堀家時計店:丸亀の街角に息づく昭和初期の看板建築
JR丸亀駅の北東、西平山町の通りに面してひっそりと佇む堀家時計店は、昭和初期に建てられた看板建築様式の貴重な建物です。2005年(平成17年)11月10日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されたこの木造2階建ての建物は、もともと医院として建てられ、後に時計店に転用されました。モルタル塗りの洋風ファサードを持つその姿は、近代化の波が四国の城下町にまで及んだ時代の記憶を今に伝えています。
看板建築とは何か
堀家時計店の魅力を深く理解するためには、「看板建築」という建築様式について知ることが大切です。看板建築とは、木造の建物の正面だけを洋風の意匠で仕上げた商店建築のことで、「看板」のように正面だけが飾られることからこの名が付けられました。
この建築様式は、1923年(大正12年)の関東大震災後の東京で誕生しました。震災で焼け野原となった商店街の復興にあたり、潤沢な資金を持たない個人商店主たちが、木造建築の正面にモルタルや銅板、タイルなどの不燃材を張り、洋風の柱形やコーニス、ペディメントなどの装飾を施すことで、防火性能と近代的な外観を両立させようとしたのです。復興工事を担った大工たちが地方に戻るとともに、この様式は全国に広まりました。堀家時計店は、そうした看板建築が四国・讃岐の城下町にまで波及した証として、建築史的に重要な意味を持っています。
建築の特徴と意匠
堀家時計店は、寄棟造・桟瓦葺の木造2階建てで、建築面積は約125平方メートルです。道路に北面して建ち、正面のファサードはモルタル塗りで仕上げられています。
ファサードにはいくつかの注目すべき意匠が施されています。建物の端部など要所には柱形(ピラスター)が設けられ、ファサード全体に古典的な秩序と均整を与えています。中央の入口は壁面からやや前方に突出し、両脇に柱が建てられることで奥行きと重厚感が演出されています。そして最も印象的なのが、中央の軒上部に設けられたゲーブル状(三角破風状)の装飾です。この小さなペディメントが、洋風建築の格式を凝縮してこの商店建築に冠されており、昭和初期の職人たちの美意識と技術力を感じさせます。
もともと医院として建てられたことから、比較的大きな規模と洗練されたファサード処理がなされています。昭和初期の医院は、信頼感と近代性を建築を通じて表現しようとする傾向がありました。医院から時計店への転用は、看板建築が時代の変化に適応しながら生き残ってきた好例といえるでしょう。
登録有形文化財としての価値
堀家時計店が登録有形文化財に登録された背景には、日本の近代建築遺産を幅広く保存しようという制度上の意義があります。登録有形文化財制度は1996年(平成8年)に導入されたもので、国土開発や都市計画の進展、生活様式の変化などにより、社会的評価を受ける間もなく消滅の危機にさらされている近代の文化財建造物を、届出制と指導・助言を基本とする緩やかな保護措置によって後世に継承していくことを目的としています。
堀家時計店は、四国地方における昭和初期の看板建築の代表的な事例として登録されました。モルタル塗りのファサードに施された柱形やゲーブル状の装飾は、西洋の建築意匠が日本の地方商店街にどのように受容され、解釈されたかを示す貴重な建築史的記録です。
見どころと楽しみ方
建築や都市の歴史に関心のある方にとって、堀家時計店にはいくつかの見どころがあります。最大の特徴は、正面の洗練された洋風ファサードと、側面や裏面に現れる伝統的な木造構造との対比です。この「表と裏の顔」の違いは、看板建築ならではの最も興味深い点であり、堀家時計店でもはっきりと確認することができます。
入口上部のゲーブル装飾は、特に注目すべきディテールです。明治・大正期の壮麗な公共建築を彷彿とさせるペディメントが、商店の軒先に小さくまとめられている様子は、当時の職人の遊び心と技術の確かさを物語っています。
堀家時計店が位置する西平山町界隈は、丸亀駅からほど近い旧来の商業地区にあたります。この周辺を歩くと、江戸時代の城下町計画から明治・大正・昭和にかけての近代化まで、丸亀の都市形成の重層的な歴史を感じることができるでしょう。現役の時計店として今なお営業を続けている点も、この建物が「生きた文化遺産」であることを示しています。
周辺情報
堀家時計店は、丸亀市の文化遺産を巡る散策の起点として理想的な場所にあります。丸亀城は丸亀駅から徒歩約15分の場所に位置し、全国に12しか残されていない現存木造天守の一つを有しています。「扇の勾配」と称される美しい曲線を描く石垣は、総高約60メートルと日本一の高さを誇り、国の重要文化財にも指定されています。
丸亀城内には丸亀市立資料館があり、城の歴史や京極氏にまつわる資料、民具などが展示されています。丸亀駅南口に隣接する丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)は、世界的に活躍した画家・猪熊弦一郎の作品を収蔵する美術館で、建築家・谷口吉生による洗練された建築も見どころです。
また、丸亀は日本の団扇(うちわ)生産の約9割を占める「うちわの街」としても知られています。地元の工房や店舗で伝統的な団扇づくりを見学・体験することもできます。さらに、JR予讃線で約20分の距離にある琴平では、「こんぴらさん」の名で親しまれる金刀比羅宮への参拝も楽しめます。
Q&A
- 看板建築とはどのような建築様式ですか?
- 看板建築は、1923年の関東大震災後の東京で生まれた建築様式です。木造建築の正面だけにモルタルや銅板などの不燃材を張り、洋風の装飾を施すことで、近代的かつ防火的な外観を実現しました。復興に携わった大工たちを通じて全国に広まり、昭和初期の地方商店街にも多く見られるようになりました。
- 堀家時計店の内部を見学できますか?
- 堀家時計店は現役の時計店として営業しています。建築としての主な見どころは外観のファサードであり、公道から自由にご覧いただけます。営業時間中であれば店内に入ることも可能ですが、個人のお店ですので、ご配慮のうえお訪ねください。
- 丸亀駅からのアクセス方法を教えてください。
- JR丸亀駅から徒歩約4分(約250メートル)です。駅を出て北東方向に進み、西平山町の通りに面した場所にあります。
- 見学に入場料はかかりますか?
- 入場料はかかりません。登録有形文化財としての建物の外観は、公道から無料で自由にご覧いただけます。博物館や資料館ではないため、特別な開館時間は設定されていません。
- 丸亀市内で他に見られる文化財はありますか?
- 丸亀市中心部には、昭和初期の商店建築をはじめとする複数の登録有形文化財があります。また、国の重要文化財に指定されている丸亀城の天守は必見です。城下町の歴史的な街並みも含めて、徒歩で巡ることができるコンパクトな文化財散策が楽しめます。
基本情報
| 名称 | 堀家時計店(ほりけとけいてん) |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物)、2005年(平成17年)11月10日登録 |
| 建築年代 | 昭和前期(1926〜1988年) |
| 構造 | 木造2階建、寄棟造、桟瓦葺、正面モルタル塗、建築面積約125㎡ |
| 建築様式 | 看板建築 |
| 当初用途 | 医院(のちに時計店に転用) |
| 所在地 | 香川県丸亀市西平山町98 |
| アクセス | JR丸亀駅より徒歩約4分(約250m) |
| 見学料 | 無料(公道からの外観見学) |
参考文献
- 堀家時計店 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/181256
- 国指定文化財等データベース — 文化庁
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012247
- 登録有形文化財(建造物) — 文化庁
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
- 看板建築 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%8B%E6%9D%BF%E5%BB%BA%E7%AF%89
- 歴史・文化財 — 丸亀市公式ホームページ
- https://www.city.marugame.lg.jp/page/1009.html
- 丸亀城 — 丸亀市観光協会
- https://www.love-marugame.jp/spot/295
最終更新日: 2026.03.26