岩手銀行(旧盛岡銀行)旧本店本館:明治建築の華やぎを今に伝える東北唯一の辰野金吾作品
盛岡市中心部の中ノ橋のたもとに堂々とそびえる岩手銀行(旧盛岡銀行)旧本店本館は、1世紀以上にわたって街を見守り続けてきた壮麗な赤煉瓦建築です。1994年(平成6年)に国の重要文化財に指定されたこの明治期の銀行建築は、東京駅の設計者として知られる名建築家・辰野金吾が手がけた作品の中で、東北地方に唯一現存する貴重な建物です。現在は「岩手銀行赤レンガ館」として一般公開され、明治の華やかさと近代日本の意気込みを伝える空間として、多くの人々を迎えています。
歴史的背景
1908年(明治41年)5月5日、盛岡市の中心を流れる中津川のほとりで、盛岡銀行本店の建設が始まりました。約3年の歳月をかけ、1911年(明治44年)4月30日に竣工し、同年5月7日に開業しました。盛岡銀行は1896年(明治29年)に開業した銀行で、本館はその本店行舎として建てられました。
盛岡銀行から岩手銀行へ
1933年(昭和8年)、盛岡銀行は営業免許の取り消しを受けました。その後、1936年(昭和11年)に岩手殖産銀行(1960年に岩手銀行へ商号変更)がこの建物を譲り受け、本店として利用を開始しました。
興味深いことに、1936年から1958年までの間、赤煉瓦の外観は白く塗装されており、当時は「白い明治館」の愛称で親しまれていました。その後の修復工事により、現在の創建当初の赤煉瓦の姿に戻されています。
支店から公開施設へ
1983年(昭和58年)、岩手銀行が盛岡市中央通に新本店を竣工させたことに伴い、それまで本店であった本建物は中ノ橋支店として再出発しました。それから約30年間、現役の銀行建築として利用が続けられましたが、2012年(平成24年)8月3日に銀行としての営業を終了。約3年半に及ぶ綿密な保存修理工事を経て、2016年(平成28年)7月17日に「岩手銀行赤レンガ館」として一般公開され、新たな歴史を歩み始めました。
なぜ重要文化財に指定されたのか
本建物は1994年(平成6年)12月27日に国の重要文化財に指定されました。これは現役の銀行建築としては日本初の指定であり、極めて画期的な出来事でした。指定理由は、「意匠的優秀なもの」と「流派的または地方的特色において顕著なもの」の二つです。
辰野金吾が設計した建築の中で、東北地方に現存する唯一の作品であり、近代日本を代表する建築家の貴重な遺産です。赤煉瓦と白色花崗岩を組み合わせた外観は、いわゆる「辰野式」の典型を示し、角地という敷地条件を巧みに生かした象徴的な構成も高く評価されています。さらに、ランドマークとしての近代建築保存のモデルケースとしても、日本の建築史上重要な意義を持っています。
建築的見どころ
象徴的な辰野式の外観
建物は煉瓦造2階建で、外壁は赤煉瓦の壁面に白色花崗岩の帯を回した、辰野金吾の作風を象徴する意匠となっています。1階の窓にはまぐさ、2階の窓には優美なアーチが用いられ、コンソールやアーチなどの要所にも白色花崗岩がアクセントとして配されています。
屋根は主に銅板葺で、ドーム部分のみスレート葺となっており、ドーマー窓が表情豊かに連なります。マンサード型の屋根の西側には寄棟屋根が接続し、東南隅にはドームを冠した八角形の塔、南側には矩形の塔を出入口として配しています。さらに、東面北端には切妻屋根が張り出すなど、立体感に富み、躍動的な外観を作り出しています。
豪華な営業室の吹き抜け
館内に足を踏み入れると、ロビーと営業室が吹き抜けの大空間として広がり、2階には優美な回廊がぐるりと巡らされています。壁面には付け柱が立ち並び、天井には精緻な石膏モチーフの装飾が施され、明治期の銀行建築ならではの華麗な内装を今に伝えています。内装材には香り高く耐久性に優れた青森ヒバが使用されており、贅を尽くした空間が来館者を迎えます。
地元の誇りを込めた建材
建材には約91万個もの岩手県産煉瓦が使用されており、地域の職人技の結晶として、本建物に深い意味を与えています。日本を代表する建築家の設計と、地元の素材・技術が結びついて生まれたこの建物は、全国的な価値とともに、盛岡の人々にとっての特別な誇りでもあります。
設計を担当した建築家
設計は、辰野金吾と葛西萬司が主宰する辰野・葛西建築事務所によるものです。辰野金吾(1854-1919年)は近代日本を代表する建築家で、東京駅丸の内駅舎、日本銀行本店など数々の名建築を手がけました。葛西萬司は盛岡市出身で辰野の最も信頼する弟子の一人であり、故郷の風土を熟知する立場から本作の設計に深く関わりました。
来館の楽しみ方
赤レンガ館の内部では、有料の盛岡銀行ゾーンとバーチャルシアターを楽しむことができます。重要文化財としての価値や情報の展示、設計者や建物の魅力を紹介する多彩なプログラムが用意されています。かつての営業室は多目的ホールとして地域の文化交流や復興、市民交流の場として開放されており、歴史的空間が今も生きた形で活用されています。
また、岩手を代表する詩人・宮沢賢治の詩の中にもこの建物が詠み込まれており、長く盛岡のシンボルとして親しまれてきた特別な存在であることを物語っています。
周辺の見どころ
赤レンガ館は盛岡の歴史的中心地に位置しており、徒歩圏内に多くの観光名所が点在しています。あわせて訪れたいスポットをご紹介します。
- 盛岡城跡公園(岩手公園):南部氏の居城跡で、徒歩圏内の歴史名所
- 中津川:赤レンガ館のすぐそばを流れる風情ある川辺
- ござ九:盛岡の伝統的な町家が残る商家通り
- 盛岡八幡宮:盛岡を代表する由緒ある神社
- 報恩寺:五百羅漢で知られる名刹
- 盛岡三大麺(わんこそば、冷麺、じゃじゃ麺)の名店巡り
Q&A
- 開館時間と入館料を教えてください。
- 開館時間は10:00〜17:00(入館は16:30まで)です。休館日は毎週火曜日と年末年始(12月29日〜1月3日)です。バーチャルシアターのある盛岡銀行ゾーンの入館料は、一般(16歳以上)300円、小・中学生100円、未就学児童(7歳未満)は無料です。
- 盛岡駅からのアクセスはどのようになっていますか。
- 盛岡駅からバスで約10分、「盛岡バスセンター」のバス停で下車後、徒歩1分で到着します。お車の場合は盛岡ICから約10分です。なお、専用駐車場はございませんので、お車でお越しの際は近隣の有料駐車場をご利用ください。
- この建物はなぜそれほど価値があるのですか。
- 東京駅を設計した辰野金吾の作品として、東北地方に唯一現存する建物です。さらに、現役の銀行建築としては日本で初めて国の重要文化財に指定された建物でもあります。芸術的な優秀さ、歴史的重要性、優れた保存状態のすべてを兼ね備えており、東北を代表する明治期建築の一つとして高く評価されています。
- 館内で写真撮影はできますか。
- 記念撮影など個人での写真撮影は基本的に可能で、壮麗な内装や建築の細部をお楽しみいただけます。なお、商用撮影や大規模な撮影、動画撮影については別途申請と許可が必要となります。詳しくは公式ウェブサイトの撮影案内をご確認いただくか、スタッフまでお問い合わせください。
- 建材について特徴的な点はありますか。
- 本建物には約91万個の岩手県産煉瓦が使用され、外観のアクセントには白色花崗岩が用いられています。さらに内装材には、香り高く耐久性に優れた青森ヒバが使われており、地元の素材と職人の技が見事に結集しています。辰野金吾の代表的な意匠と地域の建材が融合した、まさに逸品といえる建物です。
基本情報
| 正式名称 | 岩手銀行(旧盛岡銀行)旧本店本館(通称:岩手銀行赤レンガ館) |
|---|---|
| 指定区分 | 国指定重要文化財(建造物)/1994年(平成6年)12月27日指定 |
| 所在地 | 〒020-0871 岩手県盛岡市中ノ橋通一丁目2番20号 |
| 設計 | 辰野金吾、葛西萬司(辰野・葛西建築事務所) |
| 建設期間 | 1908年(明治41年)5月着工 〜 1911年(明治44年)4月30日竣工 |
| 構造及び形式 | 煉瓦造、二階建、スレート葺(一部銅板葺) |
| 建築面積 | 約693平方メートル |
| 所有者 | 株式会社岩手銀行 |
| 開館時間 | 10:00〜17:00(入館は16:30まで) |
| 休館日 | 毎週火曜日、年末年始(12月29日〜1月3日) |
| 入館料 | 一般(16歳以上)300円/小・中学生100円/未就学児童無料 |
| アクセス | JR盛岡駅よりバスで約10分、「盛岡バスセンター」下車徒歩1分 |
参考文献
- 岩手銀行赤レンガ館 公式ウェブサイト
- https://www.iwagin-akarengakan.jp/redbrick/
- 岩手銀行(旧盛岡銀行)旧本店本館 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/184246
- 岩手銀行旧本店本館 - 盛岡市公式ホームページ
- https://www.city.morioka.iwate.jp/kankou/kankou/1037106/rekishi/1009335/1009340/1009345.html
- 岩手銀行(旧盛岡銀行)旧本店本館 - いわての文化情報大事典
- http://www.bunka.pref.iwate.jp/archive/hist28
- 岩手銀行赤レンガ館 - 清水建設NOVARE Archives 歴史資料館
- https://www.shimzarchives.jp/heritage/heritage_635/
最終更新日: 2026.05.10