museum/
とおの物語の館 公式サイト
https://tonokanko04.wixsite.com/my-site
とおの物語の館(いわての旅/岩手県観光ポータル)
https://iwatetabi.jp/spots/4070/

最終更新日: 2026.08.06