本山寺本堂:鎌倉時代の密教建築が息づく四国霊場の国宝

香川県三豊市の穏やかな田園風景の中に佇む本山寺(もとやまじ)本堂は、正安2年(1300年)に建立された鎌倉時代後期の密教仏堂であり、日本の国宝に指定されています。四国八十八箇所霊場の第七十番札所として、多くのお遍路さんや文化財愛好家が訪れるこの寺院は、四国霊場唯一の馬頭観世音菩薩を本尊とする特別な場所です。

弘法大師空海による開創

寺伝によれば、本山寺は大同2年(807年)、平城天皇の勅願により弘法大師空海が開創しました。当時は「長福寺」と称し、空海自らが馬頭観世音菩薩像を刻んで本尊とし、阿弥陀如来と薬師如来を脇侍として安置したと伝えられています。本堂はわずか一夜で建立されたという「一夜建立」の伝説が今も語り継がれており、空海の超人的な力を示す逸話として広く知られています。

中世には24もの塔頭(たっちゅう)を有する四国随一の大寺院として繁栄しましたが、戦国時代の天正年間に長宗我部元親の讃岐侵攻を受け、本堂と仁王門を残して多くの伽藍が焼失しました。江戸時代には生駒氏・京極氏の庇護のもと再興され、天保年間に現在の「本山寺」と改称されました。

本堂の建築と国宝指定

現存する本堂は正安2年(1300年)に再建されたもので、720年以上の歴史を持ちます。大正13年(1924年)4月15日に重要文化財に指定された後、昭和30年(1955年)6月22日に国宝に昇格しました。

建築構造は桁行五間・梁間五間の一重、寄棟造で、屋根は本瓦葺です。正面には三間の向拝(こうはい)が設けられ、参拝者を迎え入れる格調高い外観を見せています。内部は密教寺院特有の構成で、本尊を安置する内陣(ないじん)と参拝者のための外陣(げじん)が明確に区画されています。護摩行や曼荼羅観想など、真言密教の修法に適した空間設計が施されている点が高く評価されています。

附(つけたり)として厨子三基と棟札の部分一枚も国宝に含まれています。厨子は内陣に安置される秘仏を納めるもので、鎌倉時代の優れた工芸技術を今に伝えています。文化庁は本堂について「密教本堂の好例で、意匠面白く、内部厨子も優秀である」と評しています。

建立から700年以上の間に、江戸末期や昭和時代など複数回の修理が行われていますが、躯体となるほとんどの材料は建立当初のものが残されています。傷んだ箇所は伝統技法により新しい木材で継ぎ当てる方法が採られており、歴史的な木造建築の保存技術を目にすることができます。

国宝に指定された理由

本山寺本堂が国宝に指定された背景には、複数の重要な価値が認められています。第一に、鎌倉時代後期の密教本堂として現存する数少ない優品であること。内陣と外陣の明確な区画、均整のとれた寄棟屋根、洗練された意匠など、14世紀の建築技術の高さを如実に示しています。

第二に、内部の厨子三基が卓越した工芸品として認められていること。また、棟札の断片が正安2年の建立年代を裏付ける重要な歴史資料となっています。

本堂は、坂出市の神谷神社本殿とともに香川県内でわずか二棟しかない国宝建造物の一つであり、讃岐地方の中世文化の高さを証明する貴重な存在です。

見どころ

約2万平方メートルの広大な境内には、国宝の本堂を中心として歴史的建造物や信仰の場が数多く並んでいます。

本堂(国宝)

境内の中心に位置する本堂は、参拝者が馬頭観音に祈りを捧げる場です。本尊は秘仏のため通常は公開されていませんが、毎年7月の土用の丑の日に行われる「きゅうり加持」の際には内陣に入ることができます。寄棟造の優雅な屋根、風格ある木造の柱、三間の向拝など、外観からも鎌倉時代の建築美を堪能できます。

仁王門(重要文化財)

境内南側に位置する八脚門で、国指定の重要文化財です。迫力ある仁王像が参拝者を出迎えます。伝統的には、この仁王門をくぐって境内に入るのが正式な参拝順路とされています。

五重塔

四国八十八箇所霊場のうち、竹林寺・志度寺・善通寺と本山寺の4ヶ所にしかない五重塔です。現在の塔は明治43年(1910年)に住職の頼富実毅のもとで再建されたもの。平坦な讃岐平野にそびえ立ち、遠方からでもその姿を望むことができる本山寺のシンボルです。平成31年(2019年)に修理が完了し、令和5年(2023年)11月には中尊である胎蔵大日如来像の新造落慶法要が営まれました。

馬の像と馬頭観音の縁

本堂の近くには馬の像が安置されています。これは本尊の馬頭観音にちなむもので、馬頭観音は頭上に馬頭をいただく忿怒(ふんぬ)の姿をした観音菩薩です。あらゆる生き物、特に動物に対する深い慈悲を象徴しており、遍路道上で馬の像が出迎えてくれるのは本山寺だけの特色です。

太刀受けの阿弥陀如来の伝説

天正年間、長宗我部軍が讃岐に侵攻した際、兵士たちが本堂内で住職を襲いました。その瞬間、脇侍の阿弥陀如来像の右手から血が滴り落ちたと伝えられています。この超常現象に驚いた兵士たちは逃げ去り、本堂は焼失を免れました。この阿弥陀如来像は「太刀受けの阿弥陀」と呼ばれ、今も深い崇敬を集めています。

周辺情報

本山寺は香川県西部の穏やかな田園地帯に位置しており、都市部の観光地とは異なる静かで落ち着いた雰囲気を楽しめます。周辺には以下のような見どころがあります。

  • 弥谷寺(第71番札所):本山寺から北へ約10km、山腹に位置する札所で、讃岐平野を見渡す絶景が楽しめます。
  • 観音寺市・琴弾公園:江戸時代の寛永通宝を模した巨大な砂絵「銭形砂絵」で有名。見ると金運に恵まれるとも言われています。
  • 父母ヶ浜(ちちぶがはま):干潮時に水面に映る空の風景が「日本のウユニ塩湖」として話題の絶景スポットです。
  • 讃岐うどん:香川県はうどんの聖地。本場の讃岐うどんを地元の名店でぜひ味わってください。

アクセス・参拝案内

本山寺は平地に立地しているため、どなたでも参拝しやすい環境です。JR予讃線「本山駅」から徒歩約15分。お車の場合は、高松自動車道「さぬき豊中IC」から国道11号線を観音寺方面へ進み、本山橋北詰の交差点を右折して直進すると五重塔が見えてきます。無料駐車場があり、約30台分のスペースがあります。宿坊はありませんが、近隣の観音寺市内に宿泊施設があります。

Q&A

Q本尊の馬頭観音を拝観することはできますか?
A本尊は秘仏のため通常は非公開です。ただし、毎年7月の土用の丑の日に行われる「きゅうり加持」の際には本堂内陣に入ることができます。
Q拝観料はかかりますか?
A境内の拝観は無料です。本堂の外観や五重塔など、年間を通じて自由に見学できます。
Q高松からのアクセス方法を教えてください。
AJR予讃線で高松駅から松山方面行きに乗車し、本山駅で下車。駅から徒歩約15分です。お車の場合は高松自動車道経由で約1時間です。
Q五重塔の修理は完了していますか?
Aはい。2019年に修理が竣工し、現在は美しい姿を見ることができます。2023年11月には中尊の胎蔵大日如来像の落慶法要も営まれました。
Qお遍路さんでなくても参拝できますか?
Aもちろんです。お遍路さんだけでなく、どなたでも歓迎されています。国宝の本堂、重要文化財の仁王門、五重塔など、日本の歴史・建築・仏教文化に興味のある方にとって大変見ごたえのある場所です。

基本情報

名称 本山寺本堂(もとやまじほんどう)
山号・院号・寺号 七宝山 持宝院 本山寺(しっぽうざん じほういん もとやまじ)
宗派 高野山真言宗
本尊 馬頭観世音菩薩(秘仏)
霊場番号 四国八十八箇所霊場 第七十番札所
建立年 正安2年(1300年)鎌倉時代後期
建築様式 桁行五間・梁間五間、一重、寄棟造、本瓦葺、向拝三間
文化財指定 国宝(昭和30年6月22日指定)/附:厨子三基・棟札の部分一枚
開基 弘法大師空海(大同2年・807年)
所在地 〒769-1506 香川県三豊市豊中町本山甲1445
電話番号 0875-62-2007
アクセス JR予讃線「本山駅」から徒歩約15分
駐車場 あり(無料・約30台)
宿坊 なし

参考文献

本山寺本堂 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/176542
七宝山 持宝院 本山寺 — 四国八十八ヶ所霊場会
https://88shikokuhenro.jp/70motoyamaji/
四国八十八ヶ所霊場第70番札所本山寺 — 三豊市
https://www.city.mitoyo.lg.jp/kakuka/seisaku/sangyo/14_1/2/2510.html
豊中町の文化財 — 三豊市
https://www.city.mitoyo.lg.jp/gyosei/shisetsu/7/6/2925.html
本山寺 (三豊市) — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/本山寺_(三豊市)
Temple 70, Motoyamaji — Tourism SHIKOKU
https://shikoku-tourism.com/en/see-and-do/10851
四国・香川県の名刹「本山寺」で国宝を旅する — VELTRA YOKKA
https://www.veltra.com/jp/yokka/article/sikoku-kagawa-honsenji/

最終更新日: 2026.03.21