旧遠野寶物館(遠野市立博物館新町収蔵庫):民話の里に佇む大正時代の近代建築

柳田國男の名著『遠野物語』で知られる岩手県遠野市。その市街地の中心に、ひときわ存在感を放つコンクリート造の建物が佇んでいます。旧遠野寶物館は、大正14年(1925年)に建設された遠野地方初の鉄筋コンクリート造建築であり、耐震耐火を考慮した先進的な設計が特徴です。現在は遠野市立博物館の新町収蔵庫として、この地域の貴重な文化財を守り続けています。平成29年(2017年)に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。

歴史的背景

旧遠野寶物館が建設された大正14年は、大正デモクラシーの時代であり、日本全国で近代化が急速に進んでいた時期です。大正12年(1923年)の関東大震災は木造建築の脆弱性を露呈し、鉄筋コンクリート造の優位性が広く認識されるようになりました。しかし、都市部では普及が始まっていたコンクリート建築も、岩手県の山間部に位置する遠野ではまだ前例がありませんでした。

そのような中で建設された本建物は、地域の貴重な文化財や歴史資料を地震や火災から守りたいという強い意志の表れでした。遠野地方における最初の鉄筋コンクリート造建築として、近代建築技術の地方への波及を示す貴重な証例となっています。その後、昭和24年(1949年)と1980年頃に改修が行われ、時代の要請に応じながらも、建物の本質的な姿は保たれてきました。

文化財としての価値

旧遠野寶物館は、平成29年(2017年)5月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その評価の要点は以下の通りです。

  • 遠野地方における鉄筋コンクリート造建築の嚆矢であり、地方への近代建築技術の普及を物語る建造物であること。
  • 外壁の窓廻りを窪ませた幾何学的意匠が大正期の建築美を伝えていること。
  • 内部は一・二階とも一室構成で、側柱のみで支える無柱の大空間を実現しており、構造的に優れた設計であること。
  • 耐震耐火という近代的な建築理念を地方の公共建築に取り入れた先駆的な事例であること。

建築の見どころ

建築面積96平方メートル、鉄筋コンクリート造2階建のこの建物は、小規模ながら見応えのある建築です。外壁に施された幾何学的な意匠、特に窓廻りを窪ませた処理は、ファサードにリズミカルな陰影を生み出しています。1920年代のモダニズムの影響を受けた装飾手法であり、西洋の建築技術と抑制的な装飾語彙を融合させた大正期の美意識が感じられます。

内部空間で最も注目すべきは、その大胆なオープンプランです。各階とも、建物の全幅・全奥行にわたる一つの大きな部屋となっており、内部に柱が一本もありません。構造荷重はすべて外壁に沿って配置された側柱によって支えられており、文化財の収蔵・展示に最適な遮るもののない広々とした空間が実現されています。1920年代半ばの地方建築としては、きわめて先進的な構造設計と言えます。

遠野:民話の里

旧遠野寶物館が立つ遠野市は、日本民俗学の原点ともいえる地です。明治43年(1910年)に柳田國男が刊行した『遠野物語』は、河童、座敷童子、天狗、オシラサマなど、この地に伝わる不思議な物語を記録し、遠野を日本民俗学の聖地として全国に知らしめました。

旧遠野寶物館が収蔵庫として属する遠野市立博物館は、日本有数の民俗専門博物館です。マルチスクリーンシアターやプロジェクションマッピング、ジオラマ、豊富な実物資料を通じて、『遠野物語』の世界と遠野の人々の暮らしを臨場感あふれる展示で紹介しています。オシラサマの信仰資料や、遠野出身の人類学者・伊能嘉矩、柳田の協力者・佐々木喜善に関する資料も充実しています。

アクセス・見学情報

旧遠野寶物館は、岩手県遠野市新町230-2に位置し、JR遠野駅から徒歩約10分です。現在は博物館の収蔵施設として使用されているため、内部の常時公開は行われていませんが、大正時代の特徴的な外観は外部からいつでもご覧いただけます。遠野の文化遺産に興味をお持ちの方は、すぐ近くの遠野市立博物館と合わせてお訪ねになることをお勧めします。

遠野へのアクセスは、東京から東北新幹線で新花巻駅まで約2時間半、新花巻からJR釜石線で遠野駅まで約1時間です。遠野市街地はコンパクトで徒歩での散策に適しており、民話にまつわる名所が数多く点在しています。

周辺の見どころ

遠野には文化・自然の見どころが豊富です。遠野市立博物館では地域の民俗を体感でき、遠野ふるさと村では曲り家と呼ばれる伝統的な茅葺き農家を見学できます。河童が棲むと伝えられるカッパ淵は風情ある水辺の散策スポットです。伝承園では伝統的な建築物の保存とともに、民俗体験プログラムも用意されています。また、周囲の山々や渓谷では、柳田國男の時代からほとんど変わらない風景の中でのハイキングを楽しむことができます。

Q&A

Q旧遠野寶物館はなぜ文化財に登録されたのですか?
A大正14年(1925年)に建設された遠野地方初の鉄筋コンクリート造建築であり、耐震耐火を考慮した先進的な設計、幾何学的な外壁意匠、無柱の大空間を持つ構造など、近代建築技術の地方への普及を示す貴重な建造物として評価されました。
Q建物の内部は見学できますか?
A現在は遠野市立博物館の新町収蔵庫として使用されており、通常は内部公開されていません。ただし、大正時代の特徴的な外観は外部から自由にご覧いただけます。近くの遠野市立博物館では、充実した民俗展示をお楽しみいただけます。
Q建物の建築的な特徴は何ですか?
A外壁の窓廻りを窪ませた幾何学的意匠と、内部の無柱大空間が大きな特徴です。一・二階とも内部に柱がなく、側柱のみで構造を支える設計により、広々とした一室空間を実現しています。
Q遠野市へのアクセス方法を教えてください。
A東京から東北新幹線で新花巻駅まで約2時間半、そこからJR釜石線に乗り換えて遠野駅まで約1時間です。旧遠野寶物館はJR遠野駅から徒歩約10分の市街地中心部にあります。
Q遠野物語との関係はありますか?
A旧遠野寶物館の建設(1925年)は『遠野物語』の刊行(1910年)より後ですが、この建物は遠野地方の文化財を保存するために建てられたものであり、『遠野物語』に記録された豊かな民俗文化を守る拠点として、現在も遠野市立博物館の一部としてその使命を果たし続けています。

基本情報

名称 旧遠野寶物館(遠野市立博物館新町収蔵庫)
建設年 大正14年(1925年)/昭和24年(1949年)・1980年頃改修
構造 鉄筋コンクリート造2階建
建築面積 96㎡
文化財区分 登録有形文化財(建造物)/平成29年(2017年)5月2日登録
所有者 遠野市
所在地 岩手県遠野市新町230-2
アクセス JR釜石線 遠野駅から徒歩約10分

参考文献

文化遺産オンライン — 旧遠野寶物館(遠野市立博物館新町収蔵庫)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/256025
いわての文化情報大事典 — 旧遠野寶物館(遠野市立博物館新町収蔵庫)
http://www.bunka.pref.iwate.jp/archive/hist581
遠野市立博物館・図書館 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/遠野市立博物館・図書館
遠野市立博物館 — 遠野市公式サイト
https://www.city.tono.iwate.jp/index.cfm/48,25002,166,html
遠野時間 — 遠野市立博物館
https://tonojikan.jp/tourism/tono-municipal-museum/

最終更新日: 2026.04.09